―海神様伝説―

あおい たまき

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一章 海神様の化身

お香

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 *こっちゃこ……こっちにきなさい。
 *おい……私
  ***

「紗英か」
「んだよ」
「こっちゃこ」
 そう言われてはじめて、紗英は「ん」と、声をあげながら、力任せに襖をあけた。静香はその名にたがわず、静かに香を焚く。ツンとした匂いが紗英の鼻をついた。

「おばば、この匂い、何だべか?」
 紗英は眉をしかめながら尋ねた。


 ぱたぱたと香台をあおぎ、部屋中にその香りを、行き渡らせるようにしてから静香は、紗英に笑いかける。
「海神様の好きな匂いだ」
「海神様の?」
「んだ、海草と海蛇うみへび海牛うみうし海星ひとで雲丹うにの殻。それから、がんがら崖の岩を、粉にして練り込んだもんだよ」
「海でとれたもんばっかしだっちゃ」
「んだよ、何せ海の神様だで」
「んでさ、おばばは化身だから、この変な匂いが好きだべか」
「んだ、おいも好きだ」
 皮肉をこめて言ったはずの言葉が、まっすぐに受け止められてしまった紗英は、ばつが悪くなって苦笑した。紗英の心を読んだか、静香は穏やかに微笑み、桐箱から布であしらわれた長財布を取り出すと、中から札を抜きとった。

 そして「小遣いだ」と、紗英に手渡す。一万円だった。

 知らず知らずの間に口元が緩んでしまう。その事に、はたと気がついた紗英は、自分がひどく浅はかな人間であるかのように感じて恥ずかしくなり、うつむきながら静香に伝えた。

「ありがとう、おばば」
「大切に使わいよ」
「ん」
 小遣いをもらったあと、すぐに部屋をあとにすることはさすがに気が引けて、座敷の畳に尻をつけた。

 静香は、香台のすぐ側の座布団を使うよう、うながしたが、紗英は断り、静香から出された茶をすする。


 湯飲みの中には茶柱が立っていた。

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