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父の言う政治的理由とは?
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「お言葉ですが父上、我が公爵家ならば、姉上に政略結婚などさせる必要はないのではありませんか?今までは姉上自身が、殿下に嫁ぎたいと頑張っていましたから、私達家族も応援していましたが、本人がやめたいと言うのであれば、無理に婚約者候補を続けさせる意味はないと思います。それに、政略結婚はわかりますが、愛情もないのに王家に嫁ぐというのは、精神的負担が大きすぎるかと思います。姉上が辛すぎるのではありませんか?」
「ああ、確かに我が家は、これ以上の権力も財力も必要ないだろうな。」
ここで、初めてロゼット公爵は、書類から顔を上げ、感情の読み取れない瞳で、二人の子供を交互に見据えた。
「でしたら、姉上のお気持ち―――」
「原因は、どこぞの弱小貴族か?」
突然の父の言葉に、レナートもエステルダも面食らって言葉が出てこなかった。
「レナート、何故お前も一緒に呼ばれたのか、これで分かっただろう?」
「・・・何をご存知なのですか?」
「全てだ。」
「お父様、そこまで分かっていらっしゃるなら、」
「駄目だ。」
「なぜです!?父上!! 我が家が少し援助するだけで彼らはこれまで通り貴族でいられます。父上が全て知っていると言うのでしたら、姉弟が決して容姿だけではなく、あらゆる面でとても優秀だということもご存知のはずです。そこに私と姉上が加われば、いくらでも先の見通しは立つはずです。」
レナートがこのように、語気を強めて父親に意見したことなど、今まで一度もないことであった。彼は元騎士であった父親を尊敬していたし、文武両道である父の言う事は、常に正しく、間違いなどある訳がないと思い込んでいたのだから。だが、今回のナーザス子爵家に関してだけは、いくら尊敬する父の言う事でも納得するわけにはいかないのだ。
なんとか自分達の気持ちを認めてもらおうと、必死に食らい付いて行くレナートであったが、父親であるロゼット公爵は、何も言わずに感情のない目を向けるだけであった。
「お父様、駄目だとおっしゃるなら、きちんとその理由も教えてくださいませ。これでは、わたくしもレナートも納得しかねます。」
確かに自分勝手な事を言っているという自覚はエステルダにもある。自分がアランド殿下に勝手に恋心を抱き、どうしても殿下の婚約者になりたい一心で、家の権力を使い、有利に話を進めようと父にお願いしたこともあった。それが、他に好きな人が現れたからと言って、やっぱりなかったことにしたいなどと、そんな簡単な話ではないことも分かっている。
しかし、諦めて王家に嫁ぐにしても、会話にもならない今の状態では納得しようにも無理がある。自分が関わっているのは、王家と言う面倒な相手の為、最悪泣き寝入りもあるかもしれない、しかし、レナートとアリッサの場合は、そこまで頭ごなしに否定することもないのではないかと思った。
しかし、レナートとエステルダがここまで真剣に説明を求めたと言うのに、父親から返って来た言葉は、「政治的理由」と言う、たった一言のあまりに心無いものだった。
「父上!! それでは姉上は、このまま愛してもいない殿下に嫁ぎ、夫の愛も受けられないまま、ひたすら国に尽くす人生を送れというのですか!?」
レナートの怒号が部屋に響き渡ったが、そんなレナートなど、まるで意に介さないかのように、ロゼット公爵の声は落ち着いていた。
「エステルダが殿下の婚約者候補から外れたいというなら、それは別に構わない。先ほども言ったように、我が公爵家はお前達に政略結婚をさせる必要などない。」
「へ?」
「は!? だったら政治的理由とは一体・・・。」
「ナーザス子爵家の姉弟だけは駄目だと言っている。」
「なっ!! 父上、それでは―――」
「レナート、この話はこれで終わりだ。それと、エステルダ、お前が殿下の婚約者候補から降りることは、私から国王に伝えておく。他に婚約したい者がいないのなら、私の方で何人か厳選しておこう。 レナート、お前はクラベス伯爵家のミスティナとの婚約話を進めるからそのつもりで。」
「なんて理不尽な・・・。まさか、父上があそこまで話の分からない人間だったなんて・・・。」
がっくりと肩を落として、信じられない・・・と、レナートは頭を抱えていた。そんな弟の姿を、エステルダは疲れたように椅子に腰かけながら力なく見ていた。
だが、そんな彼女も、目の前で項垂れている弟と、それほど気持ちに大差はなかった。
先ほどの話し合いにおいて、どれほど二人が父を説得しようとしても、父は駄目だの一点張りで、結局意味の分からない政治的理由の内容も説明せず、息子の意見も、娘の気持ちも一切聞き入れようとしなかったのだ。
普段の知的な父親からは想像もできない、あまりに乱暴な話の進め方に、レナートもエステルダもこれが本当に自分の父親なのかと不信感を覚える程、父の意思は頑なで、それでいて、どこか幼稚にも見えるのだった。
そうして二人が途方に暮れている中、ドアのノックと共に食事の時間を知らせる母の声が聞こえてきた。
