54 / 55
お花畑のお姫様
しおりを挟む
その後、シオンが泣き止むまで、フローレンスは弱った身体を酷使して一生懸命なだめたのだが、既に体力の限界だったのか、途中で気を失ってしまうと、それに青ざめたシオンが泣きながら大騒ぎしたので、真夜中の邸の中は一時騒然となった。
フローレンスが普通に歩けるようになるまで、シオンは片時も傍を離れなかった。甲斐甲斐しく食事を食べさせ、あれこれと身の回りの世話を焼いた。婚約者なんだからと、一緒のベッドで寝起きも共にしていた。調子の良い時は、一緒に勉強もしたし、読書やゲームをしたりもした。心の通じ合った二人は常にぴったりと寄り添い。今では姉弟と言うより、本当の恋人のようだった。
お見舞いに来てくれたルーナとキャシーに、これまでの話を聞いてもらい、頭を下げて、もう一度友人になってほしいとお願いしたら、「縁を切った覚えはない!」と真っ赤な顔で怒られて三人で泣いた。
「フー、天気がいいから、少し庭に散歩に行かない?」
シオンは、もう姉さんとは呼ばなくなった。
「ここに来るのは久々だわ・・・。見て、私が育てていた野菜畑よ。庭師のおじいさん、私がいなくなってもそのまま育ててくれいてたのね・・・。」
フローレンスは、その場にしゃがみ込み、畑の土を触った。シオンの偏った食生活を何とかしたい一心で庭師に教わりながら野菜を育てていたことが、今では随分前のことに感じる。
「苺の季節は、もう終わっているね。」
シオンが当時を思い出してくすりと笑ったので、フローレンスもつられて笑った。
「私も貴方もまだ子供でね・・・、それでも二人で頑張ったわよね。今考えると、どれもこれも子供が考える浅はかな知恵だったんでしょうけど、二人で協力して何とかここまできたわね!」
「生の人参をどうやって食べるか!とかね。」
フローレンスの畑で収穫した痩せっぽっちの人参をそのままボリボリ食べたことを思い出して、二人は顔を見合わせて笑った。
「結局私、シオンの助けには、あまりなれなかったわね。あんなに困っていたこと全部を、いきなり現れたジルがみーんな解決してしまったんだもの。」
「・・・それでも、僕は、「姉さん」がしてくれたことを何一つ忘れてなんかいないよ?僕を救ってくれたのは姉さんだよ。姉さんがいなかったら、今の僕はいない・・・。もし、姉さんに会えなかったら、僕は一体どんな人間に育ったのか・・・恐ろしくて想像もしたくないや。」
目を閉じて頭を振るシオンに向かいフローレンスは気の毒そうに見つめた。
「シオン、何を言っているの?お人好しにも程があるわよ。私とお母様が来なければ貴方は何不自由なく幸せに暮らせていたのよ?普通の侯爵令息として、何の苦労も知らず立派な青年になっていたに決まっているわ。」
すると、シオンは眉根を寄せると、鋭い視線を向け語気を強めた。
「フーは、何もわかっていない!不自由とか苦労とか、そんなもの僕にとってはどうでもいいことだったんだよ。フーの存在が、フーが傍にいてくれることが、たった一つの僕の幸せだったんだから!! フーは、ずっと僕に謝ってばかりだったけど、僕は継母上に感謝してるんだ。だって、あの人がフーを連れて来てくれたんだから。」
だからフーは駄目なんだ・・・。と、シオンがぶつぶつ文句を言っているのをぽかんと口を開けて黙って見ていたフローレンスが、プッっと噴き出した。
「なに!?」
眉を吊り上げたシオンが、怒った口調で咎めると、今度は声を上げて笑った。
「あの母親にそんなこと言えるなんて、貴方は本当に優しい人ね。ふふっ。
あーあ・・・、せっかく久々に、シオンの 「姉さん」 が聞けたのになぁ・・・、もう、「フー」に戻っちゃった。」
「え?言ってた?」
「ふふふっ、無意識なのね。ちょっと嬉しかったから、たまには「姉さん」って呼んでよね。」
「嫌だよ。僕は、もう弟には戻りたくない。」
ムッとしたシオンを置いて、フローレンスが歩き始めた。
「私は、たまに姉に戻りたいのよ。」
振り返ったフローレンスは、にっこり微笑んだ。陽の光を背に受け、美しい花々に囲まれたフローレンスは、まるで花の妖精のように美しかった。
「【フローレンス】よ? ねえ、どう思う? お花畑のお姫様みたいな名前だと思わない?」
思い出したシオンがくすりと笑うと、こちらを見たフローレンスが不思議そうに小首をかしげた。
「いや、フーがあんまり綺麗だから、お花畑のお姫様に見えただけだよ。」
END
※次回、彼らのその後をお伝えして終わりたいと思います。
フローレンスが普通に歩けるようになるまで、シオンは片時も傍を離れなかった。甲斐甲斐しく食事を食べさせ、あれこれと身の回りの世話を焼いた。婚約者なんだからと、一緒のベッドで寝起きも共にしていた。調子の良い時は、一緒に勉強もしたし、読書やゲームをしたりもした。心の通じ合った二人は常にぴったりと寄り添い。今では姉弟と言うより、本当の恋人のようだった。
お見舞いに来てくれたルーナとキャシーに、これまでの話を聞いてもらい、頭を下げて、もう一度友人になってほしいとお願いしたら、「縁を切った覚えはない!」と真っ赤な顔で怒られて三人で泣いた。
「フー、天気がいいから、少し庭に散歩に行かない?」
シオンは、もう姉さんとは呼ばなくなった。
「ここに来るのは久々だわ・・・。見て、私が育てていた野菜畑よ。庭師のおじいさん、私がいなくなってもそのまま育ててくれいてたのね・・・。」
フローレンスは、その場にしゃがみ込み、畑の土を触った。シオンの偏った食生活を何とかしたい一心で庭師に教わりながら野菜を育てていたことが、今では随分前のことに感じる。
「苺の季節は、もう終わっているね。」
シオンが当時を思い出してくすりと笑ったので、フローレンスもつられて笑った。
「私も貴方もまだ子供でね・・・、それでも二人で頑張ったわよね。今考えると、どれもこれも子供が考える浅はかな知恵だったんでしょうけど、二人で協力して何とかここまできたわね!」
「生の人参をどうやって食べるか!とかね。」
フローレンスの畑で収穫した痩せっぽっちの人参をそのままボリボリ食べたことを思い出して、二人は顔を見合わせて笑った。
「結局私、シオンの助けには、あまりなれなかったわね。あんなに困っていたこと全部を、いきなり現れたジルがみーんな解決してしまったんだもの。」
「・・・それでも、僕は、「姉さん」がしてくれたことを何一つ忘れてなんかいないよ?僕を救ってくれたのは姉さんだよ。姉さんがいなかったら、今の僕はいない・・・。もし、姉さんに会えなかったら、僕は一体どんな人間に育ったのか・・・恐ろしくて想像もしたくないや。」
目を閉じて頭を振るシオンに向かいフローレンスは気の毒そうに見つめた。
「シオン、何を言っているの?お人好しにも程があるわよ。私とお母様が来なければ貴方は何不自由なく幸せに暮らせていたのよ?普通の侯爵令息として、何の苦労も知らず立派な青年になっていたに決まっているわ。」
すると、シオンは眉根を寄せると、鋭い視線を向け語気を強めた。
「フーは、何もわかっていない!不自由とか苦労とか、そんなもの僕にとってはどうでもいいことだったんだよ。フーの存在が、フーが傍にいてくれることが、たった一つの僕の幸せだったんだから!! フーは、ずっと僕に謝ってばかりだったけど、僕は継母上に感謝してるんだ。だって、あの人がフーを連れて来てくれたんだから。」
だからフーは駄目なんだ・・・。と、シオンがぶつぶつ文句を言っているのをぽかんと口を開けて黙って見ていたフローレンスが、プッっと噴き出した。
「なに!?」
眉を吊り上げたシオンが、怒った口調で咎めると、今度は声を上げて笑った。
「あの母親にそんなこと言えるなんて、貴方は本当に優しい人ね。ふふっ。
あーあ・・・、せっかく久々に、シオンの 「姉さん」 が聞けたのになぁ・・・、もう、「フー」に戻っちゃった。」
「え?言ってた?」
「ふふふっ、無意識なのね。ちょっと嬉しかったから、たまには「姉さん」って呼んでよね。」
「嫌だよ。僕は、もう弟には戻りたくない。」
ムッとしたシオンを置いて、フローレンスが歩き始めた。
「私は、たまに姉に戻りたいのよ。」
振り返ったフローレンスは、にっこり微笑んだ。陽の光を背に受け、美しい花々に囲まれたフローレンスは、まるで花の妖精のように美しかった。
「【フローレンス】よ? ねえ、どう思う? お花畑のお姫様みたいな名前だと思わない?」
思い出したシオンがくすりと笑うと、こちらを見たフローレンスが不思議そうに小首をかしげた。
「いや、フーがあんまり綺麗だから、お花畑のお姫様に見えただけだよ。」
END
※次回、彼らのその後をお伝えして終わりたいと思います。
11
あなたにおすすめの小説
チョイス伯爵家のお嬢さま
cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。
ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。
今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。
産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。
4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。
そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。
婚約も解消となってしまいます。
元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。
5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。
さて・・・どうなる?
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている
おのまとぺ
恋愛
公爵令息ルシアン・ド・ラ・パウルはいつだって王国の令嬢たちの噂の的。見目麗しさもさることながら、その立ち居振る舞いの上品さ、物腰の穏やかさに女たちは熱い眼差しを向ける。
しかし、彼の裏の顔を知る者は居ない。
男爵家の次女マリベルを除いて。
◇素直になれない男女のすったもんだ
◇腐った令嬢が登場したりします
◇50話完結予定
2025.2.14
タイトルを変更しました。(完結済みなのにすみません、ずっとモヤモヤしていたので……!)
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版
まほりろ
恋愛
国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。
食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。
しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。
アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。
その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。
ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。
※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日
※長編版と差し替えました。2025年7月2日
※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる