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九章・和冴の秘密
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「かずくんの……あの性格、不思議に思ったことない?」
見晴らし山のてっぺんのベンチに腰かけた彼女は、唐突に、私に尋ねた。
「性格って、ヘラヘラしたとこ?」
「あれ見て、ひかちゃんは正常だと思う?」
そう聞かれて、私は首をひねった。考えたこともなかったことを言われて、戸惑う私に、彼女はうつむいた。
「かずくんのあの笑顔も、みんなに優しいのも、ひどく寛容なのも、自分の意見がないのも、物事を真っ正面からだけ見るのも、全部、自己防衛なんだと私は思ってる」
「どういうこと」
すると、彼女はスカートをぎゅっと握って、話し始めた。
「かずくんにはお母さんがいないの。
かずくんを置いて、男と逃げたから」
ガツンと、何かで頭を殴られたような衝撃が走った。母親の話しなんて聞いたことがない。それをおかしいとなんて思いもしなかった。ひどく、めまいがする。
「それからだよ、かずくんの表情に笑顔しかなくなったのも、みんなに優しくなったのも……かずくんはお母さんに嫌われて、置いていかれたと思ってるから。もうひとりぼっちになりたくなくて、そうしてるの。またひとりぼっちになったらかずくんはもう、壊れてしまう」
彼女は鼻をすすって、ゆっくりと私に向き直る。
「ありがちではないけど、よくある話だと思うよ。
片親が蒸発なんて話。でも、そんなの関係ない。大切なのは、かずくんは今も、苦しんでるってこと」
身体中がケイレンするかのように震えて、今度は私がうつむいた。ただ、ただ、考えていた。
ぐるぐる、ぐるぐる、と。
私……和冴に、最後、なんて言った?無理……って。和冴は置いていくってそう言わなかった?
体の力が抜けていく。今にもベンチから転げ落ちるかと思うほどだった。足を突っ張り、姿勢を保って、私は彼女に
「瞳子……ちゃん、和冴は、どこ。
死んだりしてない……よね?」
すがるように、聞いた。彼女は大きくため息をついて、私に激しい眼差しを向けた。
「聞いてどうするの。生きてたら、また傷つけるつもり?」
そこまで聞いて、彼女がすべて和冴から話を聞いていると理解した。ぴしゃりと言い捨てられた、彼女の言葉が胸に突き刺さる。
「私……なんにも知らなかった和冴に謝りたい。謝って……」
伝えたい。本当は、大好きなんだってことを。
目から涙が溢れ、私はたまらずに、両手で顔を覆い隠して、しゃくりあげながら泣いた。すると彼女は、私の肩を強く抱いて、囁く。
「意地悪してごめんね、かずくんは無事だよ。今、あいつ、私の実家で働いてる」
「え」
私は、彼女を見つめた。きっと、鼻水や涙でひどい顔だろうけれど。
「働いてるって……」
どういうこと?私の言葉を遮って、彼女は私の肩を撫でながら、尋ねた。
「ひかちゃんさ、留学するんだって?」
「え、留学……なんの話し?」
「チリに行くんでしょ」
彼女は、困ったように笑っていた。そこではじめて、合点がいった私は思わず声をあげた。
「あ!世界の裏側って私」
「言ったでしょ。そういう言葉のあやみたいなの、かずくんに通用しないよ。今、かずくん、一生懸命働いてる、お金ためるために学校もやめて、ひかちゃんの留学先にいくんだって。携帯もお金がかかるからって解約しちゃったの」
和冴は、バカだ。
でも、それはいつもの和冴だ。
私の知ってる、和冴だ。
ほっとしたらまた涙がこぼれる。そんな私の様子を見て、彼女は背中をトンと押した。
「ひかちゃん、あのバカ、とめてあげて。私や私の両親が何言ってもだめなの」
