―海神様伝説―

あおい たまき

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十二章 瀬尾と海平

騒ぐ森

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 幹太は、手のひらに巻かれた包帯をほどきながら、紗英に笑いかけた。
「ごめんな、紗英。オレの血どこさ欲しいだ」
 ほっとしてこぼれ落ちそうになる涙を拭い、紗英は膝の上の箱を開いて、ふたつに割れた御神体の片割れを幹太の前に差し出した。


「ここに」
「わかった」
 幹太が血の止まっている手をぎゅっと握りしめると、ずくっと刺すような痛みが走った。血が固まり辛うじて塞がっていた傷は破け、再び血液は流れ始める。

 手のひらを伝い、小指の先から赤い雫が、割れたとっくりの胴体へと落ちて行った。


 御神体に触れた紗英の手は、溶けるほど熱くなり、不思議なことに湯気が立ち上る。さらには血を注いでいる幹太の手のひらは、痺れるような痛みに襲われた。


 夜も遅いというのに、動物たちが騒ぎ出し、森が揺れる。森を根城にしていたか、数百の烏が飛び立ち、時化た海の方へ向かっていった。冷たかった風は熱風と化し、二人の肌は焼けるようだった。

 その時、何処かで得体の知れない何かが、唸った。恐怖に身がすくんで、幹太は無様にも上擦った声をあげる。
「……紗英っ」
「大丈夫、かんちゃん」


 紗英の言葉は力強く、確信に満ちており、幹太は身のうちに湧き出る恐怖を押し込める。やがて神体の胴体が、幹太の血液で満たされると、紗英は静かに告げた。


「ありがと、かんちゃん」
「おう……んで、それどうすんだ」
「返すよ祠に。でもその前にしねっけなんねえことばある。かんちゃんは危ないから来ちゃだめよ」
 そう言うと、幹太の血が溢れないように、ゆっくりと振り向き、石の祠に向かい合う。


「おい、紗英、危ねえってどういうことだ」
「私は、大丈夫」
 幹太の心配をよそに、紗英は祠の供物台に幹太の血が並々と入った神体を乗せた。

 そしてもう一方の空の神体を両手で抱えるようにして持つと、祠の右手の方に歩んでいく。


「紗英、どこさ行くっけ」
 紗英は言葉を返さず、ゆっくりと歩を進めた。やがて、紗英は山の崖の直前で立ち止まり、小さく微笑んで、そして呟いた。

「……おいで」
その瞬間のことだった。
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