不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ

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第一章

14、確かに友達を作るよう言いましたけど

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 朝食後、オーティスは瞬間移動で俺をアカデミーまで送ってくれた。

『オーティス~、行ってきますのチュウは?』
 と移動前にねだってみたけど、ぽよぽよズがガン見していたのを彼に気付かれて『そういう事は人前ですべきではありません』と却下されてしまった。

(使い魔は人じゃないじゃん)
 ちぇっと口を尖らせて不満げな姿をアピールしているうちにアカデミー到着。更に分かりやすく俺は頬をぷうっと膨らませた。

「フィル様? 暫くの間、仕事を少しセーブしましたので私が送迎いたします。では夕刻に」

 オーティスが直々に? 俺のために!?
 はい、機嫌直りました。膨れた頬から空気が抜ける。

「ありがとう」
 胸元で小さく手を振ると、オーティスは柔らかく微笑み消え去った。


「……今のってオーティス様?」
「どうして第七王子と?」

 正門を通る令嬢令息がひそひそと囁き合っている。明日からは着地点を人気のない場所にしてもらった方が良さそうだ。はぁ……と溜息をついて俺は校舎に向かって歩きだした。

(オーティスは友達を作ったらって言うけど、こんなんでできるとは思えないんだよな)

 もう一度溜息をついて気怠げに上げた視線は、無意識にある一点で止まっていた。他の学生より頭一つ分大きくて、どこにいても目立つ淡いストロベリーブロンドの癖っ毛。

(あれは同じ騎士科の……)


『ランデル・ウォルマン』――貴族の息子にしては随分と砕けた男だ。

 いつも眠そうで休み時間にはよく机で突っ伏して寝ているし、一人でぼんやりしてるから群れるのが好きじゃないのかと思いきや、誰とでも気さくに話せてケラケラ笑っている。何より、入学当初から俺に挨拶をしてくれたとても希少な存在だ。

 それに体格も剣の腕も良くて、卒業後は俺と同じ王国騎士団への入団も決まっているらしい。仲良くなれたら自主練にも誘いやすくなるだろうか。

(話しかけて……みるか)
 生唾とともに不安な気持ちをごくりと飲み込んだ。


「お、おはよう……ランデル」
「――!?」

 あくび途中の彼は、口を開けたまま熟れた苺のような赤い目を大きく開いた。

 それだけじゃない、周りの生徒たちまで一斉にこちらを向いた。一挙手一投足を監視されているような学園生活で、俺が自分から話しかけるなんて余程の事がない限りありはしなかったから、みんな何事かと不審がってるんだ。

(大勢の前で話しかけたのはマズかったな……しかも名前呼び。やっぱりやめときゃ良かっ――)

「フィル王子、おはようございます! 王子から声をかけてくださるのは初めてですね。しかも俺の名前、覚えてくださってたんですね」

 まるで目を瞑った猫のように目を細めて笑うランデルを見て肩から力が抜けた。ホッとして心がふわわわぁ~っと軽くなったせいか、事もあろうに俺はつい調子に乗ってしまったのだ。

「同じ騎士科だから……敬語とかいらないし、俺のことも呼び捨てで呼べよ。その方が話しやすい」

(うわっ、距離の縮め方間違えた!)

 言ったそばから後悔する。親しくもないのに呼び捨て敬語無しを強要。どう考えても急ぎすぎだ。困惑する彼の様子を想像してちらりと盗み見たのだが、その不安は一瞬で吹き飛んだ。

 へにゃ~と笑うランダルに、『そうだよな、ランデルってこういう奴だ』と嬉しくなる。

「じゃあ遠慮なく。ずっと話してみたかったんだ。クラスまで一緒に行こう、

 ――『フィル』!?

 全身に鳥肌が立つ。
(なんだこれ……すっげぇ恥ずかしい)

 家族以外からされた初めての「フィル」呼びに、胸の奥で湧き出た何かが一気に全身を駆け巡る。止められない感情が溢れ出してしまいそうで俺は慌てて唇を引き結んだ。

(今の俺、めちゃくちゃ早く走れそう!)

「どした?」
「えっと……早く朝練したいなって」
「ははっ、朝から元気。じゃあ準備できたら朝練行こっか」

 教室まで誰かと一緒に行くなんて初めてだ。しかも練習まで誘ってくれて嬉しい。

『友達』を知らない俺は、意外にも人懐っこいこの男にころりと心を許してしまったのだった。



 ◇◇◇

「――でさ、そのランデルがすっっっごく良い奴だったんだ!!」
「それはよろしかったですね」

 その夜。お約束のようにオーティスのベッドに入り込んだ俺は、ランデルについて熱く語った。

 今日一日、彼は学生たちの奇妙な視線をまったく気にも留めず、ずっと笑顔でそばにいてくれた。初めこそ慣れなくてどぎまぎしてしまったけど、すぐに打ち解けることができたしアカデミーの中で声を出して笑ったのも初めてかもしれない。

 本当に楽しい一日だった。胸一杯の充実感で興奮がいまだに静まらない。

「私がお迎えに参った時にその者は?」
「いなかったよ」
「そうですか。もう一度フルネームを伺ってもよろしいですか?」

 オーティスの眼光が鋭さを帯びた。

「ランデル・ウォルマン」
「ウォルマン……伯爵家の次男ですか?」
「そうそう、歳の離れた兄貴が一人いるって言ってた。オーティス知ってるの?」

「はい。同級生ですし、彼も私と同じ王国魔法師団の一員です」
「そうなんだ。オーティスとも繋がりがあったなんて凄い偶然だな! ランデル自身は魔力が無いって言ってた気がするけど兄貴は魔法が使えるんだ。容姿も良い、性格も良い、剣の腕も良いときて、もしも魔力があったら――んっ!?」

 もうこれ以上喋るなとでも言いたげにオーティスが俺の唇を塞いだ。いきなり舌が入ってきて俺の舌を求めるように絡めてくる。急な展開に驚いて固まってしまった体も、ほんの僅かな時間さえあれば甘い口付けに緊張を解かれ何も考えられなくなっていく。

 「ぷはっ」と唇を離した俺はとろんと蕩けた顔でオーティスを見つめた。彼の低い声が色情を煽る。

「フィル様、気持ち良くなってから寝ましょう」
「うん……」

 俺たちは再び唇を重ねた。
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