簡単なお仕事です!〜25人の優しい同意者〜

チェンユキカ

文字の大きさ
1 / 4

依頼は突然に

しおりを挟む
スイミングスクールの観覧席はなんでこんなに過ごしづらいのか。
プールサイドに後付けで作られたスペースなので空調は効いておらず、ガラス窓からプール側の熱気が伝わり、季節を問わず蒸し暑い。
時折、ビート板を抱えて目の前を通る我が子に手を振りながら、毎回レッスンが終わるのを今か今かと待っている。

「あ、見て。あのおばさん!」
隣のママ友グループの1人が話し出した。狭い観覧席内では、他の保護者たちの会話が筒抜けだ。
「歩くたびに波作ってる!凄いよね、あの体型で。私ならプールに入りたくもないわ」
彼女たちの会話に釣られてふと、キッズスイミングの奥、一般会員用のコースに目をやると、つい先程、更衣室で見かけたふくよかなマダムが、水中ウォーキングをしている姿が目に入った。
恐ろしいことに、このふくよかなマダムに「幾つなっても健康の為に気を使っているなんて尊敬します!」と言っていたのも、同じママ友グループなのだ。
マダムが観覧席の会話を耳にすることはないが、よくもまあ、こんな真逆のことを言えるもんだ。
もし私がここの会員になっても、キッズスイミングと同じ時間帯には絶対に泳ぎたくない。

そんなことを思っていると、手元のスマホに一件の通知が来た。

『クライアントから契約の相談が届きました!』

クラウドソーシングサービスからの通知だった。
妊娠を機に仕事を辞め、出産までの間に小遣い稼ぎ程度に活用したが、子育てに手一杯の最近では、単価数十円のアンケートに答えるくらいしかしていなかったのだが。
どのクライアントの、どんな求人だろうと詳細をクリックすると、ずいぶん前にエントリーした、大手SNSサービスを手掛ける会社のものだった。

『簡単なお仕事です!

業務内容:当社SNSサービスを利用した他ユーザーとの交流

募集人員:25名(当社の求める人物像にマッチする方)

契約期間:原則1年間

報酬:当社規定による

採用条件等:契約成立以降守秘義務遵守』

これは、求められている25人に該当したと言うことだろうか。

クライアントからのメッセージを開くと、『この度は当社の求人にご応募いただきありがとうございます。契約条件等をお話しさせていただきたいので、依頼を請け負っていただけるかご連絡ください。』とあったので、お引き受けいたします、と返信を送った。
するとすぐに新たなメッセージが送られたきた。

『この度は依頼をお引き受けくださりありがとうございます。本案件はとても簡単なお仕事です。25名の皆様に、当社のリリースしているSNSサービスをご利用いただきます。ご利用いただく際のアカウントは既にこちらで準備しておりますので、後ほど引き継ぎいたします。皆様には各自アカウントの運用をお願いいたします。ただし、いくつか条件があります。当社が指定したユーザーに関して、同意する内容のリプライを必ず送っていただきます。』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...