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第二章
雷鳴山⑤
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季節は過ぎ、夜風が涼しくなり始める頃。
雷鳴山の虫たちは、美しい鳴き声を賑やかに奏でている。
真珠は雨季を過ぎたあとも雷神の結界の中にとどまり、人里と山を行き来する生活を送っていた。
ある日の夜――。
パチ……パチパチ……パチ……
「んー、いい音! いい匂い! そろそろ食べ頃かな。いっただきまーす!」
真珠は焚き火の傍らで焼いていた串焼きの魚を一本手に取って、「ふうふう」と息を吹きかける。火傷に気をつけながら、パリパリに焼けた皮ごとパクッと頬張った。
皮の中からホクホクとした白い身が現れ、もう一口、今度は大きくかぶりつく。
「くぅー!! おいっひー!」
はふはふと口の中の熱気を外に逃す。
「らいひんはまも、お一ついかがですか?」
三本あるうちの一本を、雷神に差し出した。彼は相変わらず岩の上でだらしなく座り、横目で真珠を眺めている。
「……いらん。毎日毎日わざわざここに来て食べる意味もわからん」
「こんなに美しい雷神様がいらっしゃるのに、私一人で食事するのは寂しいじゃないですか。魚、本当にいらないですか? おいしいのに」
雷鳴山に来てからというもの、真珠はずっとこの調子で雷神を食事に誘っているのだ。断られて残念に思いつつ、食べかけの魚を再び頬張った。
雷鳴山は木の実や山菜が豊富なのはもちろん、山の中を流れる水の中にはたくさんの魚が泳いでいる。本当にたまにだが、雷神が野鳥に雷を当てて落としてくれることもあって、今のところ食べ物に困ったことはない。
「お前……」
「はい!」
雷神から話しかけてくるのは珍しい。
「また下に行くのか?」
「ん? どうして知ってるんですか?」
余分なことは聞くなと言いたげに、雷神は目を細める。
質問のとおり、真珠はつい先日雷鳴山に戻ってきたはがりだというのに、再び麓の村へと下りる支度をしていた。
「いつもお世話になってる村の人からの依頼で……断れなかったんです」
「次からは行きたくないなら断れ。なあ……前から思ってたんだが、お前は妖なのになぜ歩いて移動するんだ」
「急になんですか? 私は人間ですから、妖のようにふわふわとは移動できませんよ」
「ふーん」と納得したのかしていないのか、いつものように岩の上から真珠を見下ろすと、再びその口は開かれた。
「お前は妖のくせに、そうやって食べ物を食べたり、体を流したりするんだな」
「か、かか体を流したりって……雷神様、盗み見したんですか!?」
『盗み見』の部分で片眉をぴくりと動かした雷神は、「ふっ」と鼻先で笑った。
「お前ごとき、なんとも思わん。それともなんだ? お前は私に見られて恥ずかしいのか?」
悪そうな目つきでニヤリとほくそ笑む。
「またその顔! は、恥ずかしいに決まってますよ!!」
顔を赤くした真珠は、薄笑いを浮かべる雷神に背を向けて、じろりと睨みつけた。
「それに、妖、妖ってなんですか? 確かに私には妖の血が流れていますけど、れっきとした人間ですよ!」
真珠は頬を膨らませて、「ふん!」と鼻息荒くそっぽを向いてしまった。ガタガタと震えていた出会った頃では考えられない光景だ。
「……気になったから聞いただけだ。そんなに怒るな」
お約束のように顔を傾げて真珠を見つめてくる雷神。彼の微笑みは人を惑わせる妖艶な魅力があり、怒っているはずの真珠の心もあっさりと流されてドキドキと高鳴ってしまっていた。
「雷神様はずるいです……」
なんだか雷神の手のひらで転がされているようで悔しい。真珠はさっさと話題を変えてしまおうと、先ほど触れた村人からの依頼について話しだした。
「……お世話になってる村とは別の村で、白蛇の妖が悪さをしているそうです」
