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第6話 彼女がアレに着替えたら
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翌日、大穴の開いた中庭を見下ろせる、ギルドの図書棟。
俺は本の山に埋もれていた。
なんでかって?
もちろんギルドに入団できたので、黒の書についての文献を片っ端から読ませてもらってるところです。
「あ~、頭いてぇ……」
朝から三時間、ぶっ続けで文字を追い続けたせいで、脳がパンクしそうだ。
ちなみにこの世界の文字は、言葉と同様、普通に読める。
原理は知らんが、ご都合主義でアブラカタブラな力が働いているんだろう(適当)。
長机の向かいでは、太刀川も黙々と本の山に向き合っていた。
「あの、ヤンさん。この文、ちょっと意味が分からなくて……見てもらえますか?」
太刀川が声をかけた相手は、隣に座るギルド長の秘書・ヤンさんだ。
「そこは、『ヤポン伝記』第87巻、721ページに参考となる記載があります。ただ、黒の書とは無関係ですね」
「え、まさか暗記してるんですか?」
「ええ、まぁ」
ヤンさんはこともなげに答えたが、すごいことだぞ。
「記憶系のスキルか何かなんスか?」
「いえ、覚えるのが得意なだけです。ここの本の半分程度しか暗記していないので、たいした自慢にはなりませんが」
「半分って……」
俺と太刀川は顔を見合わせ、図書室いっぱいに林立する本棚を見渡した。
たしか、他の階も合わせて数十万冊の本があるって言ってなかったか?
「すごいでしょ~、ヤン君て。ある意味ヘンタイよね」
軽い調子の声と一緒に、一人の女性が近づいてきた。
腰まで届く銀髪に、横へ流した前髪。
サファイアみたいにきらきらした青い瞳。
薄緑のローブにスリットの入ったスカートを着こなす、まぁとにかくどえらい美人だった。
「お褒めにあずかり光栄です。ちなみにギルド長の過去239回分のサボり履歴もすべて記憶していますよ」
「うわぁ、性格も最悪ぅ~」
ヤンさんからの皮肉を受けて、楽しそうに笑う女性――このギルドの長で、名前はラウラさんという。
若く見えるが、ヤンさんより年上だそうだから、30台半ばくらいだろう。
昨日の模擬戦のあと、ひょっこりやってきて、「すっごーい! さすが黒の書の契約者ちゃんね! えっ、ウチのギルドに入りたい? オッケーオッケー即合格!」と、駅前のティッシュ配りみたいにギルド身分証を渡してきた。
こんな軽いノリの人がトップで大丈夫なんか、このギルド?
「で、調子はどうなの、ヤン君?」
「正直、新しい情報はありません。黒の書が歴史に現れたのは、約400年前と750年前の2回だけ。どちらも、契約者の片方が死んで共倒れになっています。つまり死ぬ以外の契約破棄の方法は不明です」
う~ん、マジか。
「……あの。アタシたち、この本を触ったせいで、この世界に飛ばされたんです。だから、元に戻るヒントもこの本にあると思うんですけど……何か分かりませんか?」
太刀川がすがるように問う。
ラウラさんは、静かに首を振った。
「ジュンちゃん。昨日も言ったけど、どの文献にも、貴方たちの言う『ここではない世界』の記録はないわ。もちろん、黒の書にそんな力があるという話も」
「……そう、ですか……」
太刀川の表情がしゅんと曇る。
まぁ、気持ちは分かる。
黒の書を調べれば、帰る道も見つかる──俺もそう信じていた。
それが、いきなり足元の道をぷっつり絶たれた気分だった。
「そう落ち込まないでください。あなたたちは黒の書の現物を持っているんです。それは、どんな記録にも勝る価値があります」
「でも、この本、開かないんスよ。中が見れなきゃ意味なくないスか?」
「その『開かないこと』自体に何か意味があるのかもしれません。まだ調査は始まったばかりです。焦らずいきましょう」
ヤンさんは励ましてくれたが、それでも太刀川の顔色は晴れない。
ラウラさんがパン、と手を打ち鳴らした。
「もう、そんな暗い顔ナシナシ! こういうときは気分転換よ! みんなで買い物にでも行きましょー!」
陽キャだなぁ、この人。
※※※
というわけで、俺たちは市場にやってきた。
屋台がずらっと並び、肉の焼ける匂いや果物の甘い香りが、広場いっぱいに漂っている。
「あの、ラウラさん。聞いていいスか?」
「なぁに?」
「なんでここまで俺たちに親切にしてくれるんスか? 昨日も泊めてもらったし、食事まで……」
「別に親切でやってるんじゃないわよ。貴方たちとは、利害が一致してるってだけ」
「黒の書のことですか」
黒の書の契約を解いたら、それをギルドに引き渡す。
昨日、そんな約束をラウラさんと交わした。
