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しおりを挟む執務室に来たけども。
父様は忙しいようで、急ぎの用事じゃなければ後にしてくれと言われてしまった。
さて。どうしよう?
「僕に手伝える事は何かありますか?」
「………」
書類と睨めっこをしている父様の耳には届かない僕の言葉。
執事さんを見ても首を振られてしまう。
これは無理か……
紅茶を一口飲み、インベントリからポーションを数個出す。
テーブルの上に並ぶポーションが三つ。普通のポーションだ。血の流れを止めて、傷口を塞ぐだけのね。
今は普通のポーションなんだけど、僕が使える治癒の魔法を込める。
ポウッと淡い光を放つポーション。
鑑定でどうなったか確認すると、希望通りの「疲労も回復」とあったので良しとしよう。
「これ。疲れが酷いようなら飲ませちゃって」
「は、はぁ……」
「色は緑色だけど、ちゃんとポーションだから大丈夫です」
「は、はい。承ります」
目が点なんだけど、大丈夫かな執事さん。
残った紅茶を飲み干して、ご馳走様をして部屋を後にすることにした。
あれはポーションだよ、普通じゃ無い「全回復」のね。疲労も回復ってあったから問題なーし!
睡眠不足も回復しちゃうから、徹夜しそうな気もするが。
ま、いいとする! ポーションだもの。
さっきのポーション。もう何個かつくって置こうかな。
あれを飲んだ父様が驚く所を想像したら、にやけちゃうな~
〈あのポーションは売っては駄目ですからね?〉
「そのくらいは分かっているよ~。ふふ」
〈体に害はないですが 心労は増えそうな いえ 大丈夫でしょう…きっと〉
その最後のきっとがとっても小さな声なのだけども。
問題ないよ、いざとなったら必殺のカルキノス先生が作ったって言おう!
【カルキノス……】
念話でそんな残念そうな声をしないで欲しい。
僕は父様が心配だからあのポーションを作ってみたんだしー。魔法はイメージが大事だよね! 便利だなぁ、あっはっは!
「あ」
自分の部屋に戻ろうと歩いていたら、ヒラヒラと赤い蝶が飛んでいる。
お爺様の伝言蝶だ。二匹いるけど? お?
僕の手の平に乗りお爺様の言葉を伝える蝶。
『ローレンが来とるでの、明日は城の方へ来なさい』
そう伝えると燃えるように消える蝶。
もう一匹は父様宛かな? 僕の後ろの方でふよふよと飛んでいる。
ローレンさんが来たのか~、明日が楽しみだなぁ。
僕も厨房へ行って、何か作って置こうかなー。
〈ローレンが来るとは 何かあったのでしょうか?〉
「急ぎじゃ無いっぽいから、大丈夫でしょ」
〈それもそうですね〉
イピリアを頬でスリスリを撫でる。
厨房にいるカルキノスの所へ、今度こそレッツゴー!
ポーションの言い訳の分も、作って置かないといけない気配がする…
カルキノスの好きな物、全部作れるだけ作ってしまうと考えた。
食べ物でどうにか誤魔化されてくれるから、カルキノスは優しい。
父様にバレたら、自室に謹慎だろうなぁ。
執事の前でポーションに手を加えた事に気がついたのは、なんと寝る前だった…
やってしまったものはしょうが無い。と諦めて寝る僕。
イピリアからの可哀想な子だなって眼差しにも、僕は気がつかないフリで寝たのでした。
翌朝、僕はとても良い気持ちで目が覚めました!
寝たら忘れるものだ。
聖獣達からの呆れた溜め息なんて、聞こえない聞こえない。ふふん。
すっとぼけて起きたが、今日も良い日になりそうだ!
今日は学園が終わったらお爺様の所へも行くしね~。
最近本当に、体の隅々に行き渡る魔力の巡りが良い。
魔力制御もほぼ無意識でしているくらいだ。
これは、そろそろ? 成長期さんがこんにちはしてきちゃうかな?
そんなことを考えながら、薬学の授業で今日も誰よりも小さな僕です。
隣の席は安定のノエルだ。
「考えていて気がついたの、リーンのこと」
「ふえっ!?」
ノエルの真剣な表情に僕はドキッとした。ちょっと授業に飽きて上の空だったとか知られたくない。
「リーンが小さな理由、私気がついた」
「そ、それは……?」
またまたこの子、妖精族とか言いそうだけど?
「ナタリーと話していて気がついた、忘れていたけど」
「うん?」
「いい、リーン…リーンは私達とは違う」
「え、そ――「思い出して、リーン」
僕の言葉を遮ってノエルはグッと僕に近寄る。
僕の耳元でそっと呟く。
「リーンは飛び級。私達より一つ年下」
「!!」
な、なんて事に気がつくんだ……忘れていた、完全に……
「だから、リーンの成長期はあと一年は来ない」
「うっ!」
ガックリと肩を落とす。今日も言葉の刃はキレッキレでした。
完全に忘れていたなぁほんと。僕は飛び級で、皆とは一歳違いだ。
と、言うことは……
「あと一年で成長期さんが迎えに来るってことか」
「そう。何時も一緒だから忘れていた。リーンの飛び級」
「最近調子が良いから、そろそろかと思ったのになぁ…」
「そう言えば、私も……一年前位から何だか良い感じだった」
「ふむ」
これはアレかな? 大体一年かけて、成長出来る体に整っていく感じなのかな。
今はジワジワと身長が伸びているけれども、
「起きたら二メートルに伸びるとかぁ」
「そんなことは無い」
声に出ちゃってた。そしてツッコミを有り難う! 嬉しくは無いけども!
「リーンが身長を抜かされるのは、仕方が無いこと。気にしなくて良い」
「あ。ありがとう……」
心配してくれていたんだね。嬉しい。
今度は本当に嬉しいから心がギュッとなった。優しい友達がいる事に感謝してます。
「気がついたのは、ナタリーだけど」
「ノエルさんや……」
僕が感謝をするのはナタリーにだった!
でも、ノエルも心配してくれていたのだろう。そうじゃ無ければ、薬学の授業中に話をすることじゃないもんね。
そっとノエルを見ると船をこぎ始めていた。
「眠い……何か、会話」
「・・・」
眠くて何か話がしたかったパターン!! くっそう、僕の友達が自由人過ぎるよ!
助けて、誰か……
やたらと静かな教室に、薬学の先生の話が響いていた――
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