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第130話 女勇者の憂鬱
しおりを挟む遺跡を離れてセシルの待つ場所へ急いだ。
人間1人背中に乗せて走ると、普段出してる速度も出やしない。
「シン、もういいわ降ろして」
周囲の気配を確認する。背後にメアを攫った奴らの姿は見えない。
メアを地面に降ろした。
「……シン、私」
「無事で良かった」
先ず、メアが連れ去られた理由はどうあれ、無事だったことを言葉にして言いたかった。
セイクリッドの街で何かの縁で出会ったわけだが、今まで共に旅をして来た仲間が傷一つなく戻って来た。
「……うん。私の油断だったわ、ごめん」
「メアが謝る必要なんてない。まあ、連れ去れた後のことは気になるから話してほしいけどな」
「分かってる……そういえばセシル! セシルはどうしたのよシン!」
良かった、元気が戻ったようだ。
セシルに待機するように言っていた場所を指差した。
「何処? いないじゃない! セシルー!」
メアがそう言葉を出すと、暗い森の茂みの中からひょこっと顔を覗かせる獣人が見えた。
セシルもほっとしたようで、メア、メアと言葉大きく聞こえて来る。
「あの籠手……」
渡してしまった籠手をどうするべきか。
ウォールノーンで爺さんは過去、魔王と対峙した者が使っていた籠手だと言っていたが。
まさか、あいつら……
可能性はゼロではない。魔王の城を目指すことがいくら世間からは馬鹿げていると言われていても、其処を目的地として旅をしている連中は俺たち以外にもいることだろう。
ただ、正直なところ言ってしまえば誰が魔王を討伐しようと同じこと。
この魔物時代の終焉が訪れるなら、より魔王を討伐したい者たちが先行すればいい。そして、魔王討伐が現実となったのならば、魔王の城に眠る秘宝のことも世の明るみに触れることだろう。
だが、この長い長い旅路をして来て、魔王という奴がどんな存在なのか正直見てみたい気はする。
初代の魔王は魔竜を遥かに超える大きさだったと古書には記されており、次代の魔王に関しては巨大な体躯、六つの手それぞれに巨槍を振り回していたと言われている。
「何ボサっとしてんのよ。私たち魔物討伐依頼の途中だったでしょ?」
「ああ」
エルピスの街に住むコンセット夫人から引き受けた魔物討伐を忘れてたわけではない。
奴らのリーダーだと思われるレドックが欲しがっていた籠手。みすみす渡してしまったのはやむを得なかったが、今、また奴らの元に行って籠手を取り返すというのは利口な考えではない。
一度連れ去れたメア、そしてセシルがいる状況。
再度誘拐犯の元に連れて行くわけにも行かない。
それより、先ずは魔物討伐依頼のあった七星村へ。
北東に進んで着いた遺跡の位置から考えると、七星村へは南東方向へ進む必要がある。
余計な出来事はあったが、俺たちは本来のコースである七星村へ歩みを進めた。
◇
七星村へ向かっている最中、メアがダークリーパーに連れ去られた後のことを聞いた。
血の契約、ダークリーパーたちはそれによってレドックと従属関係にあったようで、俺たち3人を森の奥で待ち伏せしていたとダークリーパーに連れ去られた当の本人は話す。
ウォールノーンで籠手を得てからエルピスの街を出るまで隙を待っていたと話すのは、ダークリーパー共に指示を出した張本人であるレドックだったそうだ。
ウォールノーンでは多くの他の勇者たちの目もある、エルピスの街へ辿り着くまでの草原は見晴らしもよく奇襲には不向き、そしてエルピスの街ではまたしても勇者たち。
俺がレドックたちの気配に気付けなかったのは不覚中の不覚。
そうして待ちに待った好機、エルピスの街を離れた先にある森での待ち伏せ。
メアはダークリーパー共と黒い異空間を通り抜け、レドックたちの元に来てしまったのだという。
黒い異空間、それはレドックが持つ能力だそうで、やたらと自慢げに話していたそうだ。
「にしても、その異空間。便利な能力だな」
「馬鹿! 関心してる場合じゃないでしょ! おかげで私、1人で敵3人の相手していろいろ聞かれたのよ!? そこんとこ分かってるの!?」
「まあ、無事だったから良かったじゃないか」
メアはムスッとしてそっぽを向いてしまった。
「……心配じゃ、なかったの?」
メアは俺に背を向けたままそう言った。
「心配だったよ。でもこうして無事に俺とセシルの元に帰って来たんだ。それでいいんじゃないか?」
何をされ、何を聞かれたのか。仮に俺がその質問をメアにしたとして、本人の気が晴れるならいくらでも聞いてやる。
「……そうね、分かったわ。ーー何よセシル」
セシルが前を行くメアの顔を覗き込んだ。
そしてメアの手を握る。
「よし、さっさと七星村に行くぞ」
こんな呑気に歩いていては、また、いつ何処で魔物が襲って来るか。
森にいるのはダークリーパーだけじゃない。観察眼には魔物のステータスは表示されていないが、ずっと観察眼を使っているわけにもいかない。
進む道はまだ先、南東。
フィラによれば七星村は強固な塀に囲まれた村のようだ。
魔防壁はないが、弓矢を扱う技術は高いらしい。
弓矢で魔物に対抗、七星村の村人たちは交戦的だ。
魔防壁の張られていない、さらに国の兵士たちの護衛もない、そうした村はおのずと自分たちの力で魔物と対抗しなければならない。
剣、槍、斧、弓……使う武器は何であれ、村に残るということは魔物と戦うということ。
俺は過去の旅先の中で幾度なく村人たちが戦う姿を見てきた。
そのたびに何故、村を離れないのかといつも思っていたのだが話を聞けば納得出来るものがある。
自分たちが生まれた村、その村で死ぬなら本望。そんな言葉を言う村人が多いこと多いこと。
反面、命が最優先だと早々に街に避難する村人たちは残る村人たちに冷たい目で見られたり罵声の言葉を浴びせられたそうだ。
安全な街に移動した村人たち、そして今も魔物生息領域の村に住む人々。両者の違いをこうだと断定出来るものはないが、各々の考えがあった先の決断だったのだろう。
もちろん村には国の兵士たちが人々を魔物の手から守る為に派遣されることになるのだが、中には国に等価交換として差し出すものがないと断念する村もある。
国の兵士たちも鬼ではない為、等価交換出来るものを村人たちと話し合うそうなのだが、それでも提供出来るものはないと断念せざるを得ない状況の村もある。
そうした場合、国の兵士たちは残る村人たちを街へ移動するように説得を試みるようなのだが、村人たちが村に残る決心というのはなかなか崩れないそうだ。
そして今回向かっている七星村に残る住人たち。単なる魔物討伐依頼だけならまだしも、街へ移動しない住人たちがいる村へ行くというのは面倒ではある。
面倒というのは、魔物の脅威にさらされてまで村に残る人間というのは何らかの意思がない限りそうはしないはずだ。
そうして、そうこうしている間に塀が見えて来た。
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