26 / 37
二章 伊達政宗
第一四話 羞恥を越えて
しおりを挟む
理子は涙を流したまま、気を失ったまま未だ目を開かない政宗に眼差しを向けた。
長いまつげ。
部活で焼けた肌。
ウエブを流した髪の毛。
着崩した襟元。
笑うと優しく下がる眉。
照れると必ず隠す鼻。
彼のはにかみに何度心を奪われたことだろう。
鷹匠を目指す彼。
広い空を飛び回る鷹を操る鷹匠にとって視覚は大きな武器だ。視野が欠けていく……夢を奪われる。どれほど怖かったことだろう。
いつも笑顔だった。必死に隠そうとしていたのか。それとも認めたくなかったのか。政宗を慮れば、理子の心は千切れんばかりに痛む。
「伊達くん……ずっと恐かったよね」
理子は涙を拭い、ためらいながらシーツの上に投げ出された手のひらをとる。少し冷たい、政宗の手。体温の高い理子がそっと温める。
「伊達くんにはずっと綺麗な景色見ていてほしいな……」
語りかけるように、独言を放る。
「鷹匠になって、山に狩りに行ってほしい。山の中駆け回って笑って、かっこいい鷹の姿、目に焼き付けてほしい。それでね、捕ってきた獲物は私が料理する。それは勝手な私の妄想だけど……でもね」
ぎゅっと手を握り直して
「伊達くんの目が、もしいつか見えなくなっても……私はずっと、伊達くんが好きだよ」
あと、一言。
「目が見えなくなったくらいで、この気持ちを疑ったりなんか絶対……しない、よ」
言葉を紡ぎ終えると、理子は大きく息をつく。
「伊達くんが起きてる時に伝えられたらいいのに。私ってばほんとに意気地無し」
「そんなこと……ねえよ」
理子が頭を抱えていると、政宗の声が返る。
「え、え」
理子は政宗の顔を覗き込む。政宗がうっすらと開いた視線と、理子のそれがぶつかった。
「気付いた!?大丈夫?痛くない?」
「ああ、平気。だって俺、男だから」
そんなことを言う。その強がりが政宗らしくて、理子の目からはまた大粒の涙が流れ出る。
「泣くなよ」
「無理いいいい。よか……よかよかよよよよ、よかかかかかよかったよう」
「いつもの一割増しで、どもんな」
政宗は笑みをこぼしてそう言うと、己を見下ろす理子の頭をぽん、ぽん、と。まるで赤ん坊をあやすように撫でる。
政宗が笑うことも、触れ合えることも、優しく撫でてくれることも、理子はすべてが嬉しくてたまらない。微笑む理子に、政宗はかすれた声で尋ねた。
「理子……あれ本当か」
「あれ、って」
理子が首をかしげて政宗を覗けば、 照れくさそうに笑って、小さく紡ぐ。
「俺のことずっと好きって」
「きききききききき聞いて、たの」
「ん、わるい」
「どどどど、どこから⁉」
「理子が俺の手、握ってくれたとこくらいからなんとなく」
「ぜぜぜ、全部じゃない、目覚めてるなら言ってよ、心配してるのにっ」
秘めておくはずの独り言を聞かれてしまった。羞恥が沸く。照れ隠しにわずかばかり頬を膨らめた。理子の目は潤んで、大きく輝いて見える。
愛しさが競り上がり、政宗の心臓は高鳴った。
「理子、それでどーなの」
急いて急いて、政宗の心がざわつく。その「答え」が早く知りたい。
「しらないっ」
そっぽを向こうとした理子の、その腕を強いて引く。理子はバランスを崩して、ベッドで寝そべる政宗の胸の上におさまった。ふわっと、政宗の香りが、理子の鼻をくすぐる。
なんの飾り気もない、男の、匂いだ。
頭の芯にビリビリと電流が走る。
理子の思考回路はショート寸前だった。
「伊達く……」
「なんで理子はさ、成のことは成実って名前で呼ぶくせに俺のことは名字なの」
「そそそそそれは、同じ伊達だから」
「だったら俺を名前で呼んでよ、理子が好きなのは誰なんだよ、成?」
どうしたのだろう。
いつもの政宗とは少しばかり雰囲気が違う。
「もしかして、や、やややややきもちだったり」
「うるせ……質問してんのこっちだろ」
政宗の胸に押さえつけられた理子の耳には、大きく脈打つ心音が確かに届いていた。伝播するように速く叩かれる心臓を抱えて、理子は震える息を吐きだす。
「私がすきなのは政……宗く、んだよ」
政宗は追い討ちをかけるようにまた問いかける。
「ずっと?」
「えっ、と……わっ」
恥ずかしくて口ごもると、政宗はますます理子を、胸に押し付けた。息もできないほどの圧迫。政宗と密着している。理子は気絶寸前だ。
「政宗くん……ずっと、ずっと変わらない、よ」
なんとか口にした本音を、政宗は満面の笑みで聴き入って一言。独り言のように小さく呟いた。
「俺も……お前が好き」
長いまつげ。
部活で焼けた肌。
ウエブを流した髪の毛。
着崩した襟元。
笑うと優しく下がる眉。
照れると必ず隠す鼻。
彼のはにかみに何度心を奪われたことだろう。
鷹匠を目指す彼。
広い空を飛び回る鷹を操る鷹匠にとって視覚は大きな武器だ。視野が欠けていく……夢を奪われる。どれほど怖かったことだろう。
いつも笑顔だった。必死に隠そうとしていたのか。それとも認めたくなかったのか。政宗を慮れば、理子の心は千切れんばかりに痛む。
「伊達くん……ずっと恐かったよね」
理子は涙を拭い、ためらいながらシーツの上に投げ出された手のひらをとる。少し冷たい、政宗の手。体温の高い理子がそっと温める。
「伊達くんにはずっと綺麗な景色見ていてほしいな……」
語りかけるように、独言を放る。
「鷹匠になって、山に狩りに行ってほしい。山の中駆け回って笑って、かっこいい鷹の姿、目に焼き付けてほしい。それでね、捕ってきた獲物は私が料理する。それは勝手な私の妄想だけど……でもね」
ぎゅっと手を握り直して
「伊達くんの目が、もしいつか見えなくなっても……私はずっと、伊達くんが好きだよ」
あと、一言。
「目が見えなくなったくらいで、この気持ちを疑ったりなんか絶対……しない、よ」
言葉を紡ぎ終えると、理子は大きく息をつく。
「伊達くんが起きてる時に伝えられたらいいのに。私ってばほんとに意気地無し」
「そんなこと……ねえよ」
理子が頭を抱えていると、政宗の声が返る。
「え、え」
理子は政宗の顔を覗き込む。政宗がうっすらと開いた視線と、理子のそれがぶつかった。
「気付いた!?大丈夫?痛くない?」
「ああ、平気。だって俺、男だから」
そんなことを言う。その強がりが政宗らしくて、理子の目からはまた大粒の涙が流れ出る。
「泣くなよ」
「無理いいいい。よか……よかよかよよよよ、よかかかかかよかったよう」
「いつもの一割増しで、どもんな」
政宗は笑みをこぼしてそう言うと、己を見下ろす理子の頭をぽん、ぽん、と。まるで赤ん坊をあやすように撫でる。
政宗が笑うことも、触れ合えることも、優しく撫でてくれることも、理子はすべてが嬉しくてたまらない。微笑む理子に、政宗はかすれた声で尋ねた。
「理子……あれ本当か」
「あれ、って」
理子が首をかしげて政宗を覗けば、 照れくさそうに笑って、小さく紡ぐ。
「俺のことずっと好きって」
「きききききききき聞いて、たの」
「ん、わるい」
「どどどど、どこから⁉」
「理子が俺の手、握ってくれたとこくらいからなんとなく」
「ぜぜぜ、全部じゃない、目覚めてるなら言ってよ、心配してるのにっ」
秘めておくはずの独り言を聞かれてしまった。羞恥が沸く。照れ隠しにわずかばかり頬を膨らめた。理子の目は潤んで、大きく輝いて見える。
愛しさが競り上がり、政宗の心臓は高鳴った。
「理子、それでどーなの」
急いて急いて、政宗の心がざわつく。その「答え」が早く知りたい。
「しらないっ」
そっぽを向こうとした理子の、その腕を強いて引く。理子はバランスを崩して、ベッドで寝そべる政宗の胸の上におさまった。ふわっと、政宗の香りが、理子の鼻をくすぐる。
なんの飾り気もない、男の、匂いだ。
頭の芯にビリビリと電流が走る。
理子の思考回路はショート寸前だった。
「伊達く……」
「なんで理子はさ、成のことは成実って名前で呼ぶくせに俺のことは名字なの」
「そそそそそれは、同じ伊達だから」
「だったら俺を名前で呼んでよ、理子が好きなのは誰なんだよ、成?」
どうしたのだろう。
いつもの政宗とは少しばかり雰囲気が違う。
「もしかして、や、やややややきもちだったり」
「うるせ……質問してんのこっちだろ」
政宗の胸に押さえつけられた理子の耳には、大きく脈打つ心音が確かに届いていた。伝播するように速く叩かれる心臓を抱えて、理子は震える息を吐きだす。
「私がすきなのは政……宗く、んだよ」
政宗は追い討ちをかけるようにまた問いかける。
「ずっと?」
「えっ、と……わっ」
恥ずかしくて口ごもると、政宗はますます理子を、胸に押し付けた。息もできないほどの圧迫。政宗と密着している。理子は気絶寸前だ。
「政宗くん……ずっと、ずっと変わらない、よ」
なんとか口にした本音を、政宗は満面の笑みで聴き入って一言。独り言のように小さく呟いた。
「俺も……お前が好き」
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
10年ぶりに現れた正ヒロインが強すぎて、10年来のダメ系幼馴染型ヒロインが敗北しそうな件について。
神崎あら
青春
10年ぶりに再会した彼女はまさに正ヒロインと呼ぶにふさわしい容姿、性格、人望を手にしていた。
それに対して10年間一緒にいた幼馴染は、堕落し酒に溺れ、泰平の世話なしには生きられないペットのような生き物になっている。
そんな対照的な2人のヒロインが戦う(一方的にダメ幼馴染が社会的にボコられる)物語が今始まる!!
後の祭り
ねこまんまときみどりのことり
ライト文芸
母親を馬車の事故で亡くしたナズナは、馬車に乗っていた貴族の男性に、義理の娘として引き取られた。引き取られた先の子爵邸では、義母や義妹に傷付けられて泣いて過ごすこともあったが、懸命に生きていく。引き取られた裏には、別の理由もあったようで。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。
いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。
ただし、後のことはどうなっても知りませんよ?
* 他サイトでも投稿
* ショートショートです。あっさり終わります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる