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三章 片倉小十郎景綱
第一話 闇
しおりを挟む早朝、まだ夜も明けない。
小十郎は暗いキッチンで冷蔵庫をあさり、牛乳をパックのまま口にした。ごく、ごくっと小十郎の高い喉仏が音を立てる。煌々と照る冷蔵庫の光が眩しく感じた。
牛乳を腹に流し込み終えると、口回りを手の甲で拭いながらパタンと冷蔵庫の戸をしめる。
その音は思ったより大きく響き、寝室で寝入っていた姉、喜多を起こしてしまったようだ。
「ん……っ、景綱……?今何時」
「三時四十五分」
「んー……早っ、走りに行くの?」
「いや、なんだか……眠れなくて」
またか。喜多は重たい体を起こして、キッチンへと出向く。すると小十郎は、キッチンテーブルに突っ伏すように椅子に腰かけていた。
「どうした景綱」
「……俺は、最低な男だ」
突っ伏したままで弱々しく声を絞り出す小十郎の肩に、喜多は、優しく手をかける。
「どうして」
「政宗に、大鳥と付き合うなと言った。大鳥にも政宗のことは諦めろと……言った」
「でも、あんたこの間、坊っちゃんの頭にボールが当たった日、言ってたじゃないか、坊っちゃんを頼む……って。あれが大鳥って女の子なんだろう?」
コクンとひとつ頷く小十郎に、喜多はもう一言加えた。
「あんたはあんたなりに坊っちゃんを案じたんだろ?それを最低なんて言っちゃあいけないよ」
「……それだけじゃ、ないんだ」
「それだけじゃない?」
小十郎はそれっきり何も言わなくなった。ただ、悔しそうに肩を小刻みに震わせている。
「そうやって泣く癖、小さいときから治らないね……」
喜多は、呆れたようにため息をつく。だが、その顔には弟、小十郎への愛が滲み出ていた。
「無理しちゃだめだよ」
と、
「泣くだけ泣いたら寝るんだよ」
と、言い残してあくびをひとつ。喜多は再び、寝室に戻っていく。
粗末なキッチンのすりガラスの窓。向こうの夜空を照らす月が、小十郎をぼんやりと優しく包んでいた。
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