俺も太刀川も、目的さえ果たせればこの本に未練はないので構わないのだが。
「こんなヤバいもん手に入れてどうするんスか?」
「さぁねぇ。世界でも征服しちゃおっかな~?」
鼻歌まじりに、さらっとかわされた。
どうも読めないというか食えない人だ。
黒幕臭もするが、何も考えてないだけって感じもある。
「さ、今日の目的地にとうちゃ~く。入って入って!」
ラウラさんはある店の前につくと、太刀川の背中をぐいぐいと押した。
「え、ちょっ……なんですか、ここ?」
「見てのとおり服のお店だけど?」
店内には、チュニックとかマントとか、いかにもファンタジーな衣装がずらりと並んでいた。
「今みたいな間に合わせの服じゃ、気分が上がらないじゃない。バシッと着替えていい気分で過ごせば、調査にも身が入るってものでしょ?」
太刀川と俺の服は、今朝貸してもらった簡素なチュニックだ。
まぁ、たしかに毎日同じ学生服を着るわけにいかんしなぁ。
「ジュンちゃん、どんなのが好み? 元がいいからどんなのでも似合いそうよね!」
「あ、あの、そのっ……」
薬でもやってんのかと思う勢いで、ラウラさんは戸惑う太刀川を引きずり回す。
「ではタクミくん、我々は外で待っていましょうか」
「え、いいんスか?」
「女性の買い物に付き合う以上の苦痛はありませんよ」
あー、それはどこの世界でも同じなんだなぁ……
チラ見すると、太刀川はまだ浮かない顔をしていた。
ふと思いついた。
「あの、ヤンさん。ちょっとお金借りてもいいですか?」
※※※
初めての異世界での買い物は緊張したが、屋台から出ると少し胸が軽くなった。
小ぶりの布袋に入れてもらった品物を握りしめる。
こんなので元気が出るとは思えないが、ダメ元ってやつだ。
「しかし、サイフごと貸してもらっちゃってよかったのかね……」
ヤンさん、見かけによらず豪気な人だ――なんて思っていたら、ドン、と背中に衝撃を受けた。
いてぇ、と口にしたときには、手にしていたサイフと布袋がなくなっていた。
「え?」
視界に映るのはダッシュで逃げ去ってゆく男の背中。
これはもしや、いわゆるひとつの……ひったくり!
「うお――――――い! 待てぇ! 誰かそいつ、捕まえてくれ――!」
駆け出しながら絶叫する。
我ながらなんという雑魚いセリフ。
しかしこのシチュエーション、他に何か言葉があるとでも?
何人かが俺の声に振り向くが、ひったくりは慣れた身のこなしで、人波をぐんぐんかき分ける。
もう安心だと思ったのか、野郎はこちらを振り返って「へへっ」と言わんばかりに歯を見せて笑いやがった。
ぬおおっ、ストレス……!
そのとき、余裕ぶっこいたひったくりの頭上に、突然影が差した。
「せやあっ!」
ドゴオッ!
空から降ってきた人影が、野郎の頭に飛び蹴りをかました。
ひったくりは悲鳴を上げる間もなくぶっ飛んで、屋台のリンゴ箱の中にゴールイン。
ぶちまけられたリンゴの山と、人々の「おおーっ!」という歓声の中、人影がタン、と着地する。
屋根づたいに追いかけてきたらしい。
そいつは俺に振り返り、
「星野君、ケガしてない!?」
「た……」
太刀川、と言いかけた俺の口は、そこで固まった。
ファンタジー世界の武闘家がそこにいた。
黒髪ポニーテールはそのままだが、群青色のチャイナ服っぽいワンピースに、白いズボン。腰に巻いた黒い帯がアクセントとして効いている。
俺の視線に気づいたのか、太刀川は自分の体を隠すように抱くと、赤面してそっぽを向いた。
「……えっと、ラウラさんが『コレしかない!』って力説するから着てみたんだけど……やっぱ変?」
「い、いや……」
変というか……むしろ……
凛々しさと可愛さの最強コンボというか……いや、服がね?
カッコよさと可憐さのマリアージュというか……いや、服がね?
※※※
ヤンさんの手配でひったくりを警備兵に引き渡したところで、ようやく2人きりになれた。
「ほら、やるよ」
ポニテ武闘家に布袋を手渡す。
中から出てきたのは、ミニチュアの剣だった。
シャキーン! と音がしそうなぶっといデザインの両刃に、柄には実用性ゼロな宝石(っぽいただの石)がくっついている。
この世界でも子供向けのオモチャってあるんだな。
「……何これ?」
「プレゼント」
「へ? アタシに?」
「いんや、お前の弟さん。昨日、誕生日だったんだろ?」
太刀川の吊り気味の目が丸くなった。
まぁ、そうなるよな。
「結局、昨日のうちに帰してやれなかったしな。せめてもの罪ほろぼしってやつ」
「あ、ありがと……。いや、でも、まだ帰れるって保証も……」
「分かってる。だから、プレゼントを無駄にしないために頑張らなきゃだろ」
ああ、なんか恥ずかしいこと言おうとしてるぞ、星野拓海。そんなキャラだっけ、お前?
