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第三章
34、ナタリー(娘)VSミレーヌ(母)
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「オーティス、陛下の所に行くぞ」
「私も行きます!」
俺は笑顔のレイモン伯爵をキッと睨みつけ、オーティスの瞬間移動で王宮に移動。
(なんとしてでもあのクソ親父に会ってやる。執務室にいきなり押しかけるなんて普段じゃ考えられない。けど俺は突入するぞ。加えて暴言を吐いたとしても、これはよくある親子喧嘩だから罰することはできないからな!)
誰にも止められない。そんな勢いだった。しかし陛下の執務室前で一番会いたくない相手……ナタリーと鉢合わせてしまった俺はピタリと足を止めた。
「フィル……オーティスも……」
余程慌てていたのかキッチリ結い上げられたブラウンの髪が乱れている。
咄嗟に彼女を視界から排除して、従者を押し退け突入した。
「陛下! 俺とレイモン伯爵の婚約についてご説明ください!」
「お父様、私は誰とも婚約していませんよね? 嘘の号外が街中にばら撒かれています。私にもご説明をお願いします!」
後を追ってきたナタリーも続けざまに懇願する。すると窓の外を眺めていた陛下は、ふらりと向きを変えてこちらを見た。
「フィル……お前を見ていると、あの人を思い出す……。レイモン伯爵は……お前を大切にすると言った。私のせいで……私がお前を望んだせいで、苦しい思いばかり……フィルは愛されて幸せになってほしい……」
いつもと違う弱々しい声。それに雰囲気もおかしい。でもそんなこと俺の知ったことじゃない。
「幸せを願ってくださるのならオーティスを選んでください。彼は随分前から俺との婚約を願い出ていますよね? 俺からの申し出も無視するし、俺が愛しているのはオーティスなんです!」
なのにチャス・レイモンを選ぶってなんだよ。俺の表情が曇っていくとオーティスも一歩前に出た。
「陛下、発言をお許しください。私のフィル様を愛する気持ちは誰よりも深いです。レイモン伯爵は――」
そこまで言いかけた時、焦点の合わない陛下の目が見開いた。
「オーティス!? お前の好きは……どっちだ? 弟のように……なら、フィル……やらん!!」
(……弟?)
もしかして陛下は、オーティスの愛が弟に対する愛情と同じだと思ったから結婚を許可しなかったのか?
確かに、同じ愛情でも種類が違えば結婚後互いに苦しい思いをすることになる。契約結婚のように割り切った関係じゃないからこそ余計つらいだろう。でも……
「俺たちはちゃんと愛し合ってる!」
「…………」
ダメだ。レイモン伯爵のことをなんとかしたいのに、今の陛下とはまともに話ができそうにない。
(ああ、くそぉ……)
「――あなたたち、いい加減になさい!」
しかも、こんな時に面倒臭い奴がまた一人増えた。
「お母様!?」
タイミング良く現れたのはナタリーの母親、第三側妃ミレーヌだ。
「ナタリー。サンドリッチ卿は大変素晴らしい魔法師よ。貴方が愛している、そう思い込んでいるあの者よりずっと相応しいわ。号外のとおり、本当に婚約してしまいなさい」
「その事なら何度もお話ししましたよね。オーティスはフィルを愛してるの。彼と私を結婚させようとするの、いい加減諦めてください」
蔑むような嘲笑うような、昔から変わらないミレーヌ妃の目。彼女は顔をしかめてこっちを見た。もちろん俺も負けてはいない、どっしり構えて相手を見据えた。
「あれとサンドリッチ卿が釣り合うとでも?」
「――っ!」
険しい顔で踏み出したオーティスを、俺とナタリーが腕を伸ばして同時に静止する。そして凛と背筋を伸ばした王女は、俺たちの前に出て母親と対峙した。
「お母様、子供じみたことはもうやめてください。上に立つ者がすることではないわ。フィル、今までごめんなさい」
「ちょっ……やめなさいナタリー! こんな汚らわしい者に頭を下げるなんて。おかしくなったの!?」
目を吊り上げたミレーヌ妃は、頭を下げ続けるナタリーに掴みかかり思いきり頬を叩いた。白い肌は赤くなりみるみる腫れ上がっていく。娘に暴力を振るうなんて信じられない。猛獣を調教するわけでもなかろうに。今までずっと力と恐怖で支配してきたのか?
「情けない……貴方には自尊心がないの!? この国の王女なのよ!? 恥ずかしいにもほどがあるわ!!」
「……お言葉ですけど、『恥ずかしい』の意味をご存知ですか? 私は正しいことをしたいの。お母様は相手のことをよく知ろうともせずに見下してばかり。気に食わないと癇癪を起こしてすぐに手を上げる。仮にも一国の妃なのですよ? そういう行いを『恥ずかしい』と言うのではないでしょうか」
「親に向かってなんてことを……そうですか……そういうつもりならもういいわ。親子の縁を切りましょう。貴方なんか娘でもなんでもない、今すぐ王宮から出ていきなさい!」
「元よりそのつもりでした。今までお世話になりました。さようなら『ミレーヌ様』」
語気を荒げるミレーヌ妃と威厳に満ちたナタリー。相反する彼らはすでに同じ土俵にいないのだ。
深々と頭を下げたナタリーは、「くっ」と苦々しく唇を噛む母親に背を向けて颯爽と去っていく。
彼女が泣きつくとでも思ったのだろうか。突き放したつもりが逆に突き放されてしまったミレーヌ妃は、迷いのないナタリーの行動に面食らっている。まったくもって自業自得だ。
(ナタリーの奴、なかなかやるじゃん)
一方陛下は、これだけ騒いでいるというのに叱責することもなくずっと上の空だ。
(本当にどうされたんだ……)
レイモン伯爵との婚約について何も解決してはいないけれど、ミレーヌ妃とこれ以上同じ空間にもいたくない。俺はオーティスと共にナタリーの後を追った。
「私も行きます!」
俺は笑顔のレイモン伯爵をキッと睨みつけ、オーティスの瞬間移動で王宮に移動。
(なんとしてでもあのクソ親父に会ってやる。執務室にいきなり押しかけるなんて普段じゃ考えられない。けど俺は突入するぞ。加えて暴言を吐いたとしても、これはよくある親子喧嘩だから罰することはできないからな!)
誰にも止められない。そんな勢いだった。しかし陛下の執務室前で一番会いたくない相手……ナタリーと鉢合わせてしまった俺はピタリと足を止めた。
「フィル……オーティスも……」
余程慌てていたのかキッチリ結い上げられたブラウンの髪が乱れている。
咄嗟に彼女を視界から排除して、従者を押し退け突入した。
「陛下! 俺とレイモン伯爵の婚約についてご説明ください!」
「お父様、私は誰とも婚約していませんよね? 嘘の号外が街中にばら撒かれています。私にもご説明をお願いします!」
後を追ってきたナタリーも続けざまに懇願する。すると窓の外を眺めていた陛下は、ふらりと向きを変えてこちらを見た。
「フィル……お前を見ていると、あの人を思い出す……。レイモン伯爵は……お前を大切にすると言った。私のせいで……私がお前を望んだせいで、苦しい思いばかり……フィルは愛されて幸せになってほしい……」
いつもと違う弱々しい声。それに雰囲気もおかしい。でもそんなこと俺の知ったことじゃない。
「幸せを願ってくださるのならオーティスを選んでください。彼は随分前から俺との婚約を願い出ていますよね? 俺からの申し出も無視するし、俺が愛しているのはオーティスなんです!」
なのにチャス・レイモンを選ぶってなんだよ。俺の表情が曇っていくとオーティスも一歩前に出た。
「陛下、発言をお許しください。私のフィル様を愛する気持ちは誰よりも深いです。レイモン伯爵は――」
そこまで言いかけた時、焦点の合わない陛下の目が見開いた。
「オーティス!? お前の好きは……どっちだ? 弟のように……なら、フィル……やらん!!」
(……弟?)
もしかして陛下は、オーティスの愛が弟に対する愛情と同じだと思ったから結婚を許可しなかったのか?
確かに、同じ愛情でも種類が違えば結婚後互いに苦しい思いをすることになる。契約結婚のように割り切った関係じゃないからこそ余計つらいだろう。でも……
「俺たちはちゃんと愛し合ってる!」
「…………」
ダメだ。レイモン伯爵のことをなんとかしたいのに、今の陛下とはまともに話ができそうにない。
(ああ、くそぉ……)
「――あなたたち、いい加減になさい!」
しかも、こんな時に面倒臭い奴がまた一人増えた。
「お母様!?」
タイミング良く現れたのはナタリーの母親、第三側妃ミレーヌだ。
「ナタリー。サンドリッチ卿は大変素晴らしい魔法師よ。貴方が愛している、そう思い込んでいるあの者よりずっと相応しいわ。号外のとおり、本当に婚約してしまいなさい」
「その事なら何度もお話ししましたよね。オーティスはフィルを愛してるの。彼と私を結婚させようとするの、いい加減諦めてください」
蔑むような嘲笑うような、昔から変わらないミレーヌ妃の目。彼女は顔をしかめてこっちを見た。もちろん俺も負けてはいない、どっしり構えて相手を見据えた。
「あれとサンドリッチ卿が釣り合うとでも?」
「――っ!」
険しい顔で踏み出したオーティスを、俺とナタリーが腕を伸ばして同時に静止する。そして凛と背筋を伸ばした王女は、俺たちの前に出て母親と対峙した。
「お母様、子供じみたことはもうやめてください。上に立つ者がすることではないわ。フィル、今までごめんなさい」
「ちょっ……やめなさいナタリー! こんな汚らわしい者に頭を下げるなんて。おかしくなったの!?」
目を吊り上げたミレーヌ妃は、頭を下げ続けるナタリーに掴みかかり思いきり頬を叩いた。白い肌は赤くなりみるみる腫れ上がっていく。娘に暴力を振るうなんて信じられない。猛獣を調教するわけでもなかろうに。今までずっと力と恐怖で支配してきたのか?
「情けない……貴方には自尊心がないの!? この国の王女なのよ!? 恥ずかしいにもほどがあるわ!!」
「……お言葉ですけど、『恥ずかしい』の意味をご存知ですか? 私は正しいことをしたいの。お母様は相手のことをよく知ろうともせずに見下してばかり。気に食わないと癇癪を起こしてすぐに手を上げる。仮にも一国の妃なのですよ? そういう行いを『恥ずかしい』と言うのではないでしょうか」
「親に向かってなんてことを……そうですか……そういうつもりならもういいわ。親子の縁を切りましょう。貴方なんか娘でもなんでもない、今すぐ王宮から出ていきなさい!」
「元よりそのつもりでした。今までお世話になりました。さようなら『ミレーヌ様』」
語気を荒げるミレーヌ妃と威厳に満ちたナタリー。相反する彼らはすでに同じ土俵にいないのだ。
深々と頭を下げたナタリーは、「くっ」と苦々しく唇を噛む母親に背を向けて颯爽と去っていく。
彼女が泣きつくとでも思ったのだろうか。突き放したつもりが逆に突き放されてしまったミレーヌ妃は、迷いのないナタリーの行動に面食らっている。まったくもって自業自得だ。
(ナタリーの奴、なかなかやるじゃん)
一方陛下は、これだけ騒いでいるというのに叱責することもなくずっと上の空だ。
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