―海神様伝説―

あおい たまき

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二章 古の化身

勘助

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 *おぼこい……おさない
 *ワラシ……男の子
 *贄……神に捧げる物
 *おめらい……あなたのうち
 *こいづ……こいつ


  ***
 ザザーン。ザザーン……波の音。小さな頃からずっと聴いている、穏やかな波の音だった。とても心地のよい海の風が、紗英の体をすり抜けて吹いていく。

 その波音と、頬をなでる風に酔いしれていると、女の悲鳴にも似た声が聴こえて、紗英は驚いてそちらを振り向いた。

「まだほんのおぼこいワラシだ、御堪忍ごかんにんくだせえ」
「まだ言うだか」
「おめらいのワラシが海神様のにえだどは、こいづが生まれた頃から決まってたべ」
 ぴくん、紗英の耳が動く。今……海神様って……?

「おめえはよ、贄さはらんで贄、育てたんだ。……まだ若ぇ。今度は贄でねえ子さ、宿やどして育てでけろや」

 息をひそめて様子をうかがうと、どうやら半裸の男衆が、年端もいかない少年の腕を掴んで、母親らしき女から引き離そうとしているところだった。

「いやだああ、勘助えええ」
 母親の断末魔の叫びが耳をつんざいて、紗英の体はカタカタと震えた。勘助と呼ばれた少年は、母の頭に触れて、
「母ちゃ……」と愛しそうに母を呼ぶ。

 そして
「母ちゃ、おらよ。母ちゃの腹さ入ってまた生まれてくるでよ、そなぐして泣きすな」汚れた顔をこすりながら、そう、笑った。

 燦々さんさんたる、海からの照り返しを受けて、てらてらと光る勘助のその顔は、幾筋もの涙に濡れている。

 それでも、口をへの字に結んだ勘助の、目の奥の光はとてつもなく、強かった。紗英はその力の強さに圧倒される。

 きっと可愛い、可愛いと育てたのだろう。
 母親は勘助の言葉に泣き崩れ、勘助は男衆に、取り囲まれて、やがて洞窟の中へと入っていった。
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