奥州あおば学園~戦だ!祭りだ!色恋だ!~

あおい たまき

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二章 伊達政宗

第一四話 羞恥を越えて

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 理子は涙を流したまま、気を失ったまま未だ目を開かない政宗に眼差しを向けた。

 長いまつげ。
部活で焼けた肌。
ウエブを流した髪の毛。
着崩した襟元。
笑うと優しく下がる眉。
照れると必ず隠す鼻。
 彼のはにかみに何度心を奪われたことだろう。


 鷹匠を目指す彼。
広い空を飛び回る鷹を操る鷹匠にとって視覚は大きな武器だ。視野が欠けていく……夢を奪われる。どれほど怖かったことだろう。

 いつも笑顔だった。必死に隠そうとしていたのか。それとも認めたくなかったのか。政宗をおもんぱかれば、理子の心は千切れんばかりに痛む。


「伊達くん……ずっと恐かったよね」
 理子は涙を拭い、ためらいながらシーツの上に投げ出された手のひらをとる。少し冷たい、政宗の手。体温の高い理子がそっと温める。


「伊達くんにはずっと綺麗な景色見ていてほしいな……」
 語りかけるように、独言どくげんを放る。

「鷹匠になって、山に狩りに行ってほしい。山の中駆け回って笑って、かっこいい鷹の姿、目に焼き付けてほしい。それでね、捕ってきた獲物は私が料理する。それは勝手な私の妄想だけど……でもね」

 ぎゅっと手を握り直して
「伊達くんの目が、もしいつか見えなくなっても……私はずっと、伊達くんが好きだよ」
あと、一言。
「目が見えなくなったくらいで、この気持ちを疑ったりなんか絶対……しない、よ」
 言葉を紡ぎ終えると、理子は大きく息をつく。
「伊達くんが起きてる時に伝えられたらいいのに。私ってばほんとに意気地無し」
「そんなこと……ねえよ」
 理子が頭を抱えていると、政宗の声が返る。


「え、え」
 理子は政宗の顔を覗き込む。政宗がうっすらと開いた視線と、理子のそれがぶつかった。
「気付いた!?大丈夫?痛くない?」
「ああ、平気。だって俺、男だから」
 そんなことを言う。その強がりが政宗らしくて、理子の目からはまた大粒の涙が流れ出る。


「泣くなよ」
「無理いいいい。よか……よかよかよよよよ、よかかかかかよかったよう」
「いつもの一割増しで、どもんな」


 政宗は笑みをこぼしてそう言うと、己を見下ろす理子の頭をぽん、ぽん、と。まるで赤ん坊をあやすように撫でる。

政宗が笑うことも、触れ合えることも、優しく撫でてくれることも、理子はすべてが嬉しくてたまらない。微笑む理子に、政宗はかすれた声で尋ねた。


「理子……あれ本当か」
「あれ、って」
 理子が首をかしげて政宗を覗けば、 照れくさそうに笑って、小さくつむぐ。


「俺のことずっと好きって」
「きききききききき聞いて、たの」
「ん、わるい」
「どどどど、どこから⁉」
「理子が俺の手、握ってくれたとこくらいからなんとなく」
「ぜぜぜ、全部じゃない、目覚めてるなら言ってよ、心配してるのにっ」
 秘めておくはずの独り言を聞かれてしまった。羞恥しゅうちが沸く。照れ隠しにわずかばかり頬を膨らめた。理子の目は潤んで、大きく輝いて見える。


 愛しさが競り上がり、政宗の心臓は高鳴った。


「理子、それでどーなの」
 急いて急いて、政宗の心がざわつく。その「答え」が早く知りたい。


「しらないっ」
そっぽを向こうとした理子の、その腕をいて引く。理子はバランスを崩して、ベッドで寝そべる政宗の胸の上におさまった。ふわっと、政宗の香りが、理子の鼻をくすぐる。


 なんの飾り気もない、男の、匂いだ。
頭の芯にビリビリと電流が走る。
理子の思考回路はショート寸前だった。

「伊達く……」
「なんで理子はさ、成のことは成実って名前で呼ぶくせに俺のことは名字なの」
「そそそそそれは、同じ伊達だから」
「だったら俺を名前で呼んでよ、理子が好きなのは誰なんだよ、成?」


 どうしたのだろう。
いつもの政宗とは少しばかり雰囲気が違う。


「もしかして、や、やややややきもちだったり」
「うるせ……質問してんのこっちだろ」
政宗の胸に押さえつけられた理子の耳には、大きく脈打つ心音が確かに届いていた。伝播でんぱするように速く叩かれる心臓を抱えて、理子は震える息を吐きだす。


「私がすきなのは政……宗く、んだよ」
 政宗は追い討ちをかけるようにまた問いかける。
「ずっと?」
「えっ、と……わっ」
恥ずかしくて口ごもると、政宗はますます理子を、胸に押し付けた。息もできないほどの圧迫。政宗と密着している。理子は気絶寸前だ。

「政宗くん……ずっと、ずっと変わらない、よ」
 なんとか口にした本音を、政宗は満面の笑みで聴き入って一言。独り言のように小さく呟いた。


「俺も……お前が好き」



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