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四章 衝動の行く末
交際
しおりを挟む*なじょ(何如)する……どうする
*いさ……いいさ
*いきなし……すごく
***
静香が亡くなってから、一ヶ月が過ぎた。
「海神様の後釜は」
集落の男衆や、家族から、ずいぶんと追求を受けた紗英だったが、知らぬ存ぜぬを突き通した。未だ海神様の化身不在のまま、男衆は朝早くから漁に出ていく。今のところ、大きな問題は起きていない。
「行ってきます!」
紗英は玄関の木戸を引くと、元気よく外へと飛び出していく。庭にまいた米を食みに寄っていた雀がパタパタと一斉に飛び立った。
紗英が行く小道には、雪滑り防止のための溝が、こしらえてある。その溝で転げないよう、飛ぶように紗英は下っていく。その先の丁字路に待つ人影に、紗英は笑顔で手を振った。
「かんちゃーん」
「紗英、遅えぞ」
「ごめんごめん」
「ま、いさ。んで行くど、ほれ」
幹太は眩しいほどの笑顔で、紗英に手のひらを差し出す。紗英はためらいなく、その手をとって二人は共に歩みだした。夏の暑い日……じんわりと汗をかいても気にとめない。互いのそれすらも、愛しいと思える。恋とは不思議なものだ。
奇しくも、静香が亡くなったあの日、口づけを交わした紗英と幹太は、ごく自然な形で交際をはじめた。男女交際といっても、何がかわっただろうか。
毎日を共にすることも、互いに悪態をつき合うことも、心許せるところも何ら変わらない。ただ二人の想いは急いて大きくなっていく。
唇を重ねるたびに、だ。
海には朝靄が立ち上る頃だった。早くに学校へ向かうのは二人の時間を、一分一秒無駄にしたくないという想いからだ。
小道の先の大通り、右には幹太の通う男子高。左には紗英の通う女子高がある。
「またねバイバイ」
さよならの言葉を言ってしまうその前に、小道の脇の森の杉木の影に、幹太は紗英を連れこんだ。
「かんちゃん……」
毎日の事だ。紗英は全てを悟っていた。上目で見つめた幹太の名を、切なそうに呼ぶ。
幹太は紗英の身体を、躊躇いなく抱き締めて何度も、何度も紗英の名をつぶやいた。紗英も、幹太の想いに答えるように、その腰に腕を回して、きゅっと力を込める。そうすることで互いを強く感じることが出来た。
「紗英」
「なんさ」
「おめえの事、いきなし好きだ」
「私もいきなし好き」
「うそんこでねえな?」
「うそついてなじょすんのさ」
紗英の笑顔に、幹太は満足そうに笑う。
戯れのような告白もずいぶん慣れた。
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