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花山院
しおりを挟む藤原氏の権勢を脅かすものがいないまま、季節はうつろい、人々の記憶から源高明に関する疑惑の事など忘れ去られた頃──。
「晴明!!
起きろ! 晴明ッ!」
それでもこの男はやってくる。
いつまでたっても変わらない。
どすどすと床を踏み鳴らす音。
いつも何かに興奮しているような声。
ともすれば荒くなる鼻息でさえ。
「おい、勝手に入ってくるなよ」
「良いではないか。
聞け、晴明!」
「うるさい、帰れ」
晴明の仕打ちに慣れているのか、兼家はドスン、と腰を据え、したり顔をした。
「なんと俺は右大臣になるぞ!」
その言葉に晴明は少し目を丸くした。
「そうか、それは良かったな」
「おう。
クソ兄貴のせいでしばらく出世が留まっていたが、これからは俺の時代だ」
その口振りに晴明が笑いをもらした。
「またクソ兄貴とは随分な言い種だな」
「昔から兄貴とは折り合いが悪かったんだ。
だが兄貴が亡くなった今、俺が関白になるのも遠くはないぞ?」
兼家はしきりに顎をさすりながらまだ見ぬ未来に思いを馳せている。
「まぁ、お前が関白になろうが俺には関係ないがな」
「晴明、お前も出世を考えたらどうだ?
男として生まれたからには上を目指さねば」
晴明は眉を寄せ、肩をすくめた。
「俺は御免だな。
上にいけば必ずゴタゴタに巻き込まれる。
今の下級官吏で十分だ」
「そうか……。
おっ、いけない、内裏に用があるんだ。
じゃあ晴明、またな」
「おう」
兼家はまたバタバタと去っていく。
嵐のように。
晴明はまた一つ大あくびをし、横になった。
閉じた瞼を猫のざらりとした舌が滑る。
「……お前はいつまでここにいるんだ?
ここにいても面白い事はないぞ?」
猫が答えるように一啼きした。
空を流れる雲は今日も穏やかだった。
兼家は右大臣になった後、娘を帝に嫁がせた。
やがてその娘は皇子を産む。
その皇子が帝になるのはもうしばらく後の事。
そして時は流れ、円融帝は若くして甥の花山に譲位する。
花山帝はどこか普通とは違った感覚をもっていた。
変わり者として通っていた晴明とは馬が合ったのかもしれない。
普通、下級官吏とは面通しもしないというのにこの帝に限ってはよく一緒にいた。
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