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第二章 神器
圧巻
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クレーターの中にいる妖魔たちは少し、特殊だった。
何が特殊か。
それは、妖魔たちの群れの動き方だった。
最初は不規則に蠢いていた彼らが、今ではまるで見えざる号令を受けたかのように整然と戦闘態勢を取っている。歪な体が引き締まり、闇に溶け込んでいた瞳が一斉に光を帯びる。その目は獲物を捉えた肉食獣のような鋭さを持ち、殺意を滲ませていた。
長くしなやかな触手が岩肌を叩き、骨のように硬い手足が地面を削る。獣のように四足で駆ける者もいれば、二足で直立しながらその手に黒い刃のようなものを生やす者もいる。中には、背を丸めながら空気を震わせるほどの咆哮を上げ、全身から黒い霧を放つ個体もいた。
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
それぞれの妖魔が、まるで一つの意思を共有しているかのように陣形を組む。前線に立つのは、鎧のような外殻を持つ大型の個体たち。無数の目が岩の隙間から覗き、敵の動きを逃さぬようにしている。その後方では、長い腕を持つ異形が何かを詠唱するかのように不気味な音を発し、空間を歪めている。地面には黒いひび割れが走り、そこから這い出すようにさらに小型の魔物たちが次々と生まれ、戦列に加わっていく。
無秩序に見えたその動きには、確かな目的と戦術があった。その動きはもはや、ただの怪物の群れではない。
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
これは、戦争のための軍勢だった。
「ぶっね」
そんな妖魔たちが矛先として牙をむいているのはたった一人の少年であった。
妖魔たちの群れがたった一人の人間を叩き潰す───、そんなの、簡単であるはずだった。
「流石に刀一本でこれをしのぐのは至難の業にも程があるんだけどっ!?」
クレーターの中で不満げに声をあげているその少年は自分へと迫る妖魔の軍勢を圧倒的な力で抑え込んだ。
最初の一発によって無秩序に散らされた妖魔たち。
その無秩序の攻勢はもちろん、秩序がとれた後の攻撃まで、完璧に防ぎ切っていた。
「ふっ」
少年が振るう刀は確実に目の前の妖魔を斬り裂くばかりか、背後にいる妖魔たちまでただの剣圧だけでぶっ潰している。
それを高速に繰り返している少年を前に、妖魔たちは何もできない。真っすぐに向かって行っても、そのすべてが全面において灰燼に帰すのであるから。
少年は一つの場所に留まるのではなく、至るところに移動して剣を振るい続けることより、面をすべて押しつぶしていた。剣だけで、面で迫ってくる妖魔の軍勢を押しとどめていたのだ。
「無駄だよ」
それでもなお、妖魔たちの手段はただの力押しだけではない。
盾のように立ちふさがり、突っ込む妖魔たちの後ろでは、長い腕を持つ異形が何かを詠唱するかのように不気味な音を発し、空間を歪めている。
その妖魔たちがその長い腕を振るえば、空間を切り裂くような妖魔たちの攻撃が世界を駆け抜ける。それは、炎の玉であり、風の刃であり、雷鳴である。
だが、それに向かって少年が刀を振るうだけで、忽然とそれらは姿を消す。ただ、発動したという事実を消されて。
「おォォォッ!?」
そして、その対処に少年が刀を振るい、眼前の敵に振らなくなった時であっても、少年に隙はない。
刀を握ってない手に握られている鞘で殴り、足で蹴り、妖魔たちを消し飛ばしている。
すべてが少年に跳ねのけられていた。
「それも、無駄」
当然、妖魔たちとて無策ではない。
挟み撃ちにしようと色々動いているのだが、その動きの変化を捉えた少年が立ち位置を大きく変え、どうあっても挟み撃ちの態勢にはならないような位置取りへと移動していた。
完全に場の動きを読んでいなければ出来ぬ神業だが、それを少年は当然のように行っていた。
「……末恐ろしいですね」
その様を、少年が、有馬優斗が無双する様を眺める歩佳がぼそりを言葉を漏らす。
「これが、まだ陰陽師になって一週間も経っていない男の姿ですか?まだ、何の術式も使っていないんですよ」
「……そう。そうっ!すごく、強い」
「えぇ……私よりも、確実に。ここまで凄いと、嫉妬する気すらなくなりますね。私たちの上にいる人間だって、これに勝てるとは誰も思っていないですよ?一体一体が二級妖魔で構成される群れであり、全体の脅威度であれば一級妖魔の中でも上位。何でしたら、超級妖魔にさえ、分類されてもおかしくない奴ですよ」
「……同年代の、強い奴っ!」
「どうですか?貴方のお眼鏡にかないましたか?」
「もちろん……あれは、私の婚約者っ」
歩佳の隣にいる美紀はその幼い顔立ちでひときわ輝く大きな瞳をより輝かせながら、優斗のことを眺めていた。
「そうですか」
判断基準は強さだけ。
強さしか見ていない美紀は、自分よりも強い優斗を見て、すぐにでも己の婚約者に相応しいとの決断を下す。実に単純な思考回路。
決断だった。
「……彼に組み伏せられる。ゾッとしますね」
そんな美紀の隣で、歩佳の方は体を震わせるのだった。
その震えは一体なんであるか───それは。
「(天才なんていなくなってしまえ)」
天賦の才を持ったものに対する嫉妬であろうか……?
何が特殊か。
それは、妖魔たちの群れの動き方だった。
最初は不規則に蠢いていた彼らが、今ではまるで見えざる号令を受けたかのように整然と戦闘態勢を取っている。歪な体が引き締まり、闇に溶け込んでいた瞳が一斉に光を帯びる。その目は獲物を捉えた肉食獣のような鋭さを持ち、殺意を滲ませていた。
長くしなやかな触手が岩肌を叩き、骨のように硬い手足が地面を削る。獣のように四足で駆ける者もいれば、二足で直立しながらその手に黒い刃のようなものを生やす者もいる。中には、背を丸めながら空気を震わせるほどの咆哮を上げ、全身から黒い霧を放つ個体もいた。
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
それぞれの妖魔が、まるで一つの意思を共有しているかのように陣形を組む。前線に立つのは、鎧のような外殻を持つ大型の個体たち。無数の目が岩の隙間から覗き、敵の動きを逃さぬようにしている。その後方では、長い腕を持つ異形が何かを詠唱するかのように不気味な音を発し、空間を歪めている。地面には黒いひび割れが走り、そこから這い出すようにさらに小型の魔物たちが次々と生まれ、戦列に加わっていく。
無秩序に見えたその動きには、確かな目的と戦術があった。その動きはもはや、ただの怪物の群れではない。
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
これは、戦争のための軍勢だった。
「ぶっね」
そんな妖魔たちが矛先として牙をむいているのはたった一人の少年であった。
妖魔たちの群れがたった一人の人間を叩き潰す───、そんなの、簡単であるはずだった。
「流石に刀一本でこれをしのぐのは至難の業にも程があるんだけどっ!?」
クレーターの中で不満げに声をあげているその少年は自分へと迫る妖魔の軍勢を圧倒的な力で抑え込んだ。
最初の一発によって無秩序に散らされた妖魔たち。
その無秩序の攻勢はもちろん、秩序がとれた後の攻撃まで、完璧に防ぎ切っていた。
「ふっ」
少年が振るう刀は確実に目の前の妖魔を斬り裂くばかりか、背後にいる妖魔たちまでただの剣圧だけでぶっ潰している。
それを高速に繰り返している少年を前に、妖魔たちは何もできない。真っすぐに向かって行っても、そのすべてが全面において灰燼に帰すのであるから。
少年は一つの場所に留まるのではなく、至るところに移動して剣を振るい続けることより、面をすべて押しつぶしていた。剣だけで、面で迫ってくる妖魔の軍勢を押しとどめていたのだ。
「無駄だよ」
それでもなお、妖魔たちの手段はただの力押しだけではない。
盾のように立ちふさがり、突っ込む妖魔たちの後ろでは、長い腕を持つ異形が何かを詠唱するかのように不気味な音を発し、空間を歪めている。
その妖魔たちがその長い腕を振るえば、空間を切り裂くような妖魔たちの攻撃が世界を駆け抜ける。それは、炎の玉であり、風の刃であり、雷鳴である。
だが、それに向かって少年が刀を振るうだけで、忽然とそれらは姿を消す。ただ、発動したという事実を消されて。
「おォォォッ!?」
そして、その対処に少年が刀を振るい、眼前の敵に振らなくなった時であっても、少年に隙はない。
刀を握ってない手に握られている鞘で殴り、足で蹴り、妖魔たちを消し飛ばしている。
すべてが少年に跳ねのけられていた。
「それも、無駄」
当然、妖魔たちとて無策ではない。
挟み撃ちにしようと色々動いているのだが、その動きの変化を捉えた少年が立ち位置を大きく変え、どうあっても挟み撃ちの態勢にはならないような位置取りへと移動していた。
完全に場の動きを読んでいなければ出来ぬ神業だが、それを少年は当然のように行っていた。
「……末恐ろしいですね」
その様を、少年が、有馬優斗が無双する様を眺める歩佳がぼそりを言葉を漏らす。
「これが、まだ陰陽師になって一週間も経っていない男の姿ですか?まだ、何の術式も使っていないんですよ」
「……そう。そうっ!すごく、強い」
「えぇ……私よりも、確実に。ここまで凄いと、嫉妬する気すらなくなりますね。私たちの上にいる人間だって、これに勝てるとは誰も思っていないですよ?一体一体が二級妖魔で構成される群れであり、全体の脅威度であれば一級妖魔の中でも上位。何でしたら、超級妖魔にさえ、分類されてもおかしくない奴ですよ」
「……同年代の、強い奴っ!」
「どうですか?貴方のお眼鏡にかないましたか?」
「もちろん……あれは、私の婚約者っ」
歩佳の隣にいる美紀はその幼い顔立ちでひときわ輝く大きな瞳をより輝かせながら、優斗のことを眺めていた。
「そうですか」
判断基準は強さだけ。
強さしか見ていない美紀は、自分よりも強い優斗を見て、すぐにでも己の婚約者に相応しいとの決断を下す。実に単純な思考回路。
決断だった。
「……彼に組み伏せられる。ゾッとしますね」
そんな美紀の隣で、歩佳の方は体を震わせるのだった。
その震えは一体なんであるか───それは。
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