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最終章・世界の裏側
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和冴の地元のあたりは大学から少し離れた郊外にあった。そう距離のないところなのに、和冴は私に地元のことを話したことがない。母親のことはもちろん、父親や兄弟のことも、何一つ言わなかった。
……ううん違う。私が聞かなかったんだ。和冴を取り巻く環境や、人に嫉妬心を覚えた。そればかりにかまけて、興味ももたなかった。和冴がどんな痛みを、抱えているかなんて考えもしなかった。
その上、ひどい言葉を並べ立てて、和冴を追い詰めていたんだろう。馬鹿は和冴じゃない。私じゃないか。
和冴と向き合いたい。はじめまして、から、やり直したい気分だ。
「いらっしゃいませえ、大根おいしいですよぉ」
遠くから、声が聴こえた。
「あら、かわいいお兄ちゃんだねえ」
「ほんと、イケメンってやつだね」
おばさんたちの囲みの上から、ひときわ大きな、男の頭が出てる。
「和冴!」
私は遠くから叫んだ。和冴は一度、大きく辺りを見回してから、私に気付いた。
「ごめんなさい、ちょっと……ひ、ひかちゃんっ」
周りに謝りながら人垣をわけて、私を呼んだ和冴の目には、涙がたまっていた。
その涙に驚きながら、和冴のもとに駆け寄ると、彼は私をぎゅっと、人目もはばからず抱き締める。
「ちょ、和冴」
「ひかちゃん、なんでここにいるの?チリに行ったんじゃなかったの?」
和冴の大きな体は震えていた。細く絞り出したような声は、涙で濡れてた。
「バイバイなんて言わないでよ。俺、頑張って働いてひかちゃんのこと、追いかけるから。だから、一緒にいて。お願い」
なんだ……和冴。私のことちゃんと好きなんじゃん。ちゃんと、泣けるんじゃん。
私は何を不安がっていたんだろう。何を怒っていたんだろう。
私は和冴の背を抱き締めながら、また可愛くないことを言う。
「バカじゃないの?どうしてすぐに信じるの。嘘だよ、チリなんて、嘘に決まってるじゃん」
「う、嘘?じゃあサヨナラも嘘」
「あるわけないサヨナラなんて……こんなに、好きなのに」
和冴は私の本音を聞いてとうとう、涙をぬぐうほどに、涙を落とした。
ずっと、不安だっただろう。キライ、キライばかり言ってきた。好きって言葉を求めるばかりで、伝えてこなかった。
どんな気持ちで
「ひかちゃんがどう思っても俺は好き」
なんて言葉を私に囁き続けていたんだろう。
「和冴」
私は背伸びをして、背の高い和冴の、頬を包んで笑う。
「ごめんね」
和冴はこどものように泣きながら、首を横に振る。
「和冴」
もう一度、愛しい人の名を呼ぶ。和冴は子犬のような瞳で私を見つめた。
「好きだよ」
「……俺も、俺も好き」
和冴はそう告げて、笑った。その笑顔は、いつも誰かに向けている笑い顔より、とても輝いている気がした。
和冴、いつか本当に二人で、世界の裏側を見に行ってみようか。きっとどんな世界でも和冴と一緒なら、世界一、輝いて見えると思うんだ。了。
和冴の地元のあたりは大学から少し離れた郊外にあった。そう距離のないところなのに、和冴は私に地元のことを話したことがない。母親のことはもちろん、父親や兄弟のことも、何一つ言わなかった。
……ううん違う。私が聞かなかったんだ。和冴を取り巻く環境や、人に嫉妬心を覚えた。そればかりにかまけて、興味ももたなかった。和冴がどんな痛みを、抱えているかなんて考えもしなかった。
その上、ひどい言葉を並べ立てて、和冴を追い詰めていたんだろう。馬鹿は和冴じゃない。私じゃないか。
和冴と向き合いたい。はじめまして、から、やり直したい気分だ。
「いらっしゃいませえ、大根おいしいですよぉ」
遠くから、声が聴こえた。
「あら、かわいいお兄ちゃんだねえ」
「ほんと、イケメンってやつだね」
おばさんたちの囲みの上から、ひときわ大きな、男の頭が出てる。
「和冴!」
私は遠くから叫んだ。和冴は一度、大きく辺りを見回してから、私に気付いた。
「ごめんなさい、ちょっと……ひ、ひかちゃんっ」
周りに謝りながら人垣をわけて、私を呼んだ和冴の目には、涙がたまっていた。
その涙に驚きながら、和冴のもとに駆け寄ると、彼は私をぎゅっと、人目もはばからず抱き締める。
「ちょ、和冴」
「ひかちゃん、なんでここにいるの?チリに行ったんじゃなかったの?」
和冴の大きな体は震えていた。細く絞り出したような声は、涙で濡れてた。
「バイバイなんて言わないでよ。俺、頑張って働いてひかちゃんのこと、追いかけるから。だから、一緒にいて。お願い」
なんだ……和冴。私のことちゃんと好きなんじゃん。ちゃんと、泣けるんじゃん。
私は何を不安がっていたんだろう。何を怒っていたんだろう。
私は和冴の背を抱き締めながら、また可愛くないことを言う。
「バカじゃないの?どうしてすぐに信じるの。嘘だよ、チリなんて、嘘に決まってるじゃん」
「う、嘘?じゃあサヨナラも嘘」
「あるわけないサヨナラなんて……こんなに、好きなのに」
和冴は私の本音を聞いてとうとう、涙をぬぐうほどに、涙を落とした。
ずっと、不安だっただろう。キライ、キライばかり言ってきた。好きって言葉を求めるばかりで、伝えてこなかった。
どんな気持ちで
「ひかちゃんがどう思っても俺は好き」
なんて言葉を私に囁き続けていたんだろう。
「和冴」
私は背伸びをして、背の高い和冴の、頬を包んで笑う。
「ごめんね」
和冴はこどものように泣きながら、首を横に振る。
「和冴」
もう一度、愛しい人の名を呼ぶ。和冴は子犬のような瞳で私を見つめた。
「好きだよ」
「……俺も、俺も好き」
和冴はそう告げて、笑った。その笑顔は、いつも誰かに向けている笑い顔より、とても輝いている気がした。
和冴、いつか本当に二人で、世界の裏側を見に行ってみようか。きっとどんな世界でも和冴と一緒なら、世界一、輝いて見えると思うんだ。了。
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