8 / 17
第8話 アラクネーに負ける黒魔導士
しおりを挟む俺とローサは歩きに歩いた。
歩いて歩いて。
そしていつしか夜になっていた。
「今日はこのあたりで休もう」
砂利道の近くにあった、木の密集した場所。
森と呼べるほど大きくはない。
「キャンプね!」
「違う」
相変わらず目的が分かっていないのか、ローサはテントの中でごろごろする。
まあ、気持ちは分からなくもない。
どんよりとした雰囲気で夜を過ごすより何倍もマシだ。
俺は燃える薪に、また近くに落ちてあった木を放り投げる。
ローサも出て来て、周辺に落ちてある木を拾っている。
「きゃああ!!」
つい、余所見をした時だった。
振り向くと、ローサの頭上からキラリと光る長い糸のようなものが彼女の右脚を捉える。
逆さまになってしまい、ローサは必死に抵抗している。
しまいにはもう一方の脚も捕らえられ、ものは丸見えだ。
俺は跳躍して糸を切った。
子竜の爪だとしても、斬れ味は抜群にいい。
「うっ!」
ローサは尻から地面に落ちた。
頭から落ちなかっただけ幸いだ。
そして暗闇の木の上から降りて来たのは、8本の長い足が特徴的な蜘蛛のモンスター。
アラクネーだ。
上半身はどうみても人型ではある。
「何か用か?」
そう尋ねてみる。
人の顔だ。
話せるといいのだが。
むやみな争いは避け、ここは静かに安眠したい。
「わたしのテリトリーで火をたくな!!」
アラクネーは怒っていた。
前の2本の鋭い脚爪を向ける。
どうやら、入ってはいけない場所だったらしい。
そういうことだったか。
なら、倒す必要はない。
「ローサ、場所を変えよう」
「ええ」
倒してこの場で休息をとるのも良かった。
だが、俺は殺し屋だ。
モンスター討伐屋ではない。
スライムとゴブリンには天に召してもらったが、あれは仕方ない。
状況が状況だ。
テントをたたみ、砂をかけて火を消す。
そして赤い目が光るアラクネーにぺこりと謝るローサ。
場所を変えて、また歩き始める。
虫の声が響く中、夜の砂利道をまた歩く。
「ねえ、もうこの辺でいいんじゃない?」
「だめだ。こんなひらけた場所なんて狙ってくださいと言ってるようなもの」
俺は大丈夫だとしても、ローサがいる。
仮に酔拳ならぬ、眠拳が使えるならまだしも、元が弱い。
そんなもの大したことないだろう。
そんなことはどうでもいい。
いくら、さほど強いモンスターが出ないとは言われていても、夜になれば話は違ってくる。
恐らく、上級魔導士ではないと倒せないモンスターは出ないとは思うが、どうもこればっかりは分からない。
俺は殺し屋だ。
狙う対象が魔導士の時もあるから、多少彼等の知識はつけている。
そして、狙う対象がモンスターを飼っている時もある。
だから、少なくともある程度のモンスターに関する知識もある。
殺し屋としてやって行く為。言えばそうだ。
好き好んで魔導士やモンスターの知識を身につけたわけではない。
魔法はもちろん使えない。
ただ、それがどんな魔法なのか程度の知識。
ローサはもう疲れきった様子でさっきから早く休みたい休みたい! とうるさい。
本当に大陸一の魔導士を師匠に持つ黒魔導士とは思えない。
子供っぽく、わがまま。
それでいて、弱い。
もし、男なら放り出して1人行っているところだ。
俺は殺し屋だ。
甘くはない。
「あの場所は?」
ローサがそう言って指を指す。
「行ってみよう」
砂利道を外れて、草むらの中を進んで行く。
そうして見えて来たのは、夜の大地に忽然と現れた巨大な岩。
とても大きく、ここでなら一夜を凌げそうだ。
そこでテントをまた張って、その日は就寝した。
○
真夜中、何かの音で目が覚めた。
どすん、どすんと、体感に来る。
何か巨大な生き物が歩いている。
そんな感じだ。
そして、その何かは俺たちのいるテントに向かって来ているようにも感じる。
「ローサ、起きろ」
しかし、ぐーぐーといびきをかいて気持ち良さそうに寝ており、起きる素振りもない。
もう一度、肩を揺すってみる。
「セフ婆様~、もう許してください」
何の夢を見ているのか。
やはり、起きそうもない。
仕方がない。
「痛い!? 何!? 何何!?」
爪でゆっくりと腕あたりを少し刺激してやった。
仕方ないだろう。
こうするしか思いつかなかったんだから。
それも、今、俺とローサのいるテントに向って来ている何かから離れる為。
そしてローサも気づく。
どすん、どすん、と近づいてくる音に。
テントから出て、その方向を確認する。
「なんだあれは?」
夜の闇ではっきりとした姿は確認出来ない。
だが、間違いなく音の主はあれだ。
巨大な生物。
ゆっくりと。
ゆっくりとした動きで俺たちの方へ向ってくる。
あんな人間はいない。
シルエット的にも、何かのモンスターであることには間違いないだろう。
月の光が影を作り、はっきりと確認出来ないが、頭部あたりには2本の角がある。
早めに気づいて良かった。
俺とローサは隠れるようにその場から去った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる