ヴィーナスは微笑む~Another story~

蒼井 結花理

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第一章

第15話

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「どういうこと?」


果穂の話を聞いた千尋は思わず目を見開く。


あの子のことはよく覚えている。


あの時、あの子は果穂の忘れたチャームを私に来てくれた。


それを果穂は、冷たく振り払った。


周りの子達は果穂を非難するどころか、同調して果穂を援護したのだ。


あの子が、あのことがあった直後に階段で突き落とされた?



「もちろん、私じゃないわよ。」


千尋の考えていることを察したのか、果穂が口を挟んだ。


いつもは強気な声が、かすかに震えているのが分かる。


「あの子のことを非難したのはたしかよ。でも私はここまでしたいなんて思ってなかった!」


半ば叫ぶように果穂が言う。


思わずちらりと瑞穂を見るが、表情は変わらないままだ。


何を考えているのか、その顔からは読み取れない。



「きっと野次馬の中にいた誰かがやったのよ。そうに違いない。」


「でも、どうしてあの子が……」


「私のことを好きな人がやったに決まってるよ。あの学校では、私が嫌いな子はみんなからも嫌われるから。」


「そ、そうなんだ。」


さも当然のことのように果穂は言う。


おそらく果穂には全く悪気はないのだろう。


果穂はさも当然とでもいうように、右手の人差し指を唇に当てる。


その仕草が妙に色っぽくて、千尋は思わずどきりとしてしまった。



「でもそんな、まさか…声をかけたくらいでそこまで。」


千尋がそう言うと、果穂は即座に首を横に振った。


「いいえ、あの子たちは、私に心酔しすぎて何をするか分からないの。」


「え?」


「前にね、私に気軽に声をかけたクラスメイトがいたのよ。そしたらそれからというものその子はクラスメイトから無視をされたり、持ち物を隠されたり、いろんな嫌がらせをされることになったわ。さすがに…ここまでのことはなかったけれど。」


はぁ、と果穂はため息を吐く。


それを聞いて千尋はなぜか違和感を感じた。


無視や持ち物を隠される行為は、れっきとしたとした悪質ないじめだ。たしかに許される行為ではない。


だけど…


それと階段から落とされるというのは、別な気がした。


ケガで済めばいいが、下手をすれば命を落とす可能性だってあるのだ。


今回のことは、本当に単なるいじめと一緒に考えてしまっていいのだろうか。



強がっていても、本当は不安で仕方ないのだろう。


果穂の手は膝の上に乗せられ、爪で痕がつくほどに強く握られていた。


こういうところは普通の中学生なのだな、と千尋は不謹慎ながらも頬が緩んでしまいそうになった。


千尋は小さなその手を包み込むように、そっと自分の手を重ねる。


「どうしよう。私のせいで……」


「大丈夫よ、果穂ちゃん。果穂ちゃんは何も悪くない。ほら、誰かに押されたっていうのももしかしたら勘違いかもしれないでしょ。」


「でも、でも…っ!」



「そうよ、お姉さまは悪くないわ。あの子が悪いのよ。」


それまで一言も喋らなかった瑞穂が、口を挟んできた。


千尋ははっと顔を上げる。


その声のトーンは、いつも通り落ち着いているがどこか鋭さを帯びていたからだ。


その目はいつもの通り、なんの感情も読み取れない。


一気に部屋の温度が下がったような気がして、千尋は思わず身震いをした。




「お姉さまは、庶民が声をかけていいような人ではないのです。罰が当たったのですよ。」
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