―海神様伝説―

あおい たまき

文字の大きさ
19 / 88
四章 衝動の行く末

逃避

しおりを挟む
「なんだ、紗英はオレを食いてえのか」
 幹太は冗談とでも思ったのだろうか。一笑して言った。その言い方がまるで突き放されたように感じて、紗英はよりいっそう眉間のしわを深めた。

「笑い事でねえさ…」
「食いてえくらい、好きでいてくれてるってことだべ。オレ、嬉しいでばよ」
「嘘。引くに決まってる。もういい」

紗英は苛立って立ち上がり、きびすを返す。このまま学校へ向かおうと、一つ歩み出そうとした時、幹太の手のひらが紗英の手首を掴んだ。クンッと引っ張られて足を止める。



「好きだ」
 振り返った紗英の視線が、幹太のまっすぐな眼差しとぶつかる。唐突な想いに紗英の胸は激しく戸を叩く。

 長いまつげ。切れ長の目。通った鼻筋に、小さめの鼻翼ルビ。さわやかな短髪。小麦色の肌。ほどよく低い声。そびえる喉仏。
 こめかみから流れる汗のひとしずく。先程まで味わっていた唇。だらしなく着こなしたYシャツの、襟元えりもとから覗く鎖骨。そこから連想する男のからだ

 幹太の全てが紗英の五感を刺激した。


 触れていたい。一緒にいたい。くっつきたい。
 噛みたい。傷つけたい。血を啜りたい。
 半ば正反対にも思えるその衝動が恐ろしくて、身が擦りつぶれそうだった。

 これ以上一緒にいたら、幹太を傷つけてしまう。そんな気がした。たまらなくなった紗英は、幹太の手を振りほどき、学校へ向かって駆け出す。背後で幹太が紗英を呼ぶ声が、幾度も聴こえて、そして、消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...