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九章 静香の日記
両思い
しおりを挟む*おしょすい……はずかしい
誰も、わかってくれなかった。誰もわかってくれないのだと思っていた。勇の心を蝕む悪夢のような日々もその傷も苦悩も。
しかし、静香は心が痛いのだろうと、言ったのだ。この子を離したくない。独り占めにしてしまいたい。
勇の独占欲が、そっと静香を抱いた腕に力をこめる。
「静香ちゃん……」
息も出来ないほど抱き締められて、静香の心臓は跳ね回った。まるで心が水源と化したように、ふつ、ふつと涌き出る感情は、愛しさと、恋しさと、幸せだった。
今までだらりと垂れていた腕を、おずおずと持ち上げて、そっと勇の背に回す。勇の、温もり。女の様に華奢に見えてもふわりと香るのは、男の匂いだった。
男のそれに当てられて、静香は強烈目眩を覚え、膝がかくんと落ちる。
「おっと」
勇は力の抜けた静香の脇下を軽々と両腕で抱えた。
「ご、ごめんなさい勇さん、おら重てえのに」
そんなことを言いながら着物の裾を直して、羞恥に頬を染めた。
「そんなことないよ。私も一応、男だから」
「やめてけれ、重くておしょすいよ……お願い離して」そう、懇願すれば
「何をするつもりもなかったのだけれど」勇は手の甲でそっと静香の頬に触れながら言うのだ。
「君は煽り方がうまいね」
眉間いっぱいにしわを寄せて笑った勇は、あっけにとられる静香の唇を奪った。
柔らかい唇。感じる粘膜の温もり。まるで、溶け入るような幸せ。あまりの幸せに体が震えた静香の髪の毛を、勇は愛しそうに何度も何度もすいた。
「い……さみ、さん」
涙がポロポロと溢れだす。
「おら、しあわせだ」
ついばむような口付けの合間を縫うように伝える静香の本音に、勇も一生懸命答える。
「私も、幸せだよ静香ちゃん」
と、
「君と出逢えて、幸せだ」
と、存在を確かめるように、静香の唇を欲した。
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