不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ

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第三章

44、スパーンと一発 パートナーは大切にしましょう

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 捕縛したレイモン伯爵を騎士団に任せ、俺とオーティス、セガール兄上の三人はオーティスの瞬間移動で一足先に王宮に戻った。

 離宮の一室ですやすや眠るぽよぽよズにホッとする。そんな俺の横で、オーティスは彼らの可愛いおでこに思いっきりデコピンを食らわせた。

「ぎゃあー!! ご主人様いきなり酷いです!」
「暴力反対!!」
「お前たち、話がある」

 オーティスの沈んだ声に、ポル、ポム、ポニはしゅんと黙り込んだ。

 レイモン伯爵の力によって記憶がすっぽり抜け落ちてしまった彼らに事のいきさつを説明すると、案の定自分たちの不甲斐無さを責めて泣きだしてしまった。彼らを宥めた後、疲れ切った俺たちもできるだけ早く寝支度を調えてベッドに入った。


「……フィル様、すみませんでした」

 また謝った。オーティスに対してムッと頬を膨らます。

「しつこい! レイモン伯爵の件はオーティスのせいじゃないって。それより左の頬がヒリヒリして痛いんだけど」

 レイモン伯爵と口同士のキスは免れた。しかし顔を逸らした際に左頬にぶちゅっとされてしまったことを、入浴中この男に話したのがいけなかった。
 黒い火の玉を呼び出すわ眉間に皺を寄せて俺の頬をゴシゴシこするわ。もう恐怖の入浴だった。そこでもオーティスは何度も平謝りしておろおろしながら軟膏を塗ってくれたけど、赤くなった俺の頬はまだ痛い。

 でも彼が嫉妬深いと知りながら、うっかり話した俺がいけないんだ。……うん、俺のせい。

「痛いですよね。すみません……」

 口を噤ぐんだオーティスが目を伏せる。長い睫毛から覗く紫の瞳。この男はどの角度から見ても本当に美しい。

 しん……と静まり返った中、オーティスがぼそぼそと話しだした。

「私の……『大魔法師』という肩書きは何のためのものなのか分からなくなりました。この力で貴方をお守りすると誓ったのに情け無いです……」

 そこまで思い詰めなくてもいいのに。守られてばかりなんて嫌だよ。俺が求めているのはそういうのじゃない。

「俺の大好きなオーティスが情け無いわけないじゃん。レイモン伯爵のあの力は反則だ。それより頑張った俺のこと褒めてよ~」

「そうですね。フィル様……貴方は反則級の力にも負けず、ご自身の力で切り抜けた。ご立派になられましたね。誇らしいです」

(言わせた形になっちゃったけど、もう弱い自分じゃない。そう思っても良いのかな)

「うん! オーティス、そろそろ寝よう。抱き締めてよ、ぎゅう~って力一杯」

 俺が求めてるのは、安らぎと安心感。ずっとそばにいてくれたらそれで良いんだ。

「おやすみオーティス」
「おやすみなさい、フィル様」

 ぎゅっとした後、オーティスはすりすりと俺の髪に頬擦りしていたが、いつの間にかその動きは止まり静かな寝息が聞こえてきた。ゆっくり顔を上げて寝顔を盗み見る。

(超貴重なオーティスの寝顔!!)

 基本俺の方が先に寝落ちするしオーティスの方が早く起きるから、彼の寝顔を見ることはまずない。話を盛ったわけじゃなくて、前に見たのはオーティスの屋敷から出て行くナタリーを目撃したあの日の一度きりだと思う。

 今日もあの日と同じように魔力消費の激しい瞬間移動を何度も行っていたから相当疲れていたんだろう。

(あの時は熱まで出てたんだよな。妙に色っぽい姿で寝てるから、二人がそういう関係だと勘違いしたんだっけ)

