意地悪な姉は 「お花畑のお姫様」

岬 空弥

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お花畑のお姫様

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 その後、シオンが泣き止むまで、フローレンスは弱った身体を酷使して一生懸命なだめたのだが、既に体力の限界だったのか、途中で気を失ってしまうと、それに青ざめたシオンが泣きながら大騒ぎしたので、真夜中の邸の中は一時騒然となった。


 フローレンスが普通に歩けるようになるまで、シオンは片時も傍を離れなかった。甲斐甲斐しく食事を食べさせ、あれこれと身の回りの世話を焼いた。婚約者なんだからと、一緒のベッドで寝起きも共にしていた。調子の良い時は、一緒に勉強もしたし、読書やゲームをしたりもした。心の通じ合った二人は常にぴったりと寄り添い。今では姉弟と言うより、本当の恋人のようだった。

お見舞いに来てくれたルーナとキャシーに、これまでの話を聞いてもらい、頭を下げて、もう一度友人になってほしいとお願いしたら、「縁を切った覚えはない!」と真っ赤な顔で怒られて三人で泣いた。

「フー、天気がいいから、少し庭に散歩に行かない?」

シオンは、もう姉さんとは呼ばなくなった。

「ここに来るのは久々だわ・・・。見て、私が育てていた野菜畑よ。庭師のおじいさん、私がいなくなってもそのまま育ててくれいてたのね・・・。」

フローレンスは、その場にしゃがみ込み、畑の土を触った。シオンの偏った食生活を何とかしたい一心で庭師に教わりながら野菜を育てていたことが、今では随分前のことに感じる。

「苺の季節は、もう終わっているね。」

シオンが当時を思い出してくすりと笑ったので、フローレンスもつられて笑った。

「私も貴方もまだ子供でね・・・、それでも二人で頑張ったわよね。今考えると、どれもこれも子供が考える浅はかな知恵だったんでしょうけど、二人で協力して何とかここまできたわね!」

「生の人参をどうやって食べるか!とかね。」

フローレンスの畑で収穫した痩せっぽっちの人参をそのままボリボリ食べたことを思い出して、二人は顔を見合わせて笑った。

「結局私、シオンの助けには、あまりなれなかったわね。あんなに困っていたこと全部を、いきなり現れたジルがみーんな解決してしまったんだもの。」

「・・・それでも、僕は、「姉さん」がしてくれたことを何一つ忘れてなんかいないよ?僕を救ってくれたのは姉さんだよ。姉さんがいなかったら、今の僕はいない・・・。もし、姉さんに会えなかったら、僕は一体どんな人間に育ったのか・・・恐ろしくて想像もしたくないや。」

目を閉じて頭を振るシオンに向かいフローレンスは気の毒そうに見つめた。

「シオン、何を言っているの?お人好しにも程があるわよ。私とお母様が来なければ貴方は何不自由なく幸せに暮らせていたのよ?普通の侯爵令息として、何の苦労も知らず立派な青年になっていたに決まっているわ。」

すると、シオンは眉根を寄せると、鋭い視線を向け語気を強めた。

「フーは、何もわかっていない!不自由とか苦労とか、そんなもの僕にとってはどうでもいいことだったんだよ。フーの存在が、フーが傍にいてくれることが、たった一つの僕の幸せだったんだから!! フーは、ずっと僕に謝ってばかりだったけど、僕は継母上に感謝してるんだ。だって、あの人がフーを連れて来てくれたんだから。」

だからフーは駄目なんだ・・・。と、シオンがぶつぶつ文句を言っているのをぽかんと口を開けて黙って見ていたフローレンスが、プッっと噴き出した。

「なに!?」

眉を吊り上げたシオンが、怒った口調で咎めると、今度は声を上げて笑った。

「あの母親にそんなこと言えるなんて、貴方は本当に優しい人ね。ふふっ。
あーあ・・・、せっかく久々に、シオンの 「姉さん」 が聞けたのになぁ・・・、もう、「フー」に戻っちゃった。」

「え?言ってた?」

「ふふふっ、無意識なのね。ちょっと嬉しかったから、たまには「姉さん」って呼んでよね。」

「嫌だよ。僕は、もう弟には戻りたくない。」

ムッとしたシオンを置いて、フローレンスが歩き始めた。

「私は、たまに姉に戻りたいのよ。」

振り返ったフローレンスは、にっこり微笑んだ。陽の光を背に受け、美しい花々に囲まれたフローレンスは、まるで花の妖精のように美しかった。



「【フローレンス】よ? ねえ、どう思う? お花畑のお姫様みたいな名前だと思わない?」

思い出したシオンがくすりと笑うと、こちらを見たフローレンスが不思議そうに小首をかしげた。


「いや、フーがあんまり綺麗だから、お花畑のお姫様に見えただけだよ。」


END       







※次回、彼らのその後をお伝えして終わりたいと思います。
 
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