神に愛された子

鈴木 カタル

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ユズノハ様を先頭にし、僕達は王城の地下へ向かっている。
ただ階段があって降りていけば到着! って感じだったら早いのに、地下墓地へ行くには『正しい道順』で進まないと辿り着かないらしい。
何度も行った事のあるユズノハ様が先頭にいるのはそのためだ。

右へ左へ何度も曲がり、緩やかな下り坂を歩く。何度もそれを繰り返す。
進むにつれてゾワゾワとした何か……僕に纏わりつくような不快感が強くなっている。

【何だか嫌な感じがしますね 風がないです】

肩に乗っているイピリアがそう念話を飛ばしてきた。
確かに。人通りが無くても、空気は動く。まして、この人数での移動なら風を感じるはずだ。
なんか、空間がそのまま止まっているような感じ?

【空気があるので止まっているとは違うようです でも何かありそうですね】

先頭をじっと見ているイピリア。その表情はちょっと険しい。
大気を司るイピリアでも何かまでは分からないのかぁ。

【そうです ですから 十分に注意を】

視線を僕に移し、真顔で言われる。
イピリアにそっと頬擦りをして分かったと伝えた。

先頭の方ではユズノハ様の「こっちでこういって……こっちがこうで」と独り言が聞こえる。その声が聞こえるって事は、それだけ皆が静かなのだ。
布の擦れる音、足音、空気の異質感。きっとそれを感じているのだろう。

ピタリとユズノハ様の足が止まった。
木の扉の前でソワソワと視線が泳いでいる。なんとまぁ、分かりやすいんだろうか。
ロダンさんの大きな溜息が聞こえた。

「如何なさいましたか?」

ロダンさんは至って普通に話しかけた。でも、ユズノハ様は大きく肩が跳ねた。
そして分かりやすくオロオロとしだす。

「こ、ここは、アレが……アレなのだ。アレが……うむ」

良く分からないがアレと連呼する。
先程と同じ問いかけをするロダンさん。
下を向いていたユズノハ様は、すすーっとロダンさんの方へいく。そして、手を口元に添えるとロダンさんの耳に近寄った。
ロダンさんに内緒話をしているユズノハ様。でも、聞いているロダンさんの目はすっと険しくなった。

「出してきなさい」

「は、はい!」

ロダンさんの一言で、ユズノハ様はその扉の中へ慌てて入っていった。
こてんと首を傾けると、側にいたローレンさんが手をポンッと叩く。
そのままローレンさんの方を向くと

「あそこは宰相様が入っている牢屋でしたね」

今、思い出しましたって感じで、僕達がぎょっとするような事を言った。

「あの聖獣捕獲計画的なのに反対して投獄されたっていう?」

「……はい」

困ったように頷くローレンさん。
申し訳なさそうにしてるけども。君、今思い出したよね……僕の中ではまともそうな人ってイメージがついている宰相様を忘れててこの国大丈夫なの⁉
そりゃあ、ロダンさんも出してあげなさいって言うよ……

忘れていたことが恥ずかしかったのか、ローレンさんの耳が赤い。そのまま俯いてしまったので、見なかったことにした。

暫くすると扉が開き、中からユズノハ様とお爺様くらい背の高い人が出てきた。
その人は、仕立ての良さそうな服に身を包み、困ったように頬をポリポリを掻いている。
ぱっと見た感じでは投獄されていたようには見えない。
着の身着のままで、そこの部屋に閉じ込められていたって感じだ。

「さて、行くか」
「――待ちなさい」

そのまま進もうとするユズノハ様の首根っこを掴み止めるロダンさん。
一瞬の出来事だったけど、ロダンさん凄い早い動きだったなぁ。

「これっ、何をす」
「――黙りなさい」
「はい!」

不満そうにロダンさんを睨んだユズノハ様は、逆にロダンさんに冷たい目で見られピシッと固まった。
ユズノハ様の様子に、ロダンさんはまた大きな溜息を吐いた。
きっと、宰相様が増えて味方が増えた安堵感でも持ったんだろうなぁ。
出会った時のような態度に、ロダンさんの冷ややかな視線が矯正したって感じ?
駄目な子認定のユズノハ様だから、ロダンさんも容赦ないし。

「きちんとした紹介もせず、そのまま行けるはずないでしょうが。貴方は、ここにいる御方が他国の国王だと分かっていますよね? それとも、その頭は数分前の出来事さえ記憶していく事が出来ないのですか?」

ロダンさんの言葉は、馬鹿なんですか? って聞いているのと同じだ。
何を言われたのか分からず、きょとんとするユズノハ様。
少し間があったが理解したらしく、顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる。

「凄いな、僕達とユズノハ様の間には時間差があるみたい」

「ぶふっ」

隣から盛大な笑いが?
周りもユズノハ様から顔を反らして肩を揺らしている。
心に思っただけなのに、あ……

「今、声に出ちゃってた?」

隣でコクコクと激しく上下に動く頭を見て、僕は聞かなかったことにしてくれればいいのにと思った。
ユズノハ様の脳内に言葉が届くまで、時差があっただけだよ。
僕、悪くないし。だがら、そんな目で睨まれても……

ユズノハ様は真っ赤な顔で僕を睨んでいる。その目が若干うるうるしていたので、涙目なんだと分かる。

「サルエロ王国の宰相ガノス、ガノス・ストレイナだ!」

涙目のまま宰相様を紹介すると、腕を組んでそっぽを向いてしまった。
紹介された方は今までのやり取りをずっと観察していたけれど、紹介されるとすっと表情を整えた。

「この度は……誠に申し訳ありませんでした」

そう言いながら、するりと土下座をした。
突然の土下座タイムに、若干引いた。
今、そんなことをしている時間はないんだけどなぁ。多分、取り合えず謝罪をって思ったんだろうけれど。

何だか、進ませないように妨害されているように感じてしまうのは、この人を信用していないからなのだろうか。
プラスがマイナスになってもゼロになるはずなのに、信用がないとマイナスに落ちてしまうものなんだなぁ……
うんうん。信用って大切! と、改めて感じたよ。

【真面目な性格が仇となった瞬間だね】

腕の中にいるカルキノスが面白そうに呟いた。念話で良かった……

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