不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ

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第三章

46、ダメな兄貴 ※セガール視点

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「フィル……少し話がしたい」
「体は?」
「大丈夫、できれば散歩しながら」
「じゃあ離宮まで歩こうか。セガール兄上、ランデルと離宮に行ってもいいですか?」


 フィルとランデルの会話に耳を傾けていた僕は、「いいよ~」とスムーズに返事をした。

 ――ランデル・ウォルマン。

 彼はまだ何か隠している。

 今回捕縛されたチャス・レイモン伯爵。

 彼と取引をした者たちに聞き取りを行っているのだが、報告書にはどれも『記憶が曖昧である』と記入されていた。

 しかしフィルとランデルは体の自由を奪われたものの、事のいきさつをはっきり覚えていた。全ての被害者を調査すれば同じような事例が出てくる可能性もあるけれど、これまでにそのような訴えは聞いたことがない。

 オーティスに洗脳魔法の有無を問うてみても、そういったものは無いと言うし。レイモン、フィル、ランデルの三名に魔力探知機能のある魔石を握らせてみたけれど反応なし。

 非魔力保持者の彼らは魔力で洗脳したわけでもなければ、洗脳を跳ね返す魔法を使ったわけでもない。

(昨夜オーティスが言及していた『魔力とは違う別の力』の存在が現実味を帯びてきたな)

 先程はフランコの言い分を聞き入れて一旦その場を収めたけれど、ランデルの表情を見れば何かを隠しているのは一目瞭然。彼はずる賢い一面もあるようだが、フィルに対する思いは本物に見える。後ろめたいことがあるのなら必ず話すだろう。

「オーティス、僕も少し席を外すね~」

 盛り上がっているフランコとオーティスを残して離宮へ向かった。



 ◇◇◇

「この離宮って花一つ咲いてないんだな」

 雑草だらけ。王宮に似つかわしくない殺風景な庭園を見れば誰もが疑問に思うだろう。他愛もない話に花咲かせていたランデルとフィルの間に沈黙が流れる。

「ごめ……」
「謝んなって。咲けない場所に植えられても花が可哀想だろう?」

 二人の会話を盗み聞きしながら、昔のことを思い出して胸がチクッと痛んだ……。



 ◇◇◇

「セガール兄上ー!!」

 それはもう随分と昔の出来事……。
 新しくできた小さな弟が僕の姿を見付けて走ってくるたびに、王太子として擦り切れそうな日々を過ごしていた僕の心は優しく包み込まれた。

「フィル。僕のことが大好きなのは嬉しいけどコケたら危ないよ~」
「ごめんなさい。あのね兄上、植えておいたお花の卵から芽が出ました! 花が咲いたら一番に教えますね」

 お花の卵?

「どんな花を植えたの?」
「それは咲いてからのお楽しみです」

 暖かくなり始めた今日この頃。土から顔を出した芽を見て、それがチューリップだとすぐに気が付いた。けれど嬉しそうに「秘密です」と小さな両手で口元を隠すフィルが可愛くて、「楽しみだな~」と僕は知らないフリをした。

 定期的に会いに来るオーティスと三人で色付き始めた蕾を眺め、「もうすぐ咲くかな」と開花を待ち侘びる。

『咲きました!!』

 そろそろあの素直で可愛い弟から知らせが来る頃だというのに一向に音沙汰がない。
 嫌な予感がした。
 叱られる覚悟で王太子教育を抜け出し離宮へ走る。飛び込んできた光景に息を呑んだ。

 綺麗に花の部分だけを切り落とされた茎と葉だけの植物。小さな弟が、もう咲くことのない、花だったものに水を掛けているのだ。

 花壇の隅には切り取られたチューリップの蕾や踏み潰された花びらがひっそりと寄せ集められ、それはまるでお墓だった。

「フィル!!」

 小さな肩がビクッ上がる。僕を見た途端、彼の大きな目から大粒の涙が溢れた。

「どうしたの……何があった? この花は……」

「朝ね……お水をやりに来たらお花切られてて。お水あげても……もう花が咲かないの。楽しみにして……兄上やオーティスに見せたかっ……たのに。ぺちゃんこになっちゃって、綺麗な姿、もう見られない……」

「もういいよ、教えてくれてありがとう。一生懸命育てて楽しみにしてたのに、悲しかったね……」

 しゃくり上げながら必死に説明する彼を抱き締めて何度も頭を撫でると、フィルはタガが外れたように一層大きな声で泣き叫んだ。

「僕たちの花をこんな風にして……絶対に許さない。お兄ちゃんが絶対に仇を取ってやるから!!」

「――セガール王子! こんな所にいらしたのですね! 授業をサボることは許しませんよ!」

「離せっ!! 勉強よりやることがあるんだ!!」

 叫びながらずるずると侍従たちに引きずられる姿を、ちょうど離宮にやってきたオーティスに見られたんだっけ。

 フィルはあれから一度も花を育てていない。彼の心にはいくつも傷がある。守ってやれなかった僕はダメな兄貴だ。
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