「へえ」
こういった話題には、相変わらず興味なさそうである。
「白蛇といえば『神の使い』で、人に悪さをしないと伝えられています。でも、問題になっている白蛇は、お供物だけでは物足りないようで人の命まで要求するようになったそうです」
ここまでくると、神の使いではなく妖なのではと村の者たちも考え始め、一刻も早く退治してほしいとのことなのだ。
「私はいつもの村で祓除師の方たちが退治し終わるのを待って、封印の札を受け取ることになっているのですが、相手は上級の妖。大丈夫でしょうか」
「…………お前はそいつが退治されるまで、その村に近づくな。わかったな」
「……あっ、はい! わかりました!」
真珠は、雷神が心配していることに驚いた。嬉しくてつい口元が緩んでヘラヘラと笑ってしまう。
不満げに顔をそらしていた雷神は、締まりのない真珠の顔を見るなりピクッと眉を動かす。どうやら癪に触ってしまったらしい。
「お前のヘラヘラしたその顔。どうにかならないのか」
「雷神様ひどいです! この顔は生まれつきですよ。今回だけは特別に、私の両親には内緒にしといてあげます……あっ!」
真珠は仕返しを思いつくと、ニヤリと笑った。
「雷神様の知らないことを、お教えしましょうか」
そう言うと、真珠は何やら地面に絵を描き始める。雷神は怪訝な表情でその絵を見ていたが、あまりのひどさに目を細めた。
「なんだそのブサイクは。太鼓は何に使う」
「ふふふふ。これは人間たちが想像している雷神様のお姿です! この太鼓を鳴らして雷を操るんですよ。しかも、雷神様は人間のおへそを食べると言われてます。どうですか? 知らなかったでしょう」
得意げに説明する真珠に対して、雷神は「ああ、初耳だ」と冷笑しながら片眉をゆっくりと動かす。何かを企むその微笑みに背筋がゾクリとした。
その予想は見事的中。瞬く間に空がゴロゴロと唸りだす。
「ら、雷神様すみませんっ……い、いつものお茶目なお調子ですからっ……。故郷に帰ったら、雷神様はとても美しくておへそも食べないし太鼓も持ってないってみんなに広めます! だから、どうか許してくださいぃぃ」
何度もぺこぺこと頭を下げる真珠を笑っていた雷神の顔から、笑みが消えた。同時に、空に響く雷の音もピタリと止む。
「故郷? ……お前、帰るのか?」
真珠は、『それは都合がいい』と追い出されることを想像していたため、彼の予想外の反応に驚いた。
「雷神様。この前、川辺に白い彼岸花が咲いていました。赤ではなく白いものを見るのは初めてです。彼岸花の花が落ちれば、やがて冬が訪れます。一度故郷に帰りますが、春になったらまたここに戻ってくるつもりです。それで……冬を越せそうな住まいを作ることができたら……ずっとここにいてもいいですか?」
『ずっとここに』……ただの人間が神のそばにずっといたいなど、呆れるほど大胆なお願いだ。雷神からどんな答えが来るのか、息を殺して返事を待つ。
「やれるもんならやってみな」
真珠を見つめる瞳は今までのような傲慢さの滲むものではない。ただただ、純粋な優しさが溢れている。
真珠の顔は華やぎ、無邪気な笑顔を見せた。
「まずは白蛇の件を解決して、必ず戻ってきます! 心配なさらず待っていてください」
「心配などしていない」
「ふん」と鼻を鳴らした雷神は、すぐにいつもの彼に戻ってしまった。しかし、雷神の口元はずっと緩やかな弧を描いたままだ。
真珠は再び戻ってくることを約束すると、翌日下山し麓の村へと向かった――。
急にカイリの目の前が真っ暗になる。
じとっとした気味悪さと血生臭い匂いが鼻をついた。
――ガッッシャァァアアン!!
天が割れるような落雷の爆発音が轟く。
カイリは、反射的につむった両目を少しずつ開けていく。徐々に見えてきたそこは、荒廃し、ひっそりと静まり返った場所だった。
(ここは……あの廃村!?)