 その後、拗ねた俺の誤解を解こうとしたオーティスがめちゃくちゃ怖かった。でもその後、甘々でもあったな。あの日の色事を思い出して頬がポッと熱くなる。

「まったく、とんだやきもち焼きだ」

 でもそこが可愛い。数分も経たぬうちに、オーティスの寝息と俺の寝息が重なった。



 ◇◇◇

 レイモン伯爵を捕らえた翌日。
 セガール兄上は俺とオーティスを連れて陛下のもとを訪ねた。

 人払いをした兄上が、レイモン伯爵のもつ特殊な洗脳の力を説明するも、陛下自身洗脳中のためかまったく話が入っていかないようだ。終始上の空の陛下に俺たちはやはりダメかと視線を交える。


「さぁて、誰が陛下を叩く?」

 予想していたけど、そうなるよね。……にしてもこういう時の兄上、なぜかいつも生き生きしてる。洗脳を解くためとはいえ、国王陛下を叩くのはちょっと……できれば辞退したい。三人で黙っていると扉がノックされた。

「私です、入りますよ」

 声の主はセガール兄上の母、ヴィルダ王妃だった。彼女が放つオーラに圧倒されて、ぴりつく空気に俺の背筋がピンと伸びる。

「王妃陛下にご挨拶申し上げます」
 俺とオーティスはすぐさま礼をとった。

「貴方たち昨夜レイモン伯爵を捕らえたそうね。この数日陛下の様子がおかしかったのは彼と関係が?」

 社交界に詳しい王妃がレイモン伯爵の悪い噂を知らないはずがない。陛下を心配して様子を見に来たのだろうか。

「まあそんなところです。今、誰が陛下を叩いて洗脳を解くか話し合っていました」

 にこやかに答えるセガール兄上。さらりと投下された爆弾に俺は慌てて王妃を見た。しかし、一国の王が洗脳されている、只事ではない事態に眉ひとつ動かさない王妃がそこにはいた。

「……くだらない。そんなの話し合う必要もないでしょう」

 陛下の真正面に立った王妃は、いっさいの躊躇いもなく「スパーン!!」と特大の平手打ちをお見舞いした。

「こうすれば良いだけです」
「さすが母上、お見事です♪」

 パチパチと笑顔で手を叩くセガール兄上に、「貴方は妻を大事にすることね」と呟いて王妃は部屋を出ていった。

 冷静な口調。毅然とした態度の王妃が胸の内に秘め続けた愛憎の炎なのか。

 ぎょっと目を見開いたままの俺とオーティスの前で、陛下が目をチカチカさせながら「いったい何が起きた……?」と頬を押さえている。

 ヴィルダ王妃の平手打ちに触発されたのか、これまでに受けた不当な扱いを思い出して、「自業自得だ。遠慮せずに俺も一発叩いておけばよかったな」……と心の中で舌打ちをするのだった。

(それより、問題はレイモン伯爵に洗脳された人たちだ……)

 レイモン伯爵は若くて綺麗な男ばかりを囲っていた。洗脳によって伯爵から離れられない人たち。はたまたナタリーの恋人であるラグベル侯爵のようにビジネスで不当な契約を結ばされた人たち。

 そんな人たちも叩くのか?

(いやいや、彼らは被害者だぞ。引っ叩くのはさすがにない)

 赤く腫れ上がる父親の頬を見て、叩く以外で洗脳を解く方法を考えよう。俺はそう思った。


 そして、再び扉が叩かれた。

「セガール様」
 
 入室を許可された侍従が兄上にヒソヒソと何かを伝えている。兄上は「うんうん」と頷きにこりと笑った。

「ランデルが目を覚ましたって。父上はもう少し時間が必要そうだし、先に彼の所に行こうか」

(――ランデル!?)

 確かに洗脳が解けたばかりの陛下と話し合うのは無理そうだ。こちらとしては一刻も早くレイモン伯爵との婚約を取り消して欲しいところだけど、少し休んだ方が良いだろう。

 俺のために伯爵の洗脳に耐えてくれたランデル。目を覚ましたのなら早く会いたい。俺たちは王宮の医務室へ向かった。
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