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二章 伊達政宗
第六話 お弁当
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「で……お前はその焼きそばパンとおしるこパンと渦巻きパン食べた上に、理子ちゃんの弁当を食うと?」
「食うよ、全部」
あーんと口を開けて、一欠片のパンを放り込む政宗に、理子は小さくなって呟く。
「ごめんね伊達くん……もう少し早く追い付いてたらこんなにいっぱい買わなくても済んだのに」
「いいんだって。俺量食うし、全然平気!気にすんなよ」
そう言って理子に笑いかけると政宗はもくもくとパンを食べ始めた。うまそうにパンを頬張る政宗を見ているだけで、蕩けそうなほど幸せだ。理子が幸せに酔いしれていると、ふいに成実が政宗を呼んだ。
「なあ、梵」
「梵って言うなよ」
「いや、お前失礼じゃねえ」
「何が」
頬張ったパンのカスをぱらぱらと落としながら、政宗はきょとんと成実を見た。成実は大きく息をつき、あきれたように言う。
「フツー手作り先に食べんだろ」
「え、なんで?」
「待ちきれねえ、早く食いてえ、とかそういう気持ちはないわけ?」
「俺、好きなものは後派なの!成も知ってんじゃん。いいじゃんか、順番なんて。どうせ美味しくいただくんだし。なあ、理子」
伊達二名の会話にいきなり引っ張り出された理子は、いつも通り、条件反射でうんうんと頷く。政宗も満足そうだ。
「へえ、そうかい。俺は麻美の作った弁当、一番旨く食いてえから、一番腹減ってるときに食うんだけどさ。じゃ、お先ー」
成実は、そう前置くと、麻美に向き直り、それを呼んだ。
「麻美」
「どうしたの」
「有り難く、いただきます」
あぐらの上に手のひらをついて、頭を下げる。麻美にはその姿がきらきらと輝いて見えて、心臓が跳ねた。
「お、おあがりなさい」
「おう、いただきます」
まるで、夫婦のやりとり。二人は照れ臭くなって、麻美は成実を直視できず、成実は麻美と目を合わせることが出来ない。しかたなしに成実は食べることに専念し、麻美は成実の大好きな空を仰いだ。
「ふう、ごちしたっ」
その頃ようやくパンを食べ終えた政宗は、微笑む。
「さあ理子の弁当食べるぞ」
「伊達くん無理しなくてもいいよ。こんなに食べたんだし、お腹いたくなったら大変だよ。お弁当はまた作ってくるから、ね」
心配ゆえの理子の言葉を
「何いってんの、まだまだ余裕だから」
そう言って、政宗は声を大きく「いただきまーす」と言い遣る。
しかし、どうしたことだろう。
理子が政宗の目の前に用意した弁当を手にとったはいいが、きょろきょろと辺りを見回し始めた。
「伊達くん……どうかした?」
「いや、箸どこだろ」
「お弁当と一緒に」
理子はそう言って、政宗が座った辺りを見やる。探すまでもない。箸は政宗の側にちゃんとあるのだ。
「伊達くん……そこにあるよ」
首をかしげた理子が箸を指差す。
「え、っと」
政宗が、未だ箸を見つけられずに戸惑っていると
「何やってんだよ、ほら」
成実が政宗の側から箸を拾って手渡した。
「あ、成、サンキュ」
二人にしかわからない阿吽の呼吸がそこにはあった。いぶかしげに二人の様子を眺める理子に気がついた成実は、からからと無理に笑った。
「ごめんな理子ちゃん。梵のやつ、手作り弁当なんてはじめてだから、舞い上がって周り見えてねえんだよ」
「うん……大丈夫、だよ」
理子は頷いて見せたが、心には不安が渦巻く。
今のは「周りが見えていない」からではない。
本当に気づけなかったのだ。目の前に置かれた箸に。
一体、どうして……。
「うまっ。理子すんげえ上手!」
政宗は、がつがつと弁当を頬張って、理子に笑いかける。
こんなに側にいるのに。何故か声は、遥か遠くに聞こえる。どこが悪いの……なんて聞けるわけがない。問いただす勇気も、受け止める勇気も持ち合わせてはいないのだ。
こんな自分、嫌い。
理子はそんなことを考えながらも平静を保ち、笑顔を繕うことで精一杯だった。
その様子を屋上の扉の前で腕組み、憮然と見つめている男が一人。それは、片倉であった。
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