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第一章
5、転がり込んじゃえ
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生霊騒ぎが終息した翌日、アカデミーから早めに帰ってきた俺は陛下の執務室へと向かった。父である陛下と一対一で会うのは今だに気まずい。入室後、セガール兄上の姿を見つけて安堵した。
「フィル、よくやってくれた」
「いえ……」
陛下に褒められるとくすぐったいようなもやもやするような。変な気分になって感情の置き場に少し困ってしまう。
陛下は夜這い生霊の犯人がアンドレアスだと知ってどう思っただろうか。以前から愚息だったとはいえ、まさか血の繋がった兄を夜這いしているとは思わなかったはず。今も眉間を揉みながら「はあ……」と重い溜息を漏らしている。
「……アンドレアス兄上はこの先どうなりますか?」
「あやつなら魔力を無くすために専用監獄に入れた。厳しい処分を考えている」
魔力持ち専用の監獄には、魔力を食糧とする稀少な魔獣バクが飼育されている。彼らに魔力を吸われ続けると、体内の魔力は枯れ果てて二度と魔力を生成することができなくなってしまうという。つまり、魔法の使えない『普通の人』となるのだ。
「せっかく授かった魔力もあんな事にしか使えないのなら無い方がマシだろう」
俺もそう思う。このまま僻地にでも行ってくれたらセガール兄上も安心して過ごせるんじゃないかな。
「――ところで、褒美について考えたか?」
陛下は疲れた顔に笑みを浮かべて俺の返事を待っている。そうだった、褒美のことをすっかり忘れてた。元々物欲もないし何にしたらよいものか。
「昨日の今日でまだ……」
「そうか。なんでもいい、じっくり考えなさい」
「はい」
昨夜は薄暗い離宮に戻った後、生霊を思い出してなかなか寝付くことができなかった。寝不足気味で元気のない俺の顔をセガール兄上は心配そうに覗き込んだ。
「眠れなかったの? 酷いクマだよ」
「はい。人生初の生霊でしたから。ちょっと……」
その生霊に人生で初めてのことをされてしまった……。オーティスの熱を含んだ目を思い出して体が熱くなる。というか、生霊にあんなことをされたのはオーティスのせいだよな。すぐに魔法紐を使ってくれてたら俺の大事な所は辱めを受けずに済んだんだ。
(オーティスめ……)
その時、とんでもなく自分に都合の良いことを思いついてしまった。そうだ、褒美はこれにしよう。ふふふっと不敵な笑みを浮かべた。
「陛下、褒美を決めました!」
「申してみよ」
「俺、大魔法師オーティス・サンドリッチの屋敷でお世話になりたいです!」
陛下がぽかんと目を丸くする。俺の横でふっと兄上が吹き出した。
「どうしてオーティスの屋敷に?」
この兄はすでに俺の真意を見抜いているのか、クスクス笑いながら問いかけてくる。
「恥ずかしながら、昨夜間近で見た生霊がとても恐ろしくて安心して眠ることができませんでした。一度でも霊を見た者は霊感が強くなると言いますし、他の霊を引き寄せるとも聞いたことがあります」
ふむふむと真剣に耳を傾けてくれる陛下には悪いけど、これ全部たった今俺が考えたデタラメだから。
「ソードマスターであっても霊の類を斬ることはできませんが、オーティスはそれらに対抗する力を持った希代の大魔法師です。彼のそばならどんな悪霊に狙われたとしても安全でしょう。まずは生霊によって乱された心を落ち着かせたいのです」
力無く下を向いて、陛下の同情心を煽ってみる。
ヘタレだと思われてもいいよ。大嫌いなこの場所とおさらばする絶好の機会なんだ。ついでにオーティスと一つ屋根の下で暮らせるビッグチャンスが手に入るなら臭い演技だってしてやるさ。
「陛下、今回の事は僕に責任があります。フィルは将来優秀な騎士になるでしょう。霊に対する恐怖が輝かしい未来の妨げにならぬよう、今は彼の心の安寧を優先すべきかと思います。陛下の勅命ならばオーティスも納得するでしょうし、僕からも話をしてみます」
(兄上ぇ~! ナイスフォロー感謝します!)
片目をパチンと瞬かせるセガール兄上が眩しい。
「物は欲しくないのか?」
「いりません」
「分かった。書状を準備しておこう」
「ありがとうございます! ではこの後すぐにサンドリッチ侯爵邸に向かいます」
「この後……すぐ?」
「はいっ!」
喜色満面な俺の答えに対して、陛下から本日二度目のぽかんを頂きました。隣で兄上がクククッと笑いをこらえている。
「では、僕もオーティスに伝書を送るよ」
「ありがとうございます兄上!」
小賢しい手を使いはしたけれど、今夜から憧れのオーティスと同じ屋根の下で暮らせるんだ。奇跡のような展開に胸が弾む。
ただ、オーティスの気持ちを無視して決めてしまったけど大丈夫かな……。
「フィル、よくやってくれた」
「いえ……」
陛下に褒められるとくすぐったいようなもやもやするような。変な気分になって感情の置き場に少し困ってしまう。
陛下は夜這い生霊の犯人がアンドレアスだと知ってどう思っただろうか。以前から愚息だったとはいえ、まさか血の繋がった兄を夜這いしているとは思わなかったはず。今も眉間を揉みながら「はあ……」と重い溜息を漏らしている。
「……アンドレアス兄上はこの先どうなりますか?」
「あやつなら魔力を無くすために専用監獄に入れた。厳しい処分を考えている」
魔力持ち専用の監獄には、魔力を食糧とする稀少な魔獣バクが飼育されている。彼らに魔力を吸われ続けると、体内の魔力は枯れ果てて二度と魔力を生成することができなくなってしまうという。つまり、魔法の使えない『普通の人』となるのだ。
「せっかく授かった魔力もあんな事にしか使えないのなら無い方がマシだろう」
俺もそう思う。このまま僻地にでも行ってくれたらセガール兄上も安心して過ごせるんじゃないかな。
「――ところで、褒美について考えたか?」
陛下は疲れた顔に笑みを浮かべて俺の返事を待っている。そうだった、褒美のことをすっかり忘れてた。元々物欲もないし何にしたらよいものか。
「昨日の今日でまだ……」
「そうか。なんでもいい、じっくり考えなさい」
「はい」
昨夜は薄暗い離宮に戻った後、生霊を思い出してなかなか寝付くことができなかった。寝不足気味で元気のない俺の顔をセガール兄上は心配そうに覗き込んだ。
「眠れなかったの? 酷いクマだよ」
「はい。人生初の生霊でしたから。ちょっと……」
その生霊に人生で初めてのことをされてしまった……。オーティスの熱を含んだ目を思い出して体が熱くなる。というか、生霊にあんなことをされたのはオーティスのせいだよな。すぐに魔法紐を使ってくれてたら俺の大事な所は辱めを受けずに済んだんだ。
(オーティスめ……)
その時、とんでもなく自分に都合の良いことを思いついてしまった。そうだ、褒美はこれにしよう。ふふふっと不敵な笑みを浮かべた。
「陛下、褒美を決めました!」
「申してみよ」
「俺、大魔法師オーティス・サンドリッチの屋敷でお世話になりたいです!」
陛下がぽかんと目を丸くする。俺の横でふっと兄上が吹き出した。
「どうしてオーティスの屋敷に?」
この兄はすでに俺の真意を見抜いているのか、クスクス笑いながら問いかけてくる。
「恥ずかしながら、昨夜間近で見た生霊がとても恐ろしくて安心して眠ることができませんでした。一度でも霊を見た者は霊感が強くなると言いますし、他の霊を引き寄せるとも聞いたことがあります」
ふむふむと真剣に耳を傾けてくれる陛下には悪いけど、これ全部たった今俺が考えたデタラメだから。
「ソードマスターであっても霊の類を斬ることはできませんが、オーティスはそれらに対抗する力を持った希代の大魔法師です。彼のそばならどんな悪霊に狙われたとしても安全でしょう。まずは生霊によって乱された心を落ち着かせたいのです」
力無く下を向いて、陛下の同情心を煽ってみる。
ヘタレだと思われてもいいよ。大嫌いなこの場所とおさらばする絶好の機会なんだ。ついでにオーティスと一つ屋根の下で暮らせるビッグチャンスが手に入るなら臭い演技だってしてやるさ。
「陛下、今回の事は僕に責任があります。フィルは将来優秀な騎士になるでしょう。霊に対する恐怖が輝かしい未来の妨げにならぬよう、今は彼の心の安寧を優先すべきかと思います。陛下の勅命ならばオーティスも納得するでしょうし、僕からも話をしてみます」
(兄上ぇ~! ナイスフォロー感謝します!)
片目をパチンと瞬かせるセガール兄上が眩しい。
「物は欲しくないのか?」
「いりません」
「分かった。書状を準備しておこう」
「ありがとうございます! ではこの後すぐにサンドリッチ侯爵邸に向かいます」
「この後……すぐ?」
「はいっ!」
喜色満面な俺の答えに対して、陛下から本日二度目のぽかんを頂きました。隣で兄上がクククッと笑いをこらえている。
「では、僕もオーティスに伝書を送るよ」
「ありがとうございます兄上!」
小賢しい手を使いはしたけれど、今夜から憧れのオーティスと同じ屋根の下で暮らせるんだ。奇跡のような展開に胸が弾む。
ただ、オーティスの気持ちを無視して決めてしまったけど大丈夫かな……。
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