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四章 衝動の行く末
逃避
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「なんだ、紗英はオレを食いてえのか」
幹太は冗談とでも思ったのだろうか。一笑して言った。その言い方がまるで突き放されたように感じて、紗英はよりいっそう眉間の皺を深めた。
「笑い事でねえさ…」
「食いてえくらい、好きでいてくれてるってことだべ。オレ、嬉しいでばよ」
「嘘。引くに決まってる。もういい」
紗英は苛立って立ち上がり、踵を返す。このまま学校へ向かおうと、一つ歩み出そうとした時、幹太の手のひらが紗英の手首を掴んだ。クンッと引っ張られて足を止める。
「好きだ」
振り返った紗英の視線が、幹太のまっすぐな眼差しとぶつかる。唐突な想いに紗英の胸は激しく戸を叩く。
長いまつげ。切れ長の目。通った鼻筋に、小さめの鼻翼。さわやかな短髪。小麦色の肌。ほどよく低い声。そびえる喉仏。
こめかみから流れる汗のひとしずく。先程まで味わっていた唇。だらしなく着こなしたYシャツの、襟元から覗く鎖骨。そこから連想する男の躰。
幹太の全てが紗英の五感を刺激した。
触れていたい。一緒にいたい。くっつきたい。
噛みたい。傷つけたい。血を啜りたい。
半ば正反対にも思えるその衝動が恐ろしくて、身が擦りつぶれそうだった。
これ以上一緒にいたら、幹太を傷つけてしまう。そんな気がした。たまらなくなった紗英は、幹太の手を振りほどき、学校へ向かって駆け出す。背後で幹太が紗英を呼ぶ声が、幾度も聴こえて、そして、消えていった。
幹太は冗談とでも思ったのだろうか。一笑して言った。その言い方がまるで突き放されたように感じて、紗英はよりいっそう眉間の皺を深めた。
「笑い事でねえさ…」
「食いてえくらい、好きでいてくれてるってことだべ。オレ、嬉しいでばよ」
「嘘。引くに決まってる。もういい」
紗英は苛立って立ち上がり、踵を返す。このまま学校へ向かおうと、一つ歩み出そうとした時、幹太の手のひらが紗英の手首を掴んだ。クンッと引っ張られて足を止める。
「好きだ」
振り返った紗英の視線が、幹太のまっすぐな眼差しとぶつかる。唐突な想いに紗英の胸は激しく戸を叩く。
長いまつげ。切れ長の目。通った鼻筋に、小さめの鼻翼。さわやかな短髪。小麦色の肌。ほどよく低い声。そびえる喉仏。
こめかみから流れる汗のひとしずく。先程まで味わっていた唇。だらしなく着こなしたYシャツの、襟元から覗く鎖骨。そこから連想する男の躰。
幹太の全てが紗英の五感を刺激した。
触れていたい。一緒にいたい。くっつきたい。
噛みたい。傷つけたい。血を啜りたい。
半ば正反対にも思えるその衝動が恐ろしくて、身が擦りつぶれそうだった。
これ以上一緒にいたら、幹太を傷つけてしまう。そんな気がした。たまらなくなった紗英は、幹太の手を振りほどき、学校へ向かって駆け出す。背後で幹太が紗英を呼ぶ声が、幾度も聴こえて、そして、消えていった。
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