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七章 イチの一生
帰還
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「のう、紗英」
ふいに、名を呼ばれ、イチに向き直る。
「私は、勘助にとうとう一度も名を呼ばれなんだ」
イチは諦めたように笑うと、赤く澄む空を見上げた。
「私も勘助も、生まれながらに宿命を背負っていた。宿命に沿って私は、十三年、勘助を傷つけ、肉を食み、血を啜った。勘助はそれを受け入れ、最期には命を落とすという。勘助の命を踏みつけて、当たり前に私は海神の化身として部落を守る。そして、まだ見たこともない平太郎という男と添い、化身の跡取りを産まねばならぬ……宿命だ、仕方がない。私もまた掟に逆らうことは出来ぬ」
イチは凛と告げる。紗英には、その姿は気高く、何より美しく思える。悲しい宿命だ。紗英の目には、イチの代わりにとでもいうように、涙が浮かんだ。
「だが」
ふいにイチは、細い息を吐くと、言う。
「後世を生きるヌシには、私のような想いはしてほしくないと思う」と、紗英を見つめた時だ。紗英は、きいいいんという高い耳鳴りを覚えた。
「ああ、時間だな」
イチの寂しげな目と、揺れる紗英の視線がぶつかる。頭が割れるように痛い。イチの姿が霞む。
「い、ち……っ」
紗英はいっときでも長くこの時代に留まりたいと、必死に意識にすがる。イチの温もりに触れれば、意識を保てる気がして、手を伸ばした。
イチは伸ばされた紗英の手をとることなく、口を大きくあけて告げる。
「紗英、よしんば後世で、何か窮することがあれば、私の穴蔵を、さ……」
全て、聞き終える前に、紗英の視界はぐわんと回り、そして意識を手放してしまった。
ふいに、名を呼ばれ、イチに向き直る。
「私は、勘助にとうとう一度も名を呼ばれなんだ」
イチは諦めたように笑うと、赤く澄む空を見上げた。
「私も勘助も、生まれながらに宿命を背負っていた。宿命に沿って私は、十三年、勘助を傷つけ、肉を食み、血を啜った。勘助はそれを受け入れ、最期には命を落とすという。勘助の命を踏みつけて、当たり前に私は海神の化身として部落を守る。そして、まだ見たこともない平太郎という男と添い、化身の跡取りを産まねばならぬ……宿命だ、仕方がない。私もまた掟に逆らうことは出来ぬ」
イチは凛と告げる。紗英には、その姿は気高く、何より美しく思える。悲しい宿命だ。紗英の目には、イチの代わりにとでもいうように、涙が浮かんだ。
「だが」
ふいにイチは、細い息を吐くと、言う。
「後世を生きるヌシには、私のような想いはしてほしくないと思う」と、紗英を見つめた時だ。紗英は、きいいいんという高い耳鳴りを覚えた。
「ああ、時間だな」
イチの寂しげな目と、揺れる紗英の視線がぶつかる。頭が割れるように痛い。イチの姿が霞む。
「い、ち……っ」
紗英はいっときでも長くこの時代に留まりたいと、必死に意識にすがる。イチの温もりに触れれば、意識を保てる気がして、手を伸ばした。
イチは伸ばされた紗英の手をとることなく、口を大きくあけて告げる。
「紗英、よしんば後世で、何か窮することがあれば、私の穴蔵を、さ……」
全て、聞き終える前に、紗英の視界はぐわんと回り、そして意識を手放してしまった。
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