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しおりを挟む嫌な気配を感じないせいか、気力と心なしか体力も戻っている気がする。
落ち着いて周りを見渡せば、皆各々に暇つぶしをしていた。そのせいか、少しざわついている。
張りつめていた緊張が解けたのだろう。
セーフティーゾーン。つまり、安全な場所って事だ。
でも違う意味もありそうだよね。
ここにこれがあるのは、この先の元凶がそれ程に厄介だともとれる。
……いや、なんかおかしいぞ。
初代国王が元凶なのに、ここを作ったのも同じ人?
え。ありえないでしょ。自分がそうなると分かっていなければ。となると、誰がこの部屋を作ったんだろうか。
「ここの部屋って、誰が作ったのか分かる?」
出来るだけ小さな声でローレンさんに聞いてみた。
「この部屋は、確か……」
少し間があってから、思い出すかのように言葉が続く。
「あそこにいる、ガノス様のご先祖様だったかと。ガノス様のご先祖様は、初代国王様と同じ生まれの方です。あの時……禁書で見た時に、初代国王様の側にいた方です」
「なるほどね」
日本人は三人いた。初代国王となった一人と、他に二人。
確かに初代国王の側には、常にもう一人黒髪の人がいた。その地位はまるで、宰相のようにも見えた。
見ず知らずの星では、同じ生まれという事が身内の様に思えただろうなぁ。
だからか、それだけでも優遇される要素になるはず。国の重要な地位にいても、なんらおかしくはない。
で、その宰相(仮)さんがこの部屋を作ったと。
「ってことは、結構長生きしたんだねぇ」
初代国王の彼が亡くなってから、アレの対策としてここを作るくらいには、宰相(仮)さんは生きていたって事だよね?
「確か、何かあったら時に避難出来る場所が必要だとおっしゃられたと。ガノス様に聞いた方が詳しく分かると思います。ご実家にはそういった書物も残っているはずですから」
「そう、なのかぁ」
避難場所って。確かに、ここは安全そうだけど!
これは、今回この件が終わっても果ての事もあるし、ちょっと時間がかかりそうだなぁ。
この技術は神様から貰った力で作られていそうだし、調べるとしたら時間がかかりそうじゃんか。
困ったな。ここの元凶が、簡単に終わるとは思えないし。
なんせ、彼等の事は禁書として記憶が消されているんだから。
……あれ? これ、このまま地下墓地に行って彼等のお墓あるの?
記憶が無いってことは、彼の供養は一度もされてこなかったって事じゃないの?
え。それって……かなり酷いことじゃない?
この世界に来て様々な酷いこともしたけれど、それも元は神様が召喚をしたせいで起こった事なのに。
忘れ去られてしまっては、余りにも酷い仕打ちだ。
それなのに所々に垣間見える、残されている凄い技術だけ取られてない?
いうなれば、この世界に有益なものだけ残されていて、有害な所は消されているようなものだ。
心の中に、言い表せない感情が湧く。
勝手に呼んだのに帰ることもできず、挙句の果てには禁書の中に彼等の記憶は封印され、誰の記憶にも残っていないなんて。
「救いがない……」
「!」
僕の呟きが聞こえたのか、ローレンさんが驚いてる。
以前禁書の封印を解いた時、ローレンさんが大泣きしていた意味が分かった。
これは、酷すぎるだろう。彼等の方のやらかしも悪いのだろうけれども!
ほんっと、この世界は悪に救いがない。
【主様 何やら不穏な気配を醸し出していますが 大丈夫ですか?】
【我は大人しくしているのだが 何故か悪寒が止まらないのだ】
いやいや。大丈夫だよ? 全然大丈夫。全く怒ってないよ。ふふふ。
僕は至って冷静さ。ふふふ。
僕の笑顔を見てモワッと尻尾が膨らんだアクリス。
イピリアも珍しくカタカタと震えている。
いやー。この世界、ほんっと改革が必要だよねぇ?
世界改革っていうのかなー? ふふふ、遣り甲斐がありそうだなーって。
くるりと僕の方を見て、小さな手を僕の肩にポンポンと当てるカルキノス。
【余り負の感情を溜めるのは良くないよ 僕が沢山頑張る だから落ち着いてね】
カルキノスゥゥゥゥウウ‼
もぷもぷな毛をわさわさーっと撫で繰り回す。カルキノスの優しさに、心がほわっとなった。手も毛の感触が心地よく、とても嬉しそうに動く。
キャッキャと戯れていたせいか、ゴゴゴゴゴという音を聞くまで、ここがどこなのかすっかり忘れていたわ。
「時間になったぞ。第二の門が現れた」
ユズノハ様の言葉が響くように、皆へ緊張が走る。
座っていた者も立ち上がると、ユズノハ様の視線の先を追う。
何もなかった白い空間に、人が三人並んでも入れそうな門扉があった。
ここを入るのに呪文が必要とか言われたら、また精神的苦痛を感じるんだけど!
如何にも「開けゴマ」が似合いそうな門扉なんだもの。
そんなありきたりな妄想をしていると、その門扉をユズノハ様がノックした。
三回のノック音の後、その門扉から――『山』と聞こえ、ユズノハ様が『谷』と答えた。
ギギギギギと開いてく扉。
そっちもあったね……誰にも見られていないと思うけど、僕は遠い目をしていただろう。
山と谷ね。呪文と似たような音だったから、魔法と同じだろう。
扉の先は真っ黒だ。
外の白さも相まって僕はその暗さに、まるで魔物が大きな口を開いているように感じてしまう。
そう思っていても、通らないといけない訳で……
「お、お⁉」
中に入ると、とても広い部屋一面に墓石が均一に並んでいる。地下のはずなのに空があって開放感があった。
ただ、地面から拒まれている感覚が足裏に感じる。足が進みにくい。
不快感は増し、まるでこの場にいるのが相応しくないと言われている感じだ。
真新しい墓石に目が行く。並んでいる墓石は一枚の板のような岩に名前が彫られていた。
リースウェン・ユズノハ。前王の名前だったはず。それをじーっと眺めていると、前の方から声が聞こえた。
「ここから更に地下へ降りるぞ」
どうやら更に地下へ降りる階段があるらしい。
ここの墓石の多さがサルエロ王国の歴史を物語っていて、僕は複雑な気持ちのまま地下へと降りて行った。
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