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十一章 脱出
見つけた
しおりを挟む耳を澄ませば聞こえる。洞窟内にこだまするような水の音。人の手で掘ったとは到底思えないほど、とてつもなく広い洞窟だ。
「この洞窟のどこを探せっていうんだべ」
紗英は呟きながら、目眩すら覚えた。しかし、ふと脇を見れば、苦しそうな幹太が目に止まる。
「やるしかねえべさっ紗英、気張れ」
紗英は自らに喝を入れて、辺りを注意深く観察しながら、そろそろと歩き始めた。
通路に目立つものはない。ごろつく石を蹴り、傾斜を登って祭壇前の広場に来た。イチの立場に立ってみる。紗英に何かを残すとするなら、百年たっても形が残りそうな場所にするだろう。
「私がなにか隠すなら……この辺りだ」
イチの時代は、赤い布のかかっていた祭壇。もちろん今は布はない。そうなって見れば、あの大きな祭壇の台は、大きな岩であったのだと気づいた。
紗英は岩の周囲をくまなく見て回る。すると、岩の下にわずかな傷がついていることに気がついた。自然にできた傷ではなさそうだ。
すっと、触れてみる。どうやら、その傷は岩の下まで繋がっているらしい。
「こん下、掘れるかな……」
紗英が、かじかむ指先で広場の床を引っ掻くと、さらさらと崩れた。あらかじめ、誰かが掘って柔らかくしたようだ。紗英にはそれが誰であるか、すぐに察しがついた。
イチしかいない。
紗英は、目を見開いてその場所を掘り進めた。いつの間にか着ていた服は、岩とも土ともつかない粉で真っ黒に汚れていたが、紗英はてんで構わずに、掘って、掘って、掘った。やがて、土で汚れた指先に、何かが当たる。
「あ……っ」
小さな声をあげて、辺りの土粉を払い除けると、木箱が見えた。掘り当てたそれを抱えあげ、息を吹き掛けると、細かな粉が舞い上がる 。紗英はしばらく噎せっかえった。
古い、木だ。だが組み合う板は厚い。木螺が丁寧に差し込まれており、穴ひとつない。大きな益の様に、しっかりとした造りだった。
「……イチ、開けるよ」
喉を鳴らして唾を飲み込むと、紗英は恐る恐る木箱の蓋を開ける。意を決してあけた木箱の中には、巻物と、折り畳まれた和紙、それからもうひとつ、小さな木箱が入っていた。
まず目についた巻物を手にとって、紐を解く。
「後世を生きる化身の娘へ」
巻物の冒頭には、そうあった。紗英は眼球を小刻みに動かして読み進めていく。
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