37 / 53
第三章
34、ナタリー(娘)VSミレーヌ(母)
しおりを挟む
「オーティス、陛下の所に行くぞ」
「私も行きます!」
俺は笑顔のレイモン伯爵をキッと睨みつけ、オーティスの瞬間移動で王宮に移動。
(なんとしてでもあのクソ親父に会ってやる。執務室にいきなり押しかけるなんて普段じゃ考えられない。けど俺は突入するぞ。加えて暴言を吐いたとしても、これはよくある親子喧嘩だから罰することはできないからな!)
誰にも止められない。そんな勢いだった。しかし陛下の執務室前で一番会いたくない相手……ナタリーと鉢合わせてしまった俺はピタリと足を止めた。
「フィル……オーティスも……」
余程慌てていたのかキッチリ結い上げられたブラウンの髪が乱れている。
咄嗟に彼女を視界から排除して、従者を押し退け突入した。
「陛下! 俺とレイモン伯爵の婚約についてご説明ください!」
「お父様、私は誰とも婚約していませんよね? 嘘の号外が街中にばら撒かれています。私にもご説明をお願いします!」
後を追ってきたナタリーも続けざまに懇願する。すると窓の外を眺めていた陛下は、ふらりと向きを変えてこちらを見た。
「フィル……お前を見ていると、あの人を思い出す……。レイモン伯爵は……お前を大切にすると言った。私のせいで……私がお前を望んだせいで、苦しい思いばかり……フィルは愛されて幸せになってほしい……」
いつもと違う弱々しい声。それに雰囲気もおかしい。でもそんなこと俺の知ったことじゃない。
「幸せを願ってくださるのならオーティスを選んでください。彼は随分前から俺との婚約を願い出ていますよね? 俺からの申し出も無視するし、俺が愛しているのはオーティスなんです!」
なのにチャス・レイモンを選ぶってなんだよ。俺の表情が曇っていくとオーティスも一歩前に出た。
「陛下、発言をお許しください。私のフィル様を愛する気持ちは誰よりも深いです。レイモン伯爵は――」
そこまで言いかけた時、焦点の合わない陛下の目が見開いた。
「オーティス!? お前の好きは……どっちだ? 弟のように……なら、フィル……やらん!!」
(……弟?)
もしかして陛下は、オーティスの愛が弟に対する愛情と同じだと思ったから結婚を許可しなかったのか?
確かに、同じ愛情でも種類が違えば結婚後互いに苦しい思いをすることになる。契約結婚のように割り切った関係じゃないからこそ余計つらいだろう。でも……
「俺たちはちゃんと愛し合ってる!」
「…………」
ダメだ。レイモン伯爵のことをなんとかしたいのに、今の陛下とはまともに話ができそうにない。
(ああ、くそぉ……)
「――あなたたち、いい加減になさい!」
しかも、こんな時に面倒臭い奴がまた一人増えた。
「お母様!?」
タイミング良く現れたのはナタリーの母親、第三側妃ミレーヌだ。
「ナタリー。サンドリッチ卿は大変素晴らしい魔法師よ。貴方が愛している、そう思い込んでいるあの者よりずっと相応しいわ。号外のとおり、本当に婚約してしまいなさい」
「その事なら何度もお話ししましたよね。オーティスはフィルを愛してるの。彼と私を結婚させようとするの、いい加減諦めてください」
蔑むような嘲笑うような、昔から変わらないミレーヌ妃の目。彼女は顔をしかめてこっちを見た。もちろん俺も負けてはいない、どっしり構えて相手を見据えた。
「あれとサンドリッチ卿が釣り合うとでも?」
「――っ!」
険しい顔で踏み出したオーティスを、俺とナタリーが腕を伸ばして同時に静止する。そして凛と背筋を伸ばした王女は、俺たちの前に出て母親と対峙した。
「お母様、子供じみたことはもうやめてください。上に立つ者がすることではないわ。フィル、今までごめんなさい」
「ちょっ……やめなさいナタリー! こんな汚らわしい者に頭を下げるなんて。おかしくなったの!?」
目を吊り上げたミレーヌ妃は、頭を下げ続けるナタリーに掴みかかり思いきり頬を叩いた。白い肌は赤くなりみるみる腫れ上がっていく。娘に暴力を振るうなんて信じられない。猛獣を調教するわけでもなかろうに。今までずっと力と恐怖で支配してきたのか?
「情けない……貴方には自尊心がないの!? この国の王女なのよ!? 恥ずかしいにもほどがあるわ!!」
「……お言葉ですけど、『恥ずかしい』の意味をご存知ですか? 私は正しいことをしたいの。お母様は相手のことをよく知ろうともせずに見下してばかり。気に食わないと癇癪を起こしてすぐに手を上げる。仮にも一国の妃なのですよ? そういう行いを『恥ずかしい』と言うのではないでしょうか」
「親に向かってなんてことを……そうですか……そういうつもりならもういいわ。親子の縁を切りましょう。貴方なんか娘でもなんでもない、今すぐ王宮から出ていきなさい!」
「元よりそのつもりでした。今までお世話になりました。さようなら『ミレーヌ様』」
語気を荒げるミレーヌ妃と威厳に満ちたナタリー。相反する彼らはすでに同じ土俵にいないのだ。
深々と頭を下げたナタリーは、「くっ」と苦々しく唇を噛む母親に背を向けて颯爽と去っていく。
彼女が泣きつくとでも思ったのだろうか。突き放したつもりが逆に突き放されてしまったミレーヌ妃は、迷いのないナタリーの行動に面食らっている。まったくもって自業自得だ。
(ナタリーの奴、なかなかやるじゃん)
一方陛下は、これだけ騒いでいるというのに叱責することもなくずっと上の空だ。
(本当にどうされたんだ……)
レイモン伯爵との婚約について何も解決してはいないけれど、ミレーヌ妃とこれ以上同じ空間にもいたくない。俺はオーティスと共にナタリーの後を追った。
「私も行きます!」
俺は笑顔のレイモン伯爵をキッと睨みつけ、オーティスの瞬間移動で王宮に移動。
(なんとしてでもあのクソ親父に会ってやる。執務室にいきなり押しかけるなんて普段じゃ考えられない。けど俺は突入するぞ。加えて暴言を吐いたとしても、これはよくある親子喧嘩だから罰することはできないからな!)
誰にも止められない。そんな勢いだった。しかし陛下の執務室前で一番会いたくない相手……ナタリーと鉢合わせてしまった俺はピタリと足を止めた。
「フィル……オーティスも……」
余程慌てていたのかキッチリ結い上げられたブラウンの髪が乱れている。
咄嗟に彼女を視界から排除して、従者を押し退け突入した。
「陛下! 俺とレイモン伯爵の婚約についてご説明ください!」
「お父様、私は誰とも婚約していませんよね? 嘘の号外が街中にばら撒かれています。私にもご説明をお願いします!」
後を追ってきたナタリーも続けざまに懇願する。すると窓の外を眺めていた陛下は、ふらりと向きを変えてこちらを見た。
「フィル……お前を見ていると、あの人を思い出す……。レイモン伯爵は……お前を大切にすると言った。私のせいで……私がお前を望んだせいで、苦しい思いばかり……フィルは愛されて幸せになってほしい……」
いつもと違う弱々しい声。それに雰囲気もおかしい。でもそんなこと俺の知ったことじゃない。
「幸せを願ってくださるのならオーティスを選んでください。彼は随分前から俺との婚約を願い出ていますよね? 俺からの申し出も無視するし、俺が愛しているのはオーティスなんです!」
なのにチャス・レイモンを選ぶってなんだよ。俺の表情が曇っていくとオーティスも一歩前に出た。
「陛下、発言をお許しください。私のフィル様を愛する気持ちは誰よりも深いです。レイモン伯爵は――」
そこまで言いかけた時、焦点の合わない陛下の目が見開いた。
「オーティス!? お前の好きは……どっちだ? 弟のように……なら、フィル……やらん!!」
(……弟?)
もしかして陛下は、オーティスの愛が弟に対する愛情と同じだと思ったから結婚を許可しなかったのか?
確かに、同じ愛情でも種類が違えば結婚後互いに苦しい思いをすることになる。契約結婚のように割り切った関係じゃないからこそ余計つらいだろう。でも……
「俺たちはちゃんと愛し合ってる!」
「…………」
ダメだ。レイモン伯爵のことをなんとかしたいのに、今の陛下とはまともに話ができそうにない。
(ああ、くそぉ……)
「――あなたたち、いい加減になさい!」
しかも、こんな時に面倒臭い奴がまた一人増えた。
「お母様!?」
タイミング良く現れたのはナタリーの母親、第三側妃ミレーヌだ。
「ナタリー。サンドリッチ卿は大変素晴らしい魔法師よ。貴方が愛している、そう思い込んでいるあの者よりずっと相応しいわ。号外のとおり、本当に婚約してしまいなさい」
「その事なら何度もお話ししましたよね。オーティスはフィルを愛してるの。彼と私を結婚させようとするの、いい加減諦めてください」
蔑むような嘲笑うような、昔から変わらないミレーヌ妃の目。彼女は顔をしかめてこっちを見た。もちろん俺も負けてはいない、どっしり構えて相手を見据えた。
「あれとサンドリッチ卿が釣り合うとでも?」
「――っ!」
険しい顔で踏み出したオーティスを、俺とナタリーが腕を伸ばして同時に静止する。そして凛と背筋を伸ばした王女は、俺たちの前に出て母親と対峙した。
「お母様、子供じみたことはもうやめてください。上に立つ者がすることではないわ。フィル、今までごめんなさい」
「ちょっ……やめなさいナタリー! こんな汚らわしい者に頭を下げるなんて。おかしくなったの!?」
目を吊り上げたミレーヌ妃は、頭を下げ続けるナタリーに掴みかかり思いきり頬を叩いた。白い肌は赤くなりみるみる腫れ上がっていく。娘に暴力を振るうなんて信じられない。猛獣を調教するわけでもなかろうに。今までずっと力と恐怖で支配してきたのか?
「情けない……貴方には自尊心がないの!? この国の王女なのよ!? 恥ずかしいにもほどがあるわ!!」
「……お言葉ですけど、『恥ずかしい』の意味をご存知ですか? 私は正しいことをしたいの。お母様は相手のことをよく知ろうともせずに見下してばかり。気に食わないと癇癪を起こしてすぐに手を上げる。仮にも一国の妃なのですよ? そういう行いを『恥ずかしい』と言うのではないでしょうか」
「親に向かってなんてことを……そうですか……そういうつもりならもういいわ。親子の縁を切りましょう。貴方なんか娘でもなんでもない、今すぐ王宮から出ていきなさい!」
「元よりそのつもりでした。今までお世話になりました。さようなら『ミレーヌ様』」
語気を荒げるミレーヌ妃と威厳に満ちたナタリー。相反する彼らはすでに同じ土俵にいないのだ。
深々と頭を下げたナタリーは、「くっ」と苦々しく唇を噛む母親に背を向けて颯爽と去っていく。
彼女が泣きつくとでも思ったのだろうか。突き放したつもりが逆に突き放されてしまったミレーヌ妃は、迷いのないナタリーの行動に面食らっている。まったくもって自業自得だ。
(ナタリーの奴、なかなかやるじゃん)
一方陛下は、これだけ騒いでいるというのに叱責することもなくずっと上の空だ。
(本当にどうされたんだ……)
レイモン伯爵との婚約について何も解決してはいないけれど、ミレーヌ妃とこれ以上同じ空間にもいたくない。俺はオーティスと共にナタリーの後を追った。
161
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
婚約破棄された俺の農業異世界生活
深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」
冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生!
庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。
そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。
皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。
(ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中)
(第四回fujossy小説大賞エントリー中)
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
囚われの聖女様を救いに行っただけなのに、なぜこうなったのかわかりません。
なつか
BL
史上最悪の王に囚われてしまった聖女を救うため、王宮に忍び込んだグレン。
いざ見つけた聖女には逃走防止用に魔法が籠められた魔道具の足輪が付けられていた。
それを壊すためには魔力を聖女に受け渡してもらう必要があるという。
ではその方法は?
「僕を抱けばいい」
そんな感じで型破りな聖女様(♂)に振り回される男の話。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります
かとらり。
BL
前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。
勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。
風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。
どうやらその子どもは勇者の子供らしく…
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる