奥州あおば学園~戦だ!祭りだ!色恋だ!~

あおい たまき

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二章 伊達政宗

第九話 諦めたくなんかない

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  ***
「伊達くん……」
 暗い部屋。机のライトだけが煌々と灯る。机の上には、まだ終わらない課題が散乱している。理子はやる気もせずに、ただぼぅっと政宗と繋いだ手のひらを眺めていた。


 目を閉じれば、政宗の笑顔。政宗の温もり。政宗の声。政宗、政宗、理子は身体中が政宗がいっぱいだった。


 同時に競りあがる……切なさと苦しさ。


 少し前までは想うだけで確かに幸せだったのに、もうそれだけでは満たされない。


 政宗に触れてしまった。触れられてしまったから。もっと触れたい。政宗に。その心に。


 けれど、それはもうきっと叶わない。
「受け止められない」
「強くなるとは思えない」
 片倉の言葉が耳の奥で響き続けている。
ぎゅっと胸が押しつぶされるように苦しくなった。



「せっかく、私に笑ってくれたのに」
 涙が浮かんでは、床にはたはたと落ちて行く。
「こんなに好き…なのにっ」
 堪えきれない想いがふいに口から飛び出した瞬間
「理子、まだ寝てない?」ドアの向こう側で麻美が理子に声をかける。



「……う、うん寝てないよ」
「久しぶりにさ一緒にお風呂入ろうよ」
 麻美の心配が痛いくらい伝わってくる。


 どんなに離れていても、麻美が辛いことを理子が感じてしまうように、麻美もきっとそうなのだ。双子というのは厄介で、それでいてとても優しいテレパシーが存在する。



「理子、どう?」
言いにくそうにもう一度、お伺いをたてる麻美に理子は、「いいよ」と返して、立ち上がった。





「追い焚きをします」
 理子がボタンを押すと給湯器がしゃべって、ゴウゴウと風呂が追い焚かれていく。もくもくと白い湯気が立ち上る。二人は生まれたままの姿で湯船に浸かった。


「はあああああ~いいねえ。やっぱり日本人は湯船だよね」
「麻美ちゃんおばあちゃんみたい」
 くすくすと笑う理子を、安堵して見つめた麻美は、はしゃいで声を張り上げた。


「それにしても一緒にお風呂なんていつぶりだろうねえ」
「うううん、いつだろ。おっぱいまだぺっちゃんこだった頃だった気がする。」
「私は今もぺっちゃんこだけどねっ理子ばっかり大きくなっちゃってさ。双子なのに差別~ずるい」

 麻美は小振りな乳房をふにふにと持ち上げて、唇を尖らせた。



「麻美ちゃん……無理して明るくしようとしてくれてるね」
 理子は力なく麻美に笑いかける。麻美は舌を出して苦笑した。



「ばれたか」
「ありがとう、麻美ちゃん」
 心から思う。
「私……麻美ちゃんが、いてくれて……ほんとによか」
 ひとりだったら、どうなっていただろう。考えるだけで苦しい。麻美がいてくれる安心感と、風呂の温かさにひとつ、またひとつと涙が流れ落ちた。


 拭っても、拭っても溢れる涙に、理子は嫌気がさして、思いきり湯船の中へ沈んでみる。


「ちょ、理子」
 しばらく潜ってみようと思った理子だったが、鼻から湯が入り大惨事。小さい頃から何をしてもうまくいかない。


 湯船から飛び出た理子は、咳き込むだけ咳き込んだ。えづくまで咳き込む理子の背をさすりながら、麻美は理子の耳元にそっと言葉を届けた。

「理子のいいところはね」
「……え」
「痛いときや辛いとき泣いて知らせてくれるところ」
 まさかそんな短所をチョイスされると思いもしなかった理子は、思わず苦笑した。


「そんなのいいところでもなんでもない……み、みんなに迷惑かけてばっかり」
 麻美は優しく笑むと、首をふって続けた。
「私や周りの痛みに寄り添って、一緒に泣いてくれるところ」
「麻美ちゃん」


「あの堅物は理子のこと弱いって言ったけどさ私にはその弱さが理子の強みなんだと思う。いいじゃん、あいつが何て言ったって!理子は理子でいいの。政宗君を好きでいていいの。彼の病気はなんだかわからないけど、支え方って色々だと思うよ」
「……また泣いちゃう」
「泣いていいよ理子……泣いていい。私が許す」


 ぴちょん、ぴちょん。
天井から滴る湯気の音を耳にしながら。
麻美は理子を強く抱きよせた。


 堪えきれない嗚咽が水音に混じり、換気扇から夜の空に昇っていった。滔々と涙を流しながら理子は、このまま涙と一緒に政宗への思いも消えてしまえばいいのに。そう思ってからハッとする。

 政宗が捨てられていた子犬とじゃれ合う姿を見たあの日に、理子の恋は始まった。


 あの日から、心の中に政宗のいない日など、なかった。



 朝起きると、政宗の為におしゃれをし、学園へ行けば、政宗の姿ばかりを探して、麻美に誘われて入った美術部の部室から、少しだけ見える鷹舎に政宗が訪れる一瞬を、今か今かと待ちわびて。

 廊下ですれちがったとき、政宗が髪の長いアイドルの名を口にしているのを聞いて、理子はずっと短かった髪の毛を伸ばし始めた。

 政宗と同じクラスの友達に聞き出してもらった好きなおやつを、あげる予定もないのにひたすら練習もした。


 理子の心に沸き上がる想い……。答えなど、疾うに見えていたはずだったのに。理子は小さく、呟く。


「私……やっぱり諦めたくなんかない」
 ひとつ、口にすれば、またひとつ心を強く持てる気がして。
「もっと仲良くなりたい」
 理子は何度もポジティブな言葉を紡ぐ。それは恐らく、大半が強がりと、似たものなのかもしれない。

 それでも、理子の大切な想いであることは確かだった。麻美は理子の心に新しい息吹が、生まれたことを悟り、安堵の息をつく。



「今度、片倉の堅物が何か言ってきたら、私が股間蹴ってやるんだから!」
 わずかでも理子の心を明るくしたくて、麻美はとんでもないことを口にする。

「そんなことしたら片倉先輩が可哀想だよ」
「理子は優しすぎるんだよ、女神かっての。あんなこと言われたらもっと怒ってもいいんだぞ」
 麻美が頬を膨らめ、理子が微笑んだところで、脱衣所から母の声がした。


「あんたたちいつまで入ってるの!?のぼせちゃうから大概にしときなさいよ」
「はああああい」
 声を合わせた二人は、視線をぶつけてくすっと笑ったのだった。

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