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二章 伊達政宗
第一三話 政宗が抱えた病
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「これでよし、と」
明智は、政宗の頭に包帯を巻き終えると、息をつきながら理子に言う。
「理子さん、ありがとう。階段から落ちては、大惨事でした」
「……伊達くんは、大丈夫ですか」
「ええ、恐らくは。念のため目が覚めたら病院へ行ってもらいましょうね」
政宗の横たわるベッドの脇。パイプ椅子に腰をかけた理子は、スカートをぎゅっと握ると、明智に呼び掛けた。
「せ、先生」
「はい、なんでしょう」
落ち着いた明智の声が耳を掠めていく。
「先生と……伊達くんって」
どんな関係ですか。皆まで言う前に、明智は答える。
「私は彼の元主治医です」
「主治医……伊達くんはどこが悪いんですか」
どこか、と言わず、どこがと言ったのは、理子のなけなしの勇気だった。
どこか悪いのは知っていると。
どこが悪いのか聞きたいのだと。
そんな意思表示を、明智はしばらく悩んでから受け入れた。
「彼の病気は、先天性の網膜色素変性症と言います。夜は目が極端に悪くなります。そして長い時間をかけて、日常視野が徐々に欠けていきます。今日の一件を見ると、もう右側の病状はかなり進んでいるのかもしれません」
明智は、政宗を切なげな表情で見つめて、呟いた。弁当を作っていった日、箸を見つけられなかったのは、やはりそういうことだったのだ。わからなかったピースが、明智の言葉で埋まっていく。
「伊達くん……治りますよね?」
理子は、涙を一杯溜めた目で、すがるように明智を眺めた。明智は息を吐きながら力なく、告げる。
「残念ながら今の医学では、進行を遅らせることで精一杯なんですよ。この病は、加齢と共に失明してしまいます」
「そんな」
「もちろん視力を保ったまま、歳を重ねていく方々もいます……ただ彼は……発病が早かったからどうでしょうか」
理子は政宗に目を落とす。涙が滔々と落ちていく。辛いのは私じゃない。そう思ってはみるものの、それは堰をきって溢れ出した。
「……こんなに弱くちゃ、片倉先輩に諦めろって言われても文句言えないっ、ですよね」
「涙は必ずしも、イコール弱いではありませんよ」
明智の優しい声に、ことさら涙は溢れて落ちる。両手で顔を覆い、声を堪えて泣きじゃくる理子に、明智はふっと息をついた。
「理子さん」
涙で返事が出来ない。明智は続ける。
「私は伊達くんの家に連絡を入れてきますので、その間彼のことお願いしますね」
かたんと小さい音をさせて、医務室のドアが閉められた。
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