なぜ母が?と、二人は顔を見合わせた後、エステルダがどうぞと声をかける。
「あらあら、二人共、随分と元気がないようですね。」
そう言って部屋に入って来た母は、にこにこと微笑みながら、二人の側のソファーにちょこんと座ったのだった。
「ああ、確かに我が家は、これ以上の権力も財力も必要ないだろうな。」
ここで、初めてロゼット公爵は、書類から顔を上げ、感情の読み取れない瞳で、二人の子供を交互に見据えた。
「でしたら、姉上のお気持ち―――」
「原因は、どこぞの弱小貴族か?」
突然の父の言葉に、レナートもエステルダも面食らって言葉が出てこなかった。
「レナート、何故お前も一緒に呼ばれたのか、これで分かっただろう?」
「・・・何をご存知なのですか?」
「全てだ。」
「お父様、そこまで分かっていらっしゃるなら、」
「駄目だ。」
「なぜです!?父上!! 我が家が少し援助するだけで彼らはこれまで通り貴族でいられます。父上が全て知っていると言うのでしたら、姉弟が決して容姿だけではなく、あらゆる面でとても優秀だということもご存知のはずです。そこに私と姉上が加われば、いくらでも先の見通しは立つはずです。」
レナートがこのように、語気を強めて父親に意見したことなど、今まで一度もないことであった。彼は元騎士であった父親を尊敬していたし、文武両道である父の言う事は、常に正しく、間違いなどある訳がないと思い込んでいたのだから。だが、今回のナーザス子爵家に関してだけは、いくら尊敬する父の言う事でも納得するわけにはいかないのだ。
なんとか自分達の気持ちを認めてもらおうと、必死に食らい付いて行くレナートであったが、父親であるロゼット公爵は、何も言わずに感情のない目を向けるだけであった。
「お父様、駄目だとおっしゃるなら、きちんとその理由も教えてくださいませ。これでは、わたくしもレナートも納得しかねます。」
確かに自分勝手な事を言っているという自覚はエステルダにもある。自分がアランド殿下に勝手に恋心を抱き、どうしても殿下の婚約者になりたい一心で、家の権力を使い、有利に話を進めようと父にお願いしたこともあった。それが、他に好きな人が現れたからと言って、やっぱりなかったことにしたいなどと、そんな簡単な話ではないことも分かっている。
しかし、諦めて王家に嫁ぐにしても、会話にもならない今の状態では納得しようにも無理がある。自分が関わっているのは、王家と言う面倒な相手の為、最悪泣き寝入りもあるかもしれない、しかし、レナートとアリッサの場合は、そこまで頭ごなしに否定することもないのではないかと思った。
しかし、レナートとエステルダがここまで真剣に説明を求めたと言うのに、父親から返って来た言葉は、「政治的理由」と言う、たった一言のあまりに心無いものだった。
「父上!! それでは姉上は、このまま愛してもいない殿下に嫁ぎ、夫の愛も受けられないまま、ひたすら国に尽くす人生を送れというのですか!?」
レナートの怒号が部屋に響き渡ったが、そんなレナートなど、まるで意に介さないかのように、ロゼット公爵の声は落ち着いていた。
「エステルダが殿下の婚約者候補から外れたいというなら、それは別に構わない。先ほども言ったように、我が公爵家はお前達に政略結婚をさせる必要などない。」
「へ?」
「は!? だったら政治的理由とは一体・・・。」
「ナーザス子爵家の姉弟だけは駄目だと言っている。」
「なっ!! 父上、それでは―――」
「レナート、この話はこれで終わりだ。それと、エステルダ、お前が殿下の婚約者候補から降りることは、私から国王に伝えておく。他に婚約したい者がいないのなら、私の方で何人か厳選しておこう。 レナート、お前はクラベス伯爵家のミスティナとの婚約話を進めるからそのつもりで。」
「なんて理不尽な・・・。まさか、父上があそこまで話の分からない人間だったなんて・・・。」
がっくりと肩を落として、信じられない・・・と、レナートは頭を抱えていた。そんな弟の姿を、エステルダは疲れたように椅子に腰かけながら力なく見ていた。
だが、そんな彼女も、目の前で項垂れている弟と、それほど気持ちに大差はなかった。
先ほどの話し合いにおいて、どれほど二人が父を説得しようとしても、父は駄目だの一点張りで、結局意味の分からない政治的理由の内容も説明せず、息子の意見も、娘の気持ちも一切聞き入れようとしなかったのだ。
普段の知的な父親からは想像もできない、あまりに乱暴な話の進め方に、レナートもエステルダもこれが本当に自分の父親なのかと不信感を覚える程、父の意思は頑なで、それでいて、どこか幼稚にも見えるのだった。
そうして二人が途方に暮れている中、ドアのノックと共に食事の時間を知らせる母の声が聞こえてきた。
なぜ母が?と、二人は顔を見合わせた後、エステルダがどうぞと声をかける。
「あらあら、二人共、随分と元気がないようですね。」
そう言って部屋に入って来た母は、にこにこと微笑みながら、二人の側のソファーにちょこんと座ったのだった。
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