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第三章
47、三つの運命 ※セガール視点
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「俺……フィルに話さなきゃいけないことがある」
ランデルが遂に話を切り出した。
「どうしたんだよ。今日はやけに改まるな」
思った通り。重要な話をするようだ。話を聞き漏らさぬよう耳をそば立てる。
「俺、お前を騙してる。フィルが俺に好意を持ってくれてるのは……幻なんだ。本当のフィルの気持ちじゃない」
(幻?)
「フィルがレイモン伯爵の洗脳にかかりきらなかったのは――」
言葉を詰まらせたランデルは唇を震わせている。きつく閉じた目を開いて、悲しそうな瞳にフィルを収めた。
「多分……伯爵より先に俺が催眠をかけたからなんだ」
「催眠? またまた~冗談はいいって」
「冗談じゃなくて、両親もフランコ兄さんも知らない俺の秘密……。俺には魔力がない。でも昔から変わった力が使えるんだ。伯爵の洗脳も同じ類のものだと思う」
ごくりと生唾を飲み込む。
魔力以外の力をもった者がここにもいた。今すぐ彼を取り押さえるか――。
「待て待て待て。急に話が飛び過ぎて俺ちょっと付いていけてない……」
そりゃそうだ。親友に騙されていたら誰だって困惑する。
「セガール様に全て話すよ。罰を受けて罪を償う」
「だから待てって。一つ確認させてくれ。いつ、その催眠とやらを俺にかけた?」
この問いの答えによって、彼なりに判断を下すのか。フィルの澄み切った青い瞳がランデルを射抜くように見据えている。ランデルはその眼差しから逃げず真っ直ぐ向き合った。
「フィルが、初めて俺の屋敷に泊まりに来た夜」
フィルは目を伏せて黙り込んだ。
「あ~、あのだんだん手が上がるやつ? 俺、だんだん眠くなるって自分で言って寝ちゃったよな」
「そう。だんだん眠くなって寝ぼけたフィルに『俺が運命の相手だ』って催眠をかけた……」
「あの振り子、お兄さんの発明品だと思ってた」
「あれはフランコ兄さんの発明品じゃないよ。振り子はあくまでもパフォーマンスで、無くてもかけることができるんだ」
「そっか……なーんだ、安心した!」
「え?」
(……え?)
予想を裏切る返しにランデルと心の声が重なってしまった。
「そんな催眠かけられなくったって、その時にはもう運命の相手だと思ってたよ」
「俺のこと運命の相手だと思ってた……?」
きょとんと目を丸くするランデルに向かって、フィルはちょっと偉そうに三本指を突き立てた。
「そう。俺には運命の相手が三人いるんだ。一人は『兄弟』であるセガール兄上。もう一人は『最愛の人』オーティス。最後の一人は『親友』……ランデル、お前だよ」
なんて優しく笑うんだ。
ちっとも守ってやれなかった名ばかりの兄を、『運命』の人だと言ってくれるのか。揺さぶられた感情が溢れ出しそうになって咄嗟に拳で口元を押さえた。
「フィル……ごめん……。それから、ありがとう」
ランデルの言葉は、僕自身の言葉でもあった。
「俺はランデルに騙されたとかまったく思ってないぜ。こんなこと言うと恥ずかしいけど、お前と過ごした時間は俺にとって宝物だから。だから罰なんて受けなくていい。変わらず俺の親友でいてくれればいいんだ」
――兄上は変わらず俺の兄上でいてくれればいい。
そう言ってもらえた気がした。鼻の奥がツンと痛む。彼らに気付かれないように踵を返した。
(オーティスがさっきの話を聞いていたら色々と大変だったな)
さあ、どうしよう。
ランデル・ウォルマン……彼のおかげでフィルを助けられた。可愛い弟が親友の罪を否定するのなら一度だけ目を瞑るか――。
「お待たせ。王宮に戻ろう」
「はい、殿下」
待機させていた側近と共にその場を立ち去った。
ランデルが遂に話を切り出した。
「どうしたんだよ。今日はやけに改まるな」
思った通り。重要な話をするようだ。話を聞き漏らさぬよう耳をそば立てる。
「俺、お前を騙してる。フィルが俺に好意を持ってくれてるのは……幻なんだ。本当のフィルの気持ちじゃない」
(幻?)
「フィルがレイモン伯爵の洗脳にかかりきらなかったのは――」
言葉を詰まらせたランデルは唇を震わせている。きつく閉じた目を開いて、悲しそうな瞳にフィルを収めた。
「多分……伯爵より先に俺が催眠をかけたからなんだ」
「催眠? またまた~冗談はいいって」
「冗談じゃなくて、両親もフランコ兄さんも知らない俺の秘密……。俺には魔力がない。でも昔から変わった力が使えるんだ。伯爵の洗脳も同じ類のものだと思う」
ごくりと生唾を飲み込む。
魔力以外の力をもった者がここにもいた。今すぐ彼を取り押さえるか――。
「待て待て待て。急に話が飛び過ぎて俺ちょっと付いていけてない……」
そりゃそうだ。親友に騙されていたら誰だって困惑する。
「セガール様に全て話すよ。罰を受けて罪を償う」
「だから待てって。一つ確認させてくれ。いつ、その催眠とやらを俺にかけた?」
この問いの答えによって、彼なりに判断を下すのか。フィルの澄み切った青い瞳がランデルを射抜くように見据えている。ランデルはその眼差しから逃げず真っ直ぐ向き合った。
「フィルが、初めて俺の屋敷に泊まりに来た夜」
フィルは目を伏せて黙り込んだ。
「あ~、あのだんだん手が上がるやつ? 俺、だんだん眠くなるって自分で言って寝ちゃったよな」
「そう。だんだん眠くなって寝ぼけたフィルに『俺が運命の相手だ』って催眠をかけた……」
「あの振り子、お兄さんの発明品だと思ってた」
「あれはフランコ兄さんの発明品じゃないよ。振り子はあくまでもパフォーマンスで、無くてもかけることができるんだ」
「そっか……なーんだ、安心した!」
「え?」
(……え?)
予想を裏切る返しにランデルと心の声が重なってしまった。
「そんな催眠かけられなくったって、その時にはもう運命の相手だと思ってたよ」
「俺のこと運命の相手だと思ってた……?」
きょとんと目を丸くするランデルに向かって、フィルはちょっと偉そうに三本指を突き立てた。
「そう。俺には運命の相手が三人いるんだ。一人は『兄弟』であるセガール兄上。もう一人は『最愛の人』オーティス。最後の一人は『親友』……ランデル、お前だよ」
なんて優しく笑うんだ。
ちっとも守ってやれなかった名ばかりの兄を、『運命』の人だと言ってくれるのか。揺さぶられた感情が溢れ出しそうになって咄嗟に拳で口元を押さえた。
「フィル……ごめん……。それから、ありがとう」
ランデルの言葉は、僕自身の言葉でもあった。
「俺はランデルに騙されたとかまったく思ってないぜ。こんなこと言うと恥ずかしいけど、お前と過ごした時間は俺にとって宝物だから。だから罰なんて受けなくていい。変わらず俺の親友でいてくれればいいんだ」
――兄上は変わらず俺の兄上でいてくれればいい。
そう言ってもらえた気がした。鼻の奥がツンと痛む。彼らに気付かれないように踵を返した。
(オーティスがさっきの話を聞いていたら色々と大変だったな)
さあ、どうしよう。
ランデル・ウォルマン……彼のおかげでフィルを助けられた。可愛い弟が親友の罪を否定するのなら一度だけ目を瞑るか――。
「お待たせ。王宮に戻ろう」
「はい、殿下」
待機させていた側近と共にその場を立ち去った。
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