私は力強くうなずいて、別れ際、彼女にもらった住所をたよりに和冴のもとへ走った。
「かずくんの……あの性格、不思議に思ったことない?」
見晴らし山のてっぺんのベンチに腰かけた彼女は、唐突に、私に尋ねた。
「性格って、ヘラヘラしたとこ?」
「あれ見て、ひかちゃんは正常だと思う?」
そう聞かれて、私は首をひねった。考えたこともなかったことを言われて、戸惑う私に、彼女はうつむいた。
「かずくんのあの笑顔も、みんなに優しいのも、ひどく寛容なのも、自分の意見がないのも、物事を真っ正面からだけ見るのも、全部、自己防衛なんだと私は思ってる」
「どういうこと」
すると、彼女はスカートをぎゅっと握って、話し始めた。
「かずくんにはお母さんがいないの。
かずくんを置いて、男と逃げたから」
ガツンと、何かで頭を殴られたような衝撃が走った。母親の話しなんて聞いたことがない。それをおかしいとなんて思いもしなかった。ひどく、めまいがする。
「それからだよ、かずくんの表情に笑顔しかなくなったのも、みんなに優しくなったのも……かずくんはお母さんに嫌われて、置いていかれたと思ってるから。もうひとりぼっちになりたくなくて、そうしてるの。またひとりぼっちになったらかずくんはもう、壊れてしまう」
彼女は鼻をすすって、ゆっくりと私に向き直る。
「ありがちではないけど、よくある話だと思うよ。
片親が蒸発なんて話。でも、そんなの関係ない。大切なのは、かずくんは今も、苦しんでるってこと」
身体中がケイレンするかのように震えて、今度は私がうつむいた。ただ、ただ、考えていた。
ぐるぐる、ぐるぐる、と。
私……和冴に、最後、なんて言った?無理……って。和冴は置いていくってそう言わなかった?
体の力が抜けていく。今にもベンチから転げ落ちるかと思うほどだった。足を突っ張り、姿勢を保って、私は彼女に
「瞳子……ちゃん、和冴は、どこ。
死んだりしてない……よね?」
すがるように、聞いた。彼女は大きくため息をついて、私に激しい眼差しを向けた。
「聞いてどうするの。生きてたら、また傷つけるつもり?」
そこまで聞いて、彼女がすべて和冴から話を聞いていると理解した。ぴしゃりと言い捨てられた、彼女の言葉が胸に突き刺さる。
「私……なんにも知らなかった和冴に謝りたい。謝って……」
伝えたい。本当は、大好きなんだってことを。
目から涙が溢れ、私はたまらずに、両手で顔を覆い隠して、しゃくりあげながら泣いた。すると彼女は、私の肩を強く抱いて、囁く。
「意地悪してごめんね、かずくんは無事だよ。今、あいつ、私の実家で働いてる」
「え」
私は、彼女を見つめた。きっと、鼻水や涙でひどい顔だろうけれど。
「働いてるって……」
どういうこと?私の言葉を遮って、彼女は私の肩を撫でながら、尋ねた。
「ひかちゃんさ、留学するんだって?」
「え、留学……なんの話し?」
「チリに行くんでしょ」
彼女は、困ったように笑っていた。そこではじめて、合点がいった私は思わず声をあげた。
「あ!世界の裏側って私」
「言ったでしょ。そういう言葉のあやみたいなの、かずくんに通用しないよ。今、かずくん、一生懸命働いてる、お金ためるために学校もやめて、ひかちゃんの留学先にいくんだって。携帯もお金がかかるからって解約しちゃったの」
和冴は、バカだ。
でも、それはいつもの和冴だ。
私の知ってる、和冴だ。
ほっとしたらまた涙がこぼれる。そんな私の様子を見て、彼女は背中をトンと押した。
「ひかちゃん、あのバカ、とめてあげて。私や私の両親が何言ってもだめなの」
私は力強くうなずいて、別れ際、彼女にもらった住所をたよりに和冴のもとへ走った。
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