花言葉は「私のものになって」

岬 空弥

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失わない為に

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「それで?あの、私はいつ辺境地に行けるのでしょう。アーレン閣下とは、その、近しい方なのですか? そうだ、お父様!私、ちょっと荷造りをしてまいりますわ。はっ!!お母さまにもすぐ報告しなくては! ああ、忙しいわ!どうしましょう!!」

 私が、ほんのりと頬を赤く染めて、勇んで立ち上がると、なぜかお父様に落ち着くように呼び止められました。
スワルス様は、目を閉じて腕組みをしていますが、考え事でしょうか? お姉様がそんなスワルス様を横目で見ながら、なぜか勝ち誇ったような薄ら笑いを浮かべています。

「ユニ、お前はまだアレイド君の婚約者だろう?婚約者がいるのに他の人に会いには行けないよ。この先どうするのか決めるのは、もちろんお前だけど、相手のいる話だ、ちゃんと慎重に考えなさい。ただ、今回こんな大きな騒ぎを起こしてしまったからな、さすがにこのままと言うわけにはいかない。伯爵家でも、これからはお前の気持ちを優先してくれるだろう。取りあえず、私が明日にでも伯爵家に行って話してくるから、お前はもう休みなさい。さすがに今日は疲れただろう。」

 そう促された私は、渋々自分の部屋に戻りましたが、その後もお父様とスワルス様、お姉様の三人は、なにやら夜遅くまで三人で話し合っていたそうです。そんなことなど全く知らない私は、学園での出来事などすっかり頭の隅に追いやってしまい、アーレン閣下に会えるかもしれないという期待と興奮で眠れない夜を過ごすことになったのでした。


***

「アレイド、お前は本当に・・・なぜ、こんなことになっているんだ・・・。」

 事件を起こしたその日に、アレイドは即刻、停学処分を受け、強制的に邸に返されることになった。
戻った時には、既に学園からの連絡が入っていたらしく、アレイドは帰宅するなり父親の執務室に呼ばれた。改めてアレイドから詳しい事情を聴いたカドワーズ伯爵は、心底困り果てた顔をして、大きな溜息を吐いた。

「・・・すみません。」

「こんなにしてしまったら、いくらお前の頼みと言えども、これ以上ユニーナを引き留めることは難しいぞ・・・。」

「っ!! そんなっ!! ですが!!」

「アレイド、いままで時間はたくさんあった。嫌がる彼女を騙し騙しここまで付き合わせてしまったんだ。男爵からも、婚約解消の相談を何度も受けたし、お前だってユニーナ本人から直接言われていたんだろう?会う回数も増やしたし、チャンスはたくさん与えたはずなのに・・・。残念だが、もう諦めることも考えなさい。」

もう無理だと言うように、軽く首を振ったカドワーズ伯爵は、言われたことが信じられないとばかりに呆然と目を見開いているアレイドと視線を合わせた。

「いっ、いやだ!!諦められない。婚約は続けます。どうしても彼女じゃなきゃ駄目なんです。僕はユニーナしか愛せません。ユニーナには、何度も話をしたいと言いました。・・・何度も話をしようと思ったけど、何度も何度も話しかけたけど・・・僕が何度も何度も・・・。なのに、いくら話かけても彼女は、僕の話なんて聞いてくれない・・・。」

目に溜まった涙が零れてしまわないように、アレイドは、膝に置いた拳を握り締め、歯を食いしばっていた。そんな息子の傍で一緒に話を聞いていた母親は、キッと厳しい視線をアレイドに向けると、冷たい口調で詰問してきた。

「アレイド。 貴方、どうしてユニーナを他の令嬢達から守らなかったの?聞けば、ユニーナが中傷されていたのは今回だけじゃないって話でしたよ?愛されていない婚約者はさっさと身を引けと何人もの令嬢達に再三言われていたそうね!?そして、その場には、いつもあなたも居たという話でしたよ!?ねえ、これは一体どうゆう事なの?貴方は他の女性に囲まれて、彼女達と一緒になってユニーナを罵倒していたってことなの!?」

「ちがっ、違うんです!!僕は何も言わない・・・それは・・・ただ・・・。」

「アレイド!! 貴方、ユニーナが他の令嬢に手を上げられて何も感じなかったの!?」

「くっ!!」

眉間に皺を寄せて、強く唇を引き結んだアレイドが、懸命に堪えていた涙を零すと、怒りで我を忘れそうになっていた母親は、目の前に居るあまりにも情けない息子を前に、何も言えなくなってしまうのだった。

静まり返った部屋の中では、アレイドの鼻をすする音だけが聞こえていた。そんな二人の沈黙を破ったのは父親だった。

「アレイド、お前にどんな理由があったとしても、今回、私達はユニーナの気持ちを尊重するからそのつもりでいろ。それがどんな結果になっても、お前は黙って受け入れるんだ。」

「そんな・・・父上、どうか、どうかもう一度チャンスを・・・。もう一度だけお願いします。ユニーナは婚約を解消したがっています。このままでは彼女を失ってしまう・・・。お願いです。僕にも男爵と話をさせてください。」

涙を流しながら、床に崩れ落ちてまで頭を下げるアレイドに、彼の両親はもう目を合わせることができなかった。

「どうか、どうかもう一度だけ、お願いします。・・・お願いします。・・・次は決して間違えません・・・だから・・・どうか・・・。」

頭を下げ続けるアレイドを前に、伯爵は自分の額に手を当てて目を閉じたまま言った。

「・・・明日、バーナーズ男爵がここに来る。話を聞いてくれるかどうかはわからないが、そこでもう一度ちゃんと頭を下げなさい。」

話しを終え、アレイドが部屋に戻ると、夫妻はお互いの顔を見合わせて深い溜息を吐いた。

「あの子・・・他のことはなんでも器用にこなすのに、どうしてユニーナに関してだけこんなに不器用になってしまうのかしら・・・。」

「この話になると、あいつの精神年齢は、まるで幼児並みだな。」

「明日、バーナーズ男爵が、なんとかあの子の話を聞いてくれるといいのですが・・・。」

「そうだな。男爵もアレイドの気持ちは理解してくれているから、まあ、話は聞いてくれると思うが、当のユニーナ本人がアレイドを全く受け入れてくれないからなぁ。」

二人は、疲れた様子でソファーに深く座り、もう一度深い溜息を吐くのだった。

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