「いつになるか、約束はできないけど。お前をもとの世界に帰すまで、俺は本気だから」
我ながらなんというクサいセリフ。
しかしこのシチュエーション、他に何か言葉があるとでも?
対する太刀川は、感動のあまり涙を流して……と思いきや、ふぅ、と呆れたようなため息をついた。
え、やっぱ引いた?
「それで、なんで剣のオモチャ?」
「え、子供ならみんな好きだろ?」
「弟、もう中学生なんだけど」
なぁ――にぃ――。
「それを早く言えよ! とっくに卒業してんだろ、こんなの!」
「そんなこと言われたってさぁ……」
と、太刀川は唇を尖らせてから、不意にクスッと笑った。
あれ、今日、初めて笑ったんじゃね?
「元の世界に帰るまで――か。そうだね。頑張らなきゃ」
そう言って、拳を突き出してきた。
「それまでよろしくね。相棒」
なんか知らんが調子を戻したらしい。
まぁ、元気になったならなんでもいいか。
俺は「おう」と応えて拳を突き合わせた。
俺は本の山に埋もれていた。
なんでかって?
もちろんギルドに入団できたので、黒の書についての文献を片っ端から読ませてもらってるところです。
「あ~、頭いてぇ……」
朝から三時間、ぶっ続けで文字を追い続けたせいで、脳がパンクしそうだ。
ちなみにこの世界の文字は、言葉と同様、普通に読める。
原理は知らんが、ご都合主義でアブラカタブラな力が働いているんだろう(適当)。
長机の向かいでは、太刀川も黙々と本の山に向き合っていた。
「あの、ヤンさん。この文、ちょっと意味が分からなくて……見てもらえますか?」
太刀川が声をかけた相手は、隣に座るギルド長の秘書・ヤンさんだ。
「そこは、『ヤポン伝記』第87巻、721ページに参考となる記載があります。ただ、黒の書とは無関係ですね」
「え、まさか暗記してるんですか?」
「ええ、まぁ」
ヤンさんはこともなげに答えたが、すごいことだぞ。
「記憶系のスキルか何かなんスか?」
「いえ、覚えるのが得意なだけです。ここの本の半分程度しか暗記していないので、たいした自慢にはなりませんが」
「半分って……」
俺と太刀川は顔を見合わせ、図書室いっぱいに林立する本棚を見渡した。
たしか、他の階も合わせて数十万冊の本があるって言ってなかったか?
「すごいでしょ~、ヤン君て。ある意味ヘンタイよね」
軽い調子の声と一緒に、一人の女性が近づいてきた。
腰まで届く銀髪に、横へ流した前髪。
サファイアみたいにきらきらした青い瞳。
薄緑のローブにスリットの入ったスカートを着こなす、まぁとにかくどえらい美人だった。
「お褒めにあずかり光栄です。ちなみにギルド長の過去239回分のサボり履歴もすべて記憶していますよ」
「うわぁ、性格も最悪ぅ~」
ヤンさんからの皮肉を受けて、楽しそうに笑う女性――このギルドの長で、名前はラウラさんという。
若く見えるが、ヤンさんより年上だそうだから、30台半ばくらいだろう。
昨日の模擬戦のあと、ひょっこりやってきて、「すっごーい! さすが黒の書の契約者ちゃんね! えっ、ウチのギルドに入りたい? オッケーオッケー即合格!」と、駅前のティッシュ配りみたいにギルド身分証を渡してきた。
こんな軽いノリの人がトップで大丈夫なんか、このギルド?
「で、調子はどうなの、ヤン君?」
「正直、新しい情報はありません。黒の書が歴史に現れたのは、約400年前と750年前の2回だけ。どちらも、契約者の片方が死んで共倒れになっています。つまり死ぬ以外の契約破棄の方法は不明です」
う~ん、マジか。
「……あの。アタシたち、この本を触ったせいで、この世界に飛ばされたんです。だから、元に戻るヒントもこの本にあると思うんですけど……何か分かりませんか?」
太刀川がすがるように問う。
ラウラさんは、静かに首を振った。
「ジュンちゃん。昨日も言ったけど、どの文献にも、貴方たちの言う『ここではない世界』の記録はないわ。もちろん、黒の書にそんな力があるという話も」
「……そう、ですか……」
太刀川の表情がしゅんと曇る。
まぁ、気持ちは分かる。
黒の書を調べれば、帰る道も見つかる──俺もそう信じていた。
それが、