じとりとした暗闇の中に、一匹の大きな白蛇と雷神の姿がぼんやりと視界に入る。
「偽物か」
雷神は、白蛇に対して軽蔑の眼差しを向け呟いた。人里に下りてきた雷神を警戒する白蛇と雷神の間には、一触即発の緊張感が漂う。
「邪神がなぜここに来――」
「赤眼はどこだ」
氷のように冷たく沈んだ声が問い返し、白蛇に尋ねる権利さえ与えない。
沈黙していた白蛇が薄く口を開けた。
「赤眼なら喰った」
喰った……?
カイリは慌てて自分の体に視線を落とす。残念ながらすでに真珠の体は失われ、自分が小さな青火となっていることに気がついた。飛び回る力もなく、地面にびちゃりと落ちてしまっている。
「生きたまま連れてこいと言ったのに、暴れるから村の者に殺された。死んだ赤眼は使い物にならん。腐る前に喰った」
カイリの脳裏に村の者たちに押さえつけられ、抵抗して暴れる真珠の記憶が流れ込んでくる。
『――私は、あなたたちを助けるために来たんです! 祓除師の方が動けないから札を取りに来て欲しいというのは、嘘だったんですか!?』
『大人しくしろ!! お前さえ差し出せば白蛇の怒りが収まるんだ!!』
飛び交う怒号……
――やめて! お願い、やめて!!
頭に強い痛みが走った。周りの地面をよく見てみると、至る所に血溜まりが作られている。祓除師たちの物と思われる杖や、脱げた靴。村人も最後は白蛇と戦ったのだろう。斧や鎌、鍬などの農具が散乱している。
「…………そうか、人間だから死ぬのか。あいつは自分が助けようとした人間に殺されたのか」
次の瞬間、全身の血の気が引き戦慄が走った――
空を無理やり引き裂き、叩き割るような雷鳴。凄まじい衝撃で空気が震え地面が揺れる。稲妻が駆け巡り、いくつもの光の矢が、天から地面に突き刺さった……
――ハッ!!
カイリは勢いよく目を開けた。
ハァハァハァハァ……
激しく呼吸が乱れる。カイリは、悪夢を見た小花と同じように、頭が割れるような落雷の音で目を覚ました。
雷鳴山の虫たちは、美しい鳴き声を賑やかに奏でている。
真珠は雨季を過ぎたあとも雷神の結界の中にとどまり、人里と山を行き来する生活を送っていた。
ある日の夜――。
パチ……パチパチ……パチ……
「んー、いい音! いい匂い! そろそろ食べ頃かな。いっただきまーす!」
真珠は焚き火の傍らで焼いていた串焼きの魚を一本手に取って、「ふうふう」と息を吹きかける。火傷に気をつけながら、パリパリに焼けた皮ごとパクッと頬張った。
皮の中からホクホクとした白い身が現れ、もう一口、今度は大きくかぶりつく。
「くぅー!! おいっひー!」
はふはふと口の中の熱気を外に逃す。
「らいひんはまも、お一ついかがですか?」
三本あるうちの一本を、雷神に差し出した。彼は相変わらず岩の上でだらしなく座り、横目で真珠を眺めている。
「……いらん。毎日毎日わざわざここに来て食べる意味もわからん」
「こんなに美しい雷神様がいらっしゃるのに、私一人で食事するのは寂しいじゃないですか。魚、本当にいらないですか? おいしいのに」
雷鳴山に来てからというもの、真珠はずっとこの調子で雷神を食事に誘っているのだ。断られて残念に思いつつ、食べかけの魚を再び頬張った。
雷鳴山は木の実や山菜が豊富なのはもちろん、山の中を流れる水の中にはたくさんの魚が泳いでいる。本当にたまにだが、雷神が野鳥に雷を当てて落としてくれることもあって、今のところ食べ物に困ったことはない。
「お前……」
「はい!」
雷神から話しかけてくるのは珍しい。
「また下に行くのか?」
「ん? どうして知ってるんですか?」
余分なことは聞くなと言いたげに、雷神は目を細める。
質問のとおり、真珠はつい先日雷鳴山に戻ってきたはがりだというのに、再び麓の村へと下りる支度をしていた。
「いつもお世話になってる村の人からの依頼で……断れなかったんです」
「次からは行きたくないなら断れ。なあ……前から思ってたんだが、お前は妖なのになぜ歩いて移動するんだ」
「急になんですか? 私は人間ですから、妖のようにふわふわとは移動できませんよ」
「ふーん」と納得したのかしていないのか、いつものように岩の上から真珠を見下ろすと、再びその口は開かれた。
「お前は妖のくせに、そうやって食べ物を食べたり、体を流したりするんだな」
「か、かか体を流したりって……雷神様、盗み見したんですか!?」
『盗み見』の部分で片眉をぴくりと動かした雷神は、「ふっ」と鼻先で笑った。
「お前ごとき、なんとも思わん。それともなんだ? お前は私に見られて恥ずかしいのか?」
悪そうな目つきでニヤリとほくそ笑む。
「またその顔! は、恥ずかしいに決まってますよ!!」
顔を赤くした真珠は、薄笑いを浮かべる雷神に背を向けて、じろりと睨みつけた。
「それに、妖、妖ってなんですか? 確かに私には妖の血が流れていますけど、れっきとした人間ですよ!」
真珠は頬を膨らませて、「ふん!」と鼻息荒くそっぽを向いてしまった。ガタガタと震えていた出会った頃では考えられない光景だ。
「……気になったから聞いただけだ。そんなに怒るな」
お約束のように顔を傾げて真珠を見つめてくる雷神。彼の微笑みは人を惑わせる妖艶な魅力があり、怒っているはずの真珠の心もあっさりと流されてドキドキと高鳴ってしまっていた。
「雷神様はずるいです……」
なんだか雷神の手のひらで転がされているようで悔しい。真珠はさっさと話題を変えてしまおうと、先ほど触れた村人からの依頼について話しだした。
「……お世話になってる村とは別の村で、白蛇の妖が悪さをしているそうです」
「へえ」
こういった話題には、相変わらず興味なさそうである。
「白蛇といえば『神の使い』で、人に悪さをしないと伝えられています。でも、問題になっている白蛇は、お供物だけでは物足りないようで人の命まで要求するようになったそうです」
ここまでくると、神の使いではなく妖なのではと村の者たちも考え始め、一刻も早く退治してほしいとのことなのだ。
「私はいつもの村で祓除師の方たちが退治し終わるのを待って、封印の札を受け取ることになっているのですが、相手は上級の妖。大丈夫でしょうか」
「…………お前はそいつが退治されるまで、その村に近づくな。わかったな」
「……あっ、はい! わかりました!」
真珠は、雷神が心配していることに驚いた。嬉しくてつい口元が緩んでヘラヘラと笑ってしまう。
不満げに顔をそらしていた雷神は、締まりのない真珠の顔を見るなりピクッと眉を動かす。どうやら癪に触ってしまったらしい。
「お前のヘラヘラしたその顔。どうにかならないのか」
「雷神様ひどいです! この顔は生まれつきですよ。今回だけは特別に、私の両親には内緒にしといてあげます……あっ!」
真珠は仕返しを思いつくと、ニヤリと笑った。
「雷神様の知らないことを、お教えしましょうか」
そう言うと、真珠は何やら地面に絵を描き始める。雷神は怪訝な表情でその絵を見ていたが、あまりのひどさに目を細めた。
「なんだそのブサイクは。太鼓は何に使う」
「ふふふふ。これは人間たちが想像している雷神様のお姿です! この太鼓を鳴らして雷を操るんですよ。しかも、雷神様は人間のおへそを食べると言われてます。どうですか? 知らなかったでしょう」
得意げに説明する真珠に対して、雷神は「ああ、初耳だ」と冷笑しながら片眉をゆっくりと動かす。何かを企むその微笑みに背筋がゾクリとした。
その予想は見事的中。瞬く間に空がゴロゴロと唸りだす。
「ら、雷神様すみませんっ……い、いつものお茶目なお調子ですからっ……。故郷に帰ったら、雷神様はとても美しくておへそも食べないし太鼓も持ってないってみんなに広めます! だから、どうか許してくださいぃぃ」
何度もぺこぺこと頭を下げる真珠を笑っていた雷神の顔から、笑みが消えた。同時に、空に響く雷の音もピタリと止む。
「故郷? ……お前、帰るのか?」
真珠は、『それは都合がいい』と追い出されることを想像していたため、彼の予想外の反応に驚いた。
「雷神様。この前、川辺に白い彼岸花が咲いていました。赤ではなく白いものを見るのは初めてです。彼岸花の花が落ちれば、やがて冬が訪れます。一度故郷に帰りますが、春になったらまたここに戻ってくるつもりです。それで……冬を越せそうな住まいを作ることができたら……ずっとここにいてもいいですか?」
『ずっとここに』……ただの人間が神のそばにずっといたいなど、呆れるほど大胆なお願いだ。雷神からどんな答えが来るのか、息を殺して返事を待つ。
「やれるもんならやってみな」
真珠を見つめる瞳は今までのような傲慢さの滲むものではない。ただただ、純粋な優しさが溢れている。
真珠の顔は華やぎ、無邪気な笑顔を見せた。
「まずは白蛇の件を解決して、必ず戻ってきます! 心配なさらず待っていてください」
「心配などしていない」
「ふん」と鼻を鳴らした雷神は、すぐにいつもの彼に戻ってしまった。しかし、雷神の口元はずっと緩やかな弧を描いたままだ。
真珠は再び戻ってくることを約束すると、翌日下山し麓の村へと向かった――。
急にカイリの目の前が真っ暗になる。
じとっとした気味悪さと血生臭い匂いが鼻をついた。
――ガッッシャァァアアン!!
天が割れるような落雷の爆発音が轟く。
カイリは、反射的につむった両目を少しずつ開けていく。徐々に見えてきたそこは、荒廃し、ひっそりと静まり返った場所だった。
(ここは……あの廃村!?)
じとりとした暗闇の中に、一匹の大きな白蛇と雷神の姿がぼんやりと視界に入る。
「偽物か」
雷神は、白蛇に対して軽蔑の眼差しを向け呟いた。人里に下りてきた雷神を警戒する白蛇と雷神の間には、一触即発の緊張感が漂う。
「邪神がなぜここに来――」
「赤眼はどこだ」
氷のように冷たく沈んだ声が問い返し、白蛇に尋ねる権利さえ与えない。
沈黙していた白蛇が薄く口を開けた。
「赤眼なら喰った」
喰った……?
カイリは慌てて自分の体に視線を落とす。残念ながらすでに真珠の体は失われ、自分が小さな青火となっていることに気がついた。飛び回る力もなく、地面にびちゃりと落ちてしまっている。
「生きたまま連れてこいと言ったのに、暴れるから村の者に殺された。死んだ赤眼は使い物にならん。腐る前に喰った」
カイリの脳裏に村の者たちに押さえつけられ、抵抗して暴れる真珠の記憶が流れ込んでくる。
『――私は、あなたたちを助けるために来たんです! 祓除師の方が動けないから札を取りに来て欲しいというのは、嘘だったんですか!?』
『大人しくしろ!! お前さえ差し出せば白蛇の怒りが収まるんだ!!』
飛び交う怒号……
――やめて! お願い、やめて!!
頭に強い痛みが走った。周りの地面をよく見てみると、至る所に血溜まりが作られている。祓除師たちの物と思われる杖や、脱げた靴。村人も最後は白蛇と戦ったのだろう。斧や鎌、鍬などの農具が散乱している。
「…………そうか、人間だから死ぬのか。あいつは自分が助けようとした人間に殺されたのか」
次の瞬間、全身の血の気が引き戦慄が走った――
空を無理やり引き裂き、叩き割るような雷鳴。凄まじい衝撃で空気が震え地面が揺れる。稲妻が駆け巡り、いくつもの光の矢が、天から地面に突き刺さった……
――ハッ!!
カイリは勢いよく目を開けた。
ハァハァハァハァ……
激しく呼吸が乱れる。カイリは、悪夢を見た小花と同じように、頭が割れるような落雷の音で目を覚ました。
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