奥州あおば学園~戦だ!祭りだ!色恋だ!~

あおい たまき

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二章 伊達政宗

第七話 強くなれない

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 その日の放課後だった。
「大鳥姉妹はまだいるか」
 野太い声が聞こえて、そちらを振り返ればそこにいたのは、難しい顔をした片倉だった。


「か、片倉先輩っ」
 声を張った二人に気がついて、片倉は何の遠慮もなしに教室へと入り、理子と麻美の側までやってくる。すると地を這うような低い声で言う。



「これから時間、あるか」
 ふたりはきょとんと視線を合わせる。


「まあ、運動部と違って文化部は……ねえ」
「時間あり、ますけど、何か」
「それではその面、貸してもらおうか」
 生来の目付きの悪さ故か、片倉の鋭い眼光で睨みつけられた気がして、 理子は縮み上がると、麻美の影に隠れた。


 一方麻美はどうだろう。片倉に微笑みかけると明るい口調で答えた。


「片倉先輩のお誘いなら喜んでっ」
 この一ヶ月、成実との交際を反対し続けていた手前、歓迎されるはずもないと思っていた片倉は、麻美の勢いに思わず怪訝に眉をしかめた。

 しかし、麻美はそんな片倉の変化を意にも返さず、理子の手を引っ張り教室の引き戸までやって来ると、振り返り片倉に尋ねる。


「学園の側の竹千代でいいですか?」
「あ、ああ」
 呆気あっけにとられて、返事を返した片倉に麻美はもう一声。


「おごってくださいね!私たち、金欠なんで」
「ま、麻美ちゃん、せせせせせ先輩におごらすって」
「じゃなきゃ、理子におごってもらう」
「う……うううう」
 そんな二人のやりとりを聞きながら、片倉は大きなため息をついて眉間を押さえた。





 最近出来たばかりのスイーツカフェ「竹千代」


 ウッドのオープンテラスに、タイル張りの円形テーブル。店の看板には、ゆるキャラのスイーツ妖精「ちよぽん」があしらわれている。

 一番人気のスイーツは、オーナーの松平元康が朝早くから生地を作って寝かせておくというパンケーキだった。

 女子生徒で溢れ返っていた店内。ぴょこんと飛び出した頭がひとつ。耳まで赤くなった片倉が、ふるふると怒りに肩を震わせていた。


 その向かい側の席では麻美と理子が満面の笑みで、パンケーキを頬張っている。

「んんん~おいっしい!!」
「私たちのお小遣いじゃ絶対無理いい」
 頬を両手で包みながら、顔を見合わせて歓喜する二人に、片倉の苛立ちはとうとう限界を越えた。


「どうしてこんな女だらけのば、場所でっ」
「片倉先輩がいいって言ったんですよ」
 麻美は舌を出してそう告げる。

 こうも意地が悪いのは、やはり度重なる交際反対が後を引いているのだろうと片倉は確信して、ますます震えを大きくした。

 一方理子は、パンケーキを半分ほど口に運んだあと、フォークを置き、ナプキンで口許を拭きながら片倉に切り出した。


「あ、あああああの。教室まで来てくれたのは、な、何か話があったから、ですよね」
 片倉は息をつくと、腕組みをして頷く。すると今度は麻美が言った。


「言っておきますけど、私と伊達……成実君、付き合ってないですよ。片倉先輩が思うような関係にはなっていないので、安し……」
 安心してくださいと言いかけた時、片倉は黙ってくれと合図した。麻美の言葉が止まると、ようやく片倉が語りだす。



「成実から話しは聞いた。交際は前向きに考えていると」
「え」
「だから、もう邪魔はするなと言われてしまった」


 ずっ。と音を立ててコーヒーをたしなんだ片倉は、伏し目がちに、カップの中でまわる泡を見つめ続けた。


「故に、貴女と成実の色恋は、そちらに任せることにした」
 予想打にしなかった言葉に、麻美の顔は紅潮こうちょうしていく。言葉にならない麻美の隣で、誰より喜んでいたのは理子だった。麻美の手をぎゅっと握り、涙目で麻美を見つめる


「ま、麻美ちゃん、よかった……よかったねえええ」
 目尻にたまった理子の涙は、やがて溢れ、握った麻美の手の甲へと落ちる。麻美はその温もりに我に返って、理子と喜びを分かち合った。



 だが、片倉は残酷に言の葉をつむぐのだ。


「しかし、大鳥理子、貴女あなたは別だ」
と、
「政宗の事は諦めて欲しい」
と。

「……え」
 理子は、一瞬で目の前が暗くなった気がした。



 さっきまで紅茶で潤っていたはずの喉が張り付いて、声がうまく出せない。片倉はさらに追い討ちをかける。


「貴女では政宗を受け止められない。貴女は、弱い。これより強くなれるとも到底思えん。ゆえに、諦めてほしい。政宗の為にも貴女の為にも」


 受け止められない。
弱い。
強くなれるとも思えない。


 見透かされた。
言葉の端々の、理子に向けられた軽蔑。


 どうしていいのか。何を言えばいいのか。何もわからなくなって理子はただうつむき、麻美と握った手に力を込めた。体が震えるのは何故だろう。


 確かに理子は弱かった。その事は誰に言われるまでもなく、理子が一番わかっている。

 何かと言えばすぐに涙は溢れるし、人が苦手でいつも父母や麻美の後ろに隠れるように歩くのが常だ。電車で痴漢にあった時も声すらあげられない。人の痛みはわかっても、声をかける勇気もない。いつも逃げ腰だ。


 悔しい……情けない。
涙が溜まり、赤いタイルの床が歪む。



「ちょっと、うちの姉に好き勝手なこと言わないでくれない」
 堪えきれないというように、声をあげたのは麻美だった。
「理子のこと何にも知らないくせに」
「それではお前たちは成実と政宗の何を知っていると言うんだ」
「……知らないから知りたいと思うんじゃない」
 麻美は片倉を睨み付けると、立ち上がり理子に言う。


「理子ごめん……この堅物が話があるなんていうから、てっきり政宗くんの病気のことかと思ったの。まさかこんな話しなんて。かえって傷つけちゃったね。帰ろ」
「ちょっと待て、病気だと?その話、誰から……っ」
 焦ったように目を向いて、声を大きく張る片倉に麻美は、顔をくしゃっと舌を出す。

「私たちを……理子を分かろうとしようともしないあなたに、そんなこと言う義理も義務もない」と言い残して店を出ていった。


「あ、あ、ま、待ってよう麻美ちゃんっ」
 理子は軽い目眩を覚えながらも、急いで金欠の財布を取り出し、自分と麻美が飲食した分の金をテーブルに置いた。

「あ、金は」
いい、と言いかけた片倉に深々とお辞儀をして、理子は慌てて麻美の後を追っていった。


残された片倉は、椅子にもたれて、大きく息をつくと「俺にこれ以上どうしろって言うんだ、俺はただ……」そう言葉をもらしたのだった。
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