神に愛された子

鈴木 カタル

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「しかし、アダムが笑って生きたいと思っていたとはな」

「わ、私だって、そんなことを話す気はなかったんですよ!」

ラッセルのいじりがアダムに行った。
わたわたと慌てるアダムが面白くて、ちょこっと僕も笑ってしまった。

「ただ、オーウェンとワイアットといた時は……笑っていたような気がしただけですし!」

ふんっとそっぽを向くアダムは、さっきよりも素直になったようだ。
きっとオーウェン君とワイアットの事を、何度も思い出していたのだろうと感じる言葉だった。

「リーンオルゴット様、私依頼を受けようと思います」

「! それは……僕は嬉しいけど、大丈夫?」

「この方達は大丈夫です。それに私の力は救いになると、ジールフィア様がおっしゃっていました」

「確かに、ローレンさんの力は救いになる」

この世界の罰への救済システムは、間違いなくローレンさんの力だ。
巫女を正しい流れに導き、災悪ではなく聖なる巫女へ戻す。それが罰への救済で、そうならないと救いはないままなんだ。神様は一応この救済をシステムにしていた。今まで導き手が居ないか導けなかったかで、災悪として処理されてしまっていた巫女の存在だ。
今目の前にいるのは、聖なる巫女。
きっと正しい救いの道だ。救うかどうかは、巫女が真実を見抜いて行われるようにもなった。

「救い? 一体何の話をしているんだ」

僕とローレンさんをキョロキョロとみるラッセル。

「話しても良いのかな?」

「依頼者の同意がなければ話せません」

「そっかー。じゃあ駄目だね」

「……そうですね」

きっとお爺様は良いと言ってくれそうだけど、それでも今は話す事は出来ないかな。

「ただ、あなた方はこの先も生きていく事が出来るようになる……とだけ、お伝えしときましょう」

「「「!!」」」
「プッ!」

あんぐりと口を開けた三人の顔が面白くて、僕は笑ってしまった。
三人とも口が大きく開いている。特にアダムは顎が外れたんじゃないかってくらいだ。

「この先、どう生きるかは君達次第だけどね」

「俺は、何もない……」

そう呟くラッセル。

「何も無い人はいないんだよ。ラッセル兄にはトーマスも、お爺様もいるじゃないか」

「違う、俺は何も出来ないんだ。俺と言えるものがない、空っぽだから」

頭を左右に振って虚無った目になるラッセル。このコロコロ変わる感じ、そう言えばこうだったなぁって。

「ふむふむ? 何も無いのは、何にでもなれるってことじゃないかなー?」

「何にでもなれる……?」

真面目な顔で聞き返すから、僕も真剣に話しをしてみようと思う。

「ラッセル兄さ、演劇とかやってみない?」

「は?」

あー、そう言う反応しちゃうー? 僕にしてはかなりいい閃きなのに。

「ある時は王様に、ある時は勇者に、はたまた神にでも。何だってなれるんじゃない? 想像してみて、自分がそうなった時の事を。想像して、そうなった自分を誰かが目をキラキラして見詰めているのを。って事で、演劇をパエルレア領でやってみない? 公演は王都でもいいね!」

「そうか! 自分がないから、何にでもなれるって意味か。演じる事は得意だったな」

「そうそう、素質あると思うんだよね~。そしてさ、トーマスがマネージャーっていうか、付き人として一緒に公演で、色々な国や領に行くのも面白そうだよね!」

「一緒に! 居られるの?」

ひょっこりとラッセルの背中から顔をだしたトーマス。

「ラッセル兄は演じる事に集中した方がいいから。トーマスが身の回りの世話とか日程とかと管理するんだよ」

「なるほど。確かに楽しそうかも」

トーマスも乗り気になった。これで二人とも未来を夢見る事が出来る。

「この先も、楽しいことはきっと沢山あるはずだよ」

ローレンさんに魂を浄化して貰ったら、魔力も戻るだろう。そうすれば、この先も生きていける。
何時か消える命でいるのは、多分それだけでもかなり精神的にくるものだ。

「アダムは最近甘い食べ物に嵌まっているから、何か店でもやったらどうだ?」

「え。スイーツに嵌まっているの?」

アダムが? 甘い物に? 
あ、さっきもバームクーヘンとか言っていた気がする!
マジで? カルキノスの仲間じゃん。

「そそそそそ……そう、ですよ。甘い物は……幸せを感じるのですよ!」

あ、結構あっさりと認めるんだぁ。

「バームクーヘンは特にいいですね。一枚一枚重ねられた生地に甘さが染み渡るように均一で、口の中に広がるバターには幸福感があります。特に、学園の近くにあるお店は様々な種類の味があって……オススメデスヨ」

急にトーンダウンした。
しっかし、めっちゃ喋るじゃん。ちょっと引いたわ。
カルキノスは食べるだけで、そんな感想を言わないから。

「あ! アダムは、スイーツの雑誌でも出したら?」

「雑誌とは、なんですか?」

「うーん、簡単に言うと、食べたスイーツの説明が書いてある紙が、教科書みたいに束になっている物。書物なんだけど、そこまで分厚くないやつ。分厚くないから手軽に読めるし、スイーツの絵とか載っていたらよりいいね!」

「スイーツだけの書物とは! なんて甘美な響きでしょうか」

アダムは闇ギルドとか牛耳っていたくらい、統率者としての才能はありそうだし。

「スイーツの雑誌の会社とか、運営も向いていそう? 趣味と実益が兼ねている感じで。転写の魔法を使える人とか雇えば、そんなに苦労はしないかも?」

「確かにその様な読み物があれば、私も読んでみたいです」

ローレンさんも甘いの好きなのかな? 
あ、女性は好きな人が多いのか!

「女性にも人気がありそうだね~」

「そうですか。甘い物の読み物……良いですね。今度からメモを取ることにします」

さっきよりも生き生きとしているアダム。
アダムの意外な一面を知ってしまった。甘い物好き。意外とオーウェン君達は知っていそうかも。

「夢を見て生きられそうじゃんか。ふふ」

「ゴッホン……感謝してイマスヨ」

「そんなに小さな声で言い辛そうに言われても。ぷぷぷ」

真っ赤だしね、顔も耳も。
あんなに嫌な感じだったアダムが、こんなにも可愛らしいとは。
もっと早くに会ってれば……いやいや、ローレンさんが居なければ、叶わない願いだったはず。

――今だからなんだ。

そう実感した瞬間だった。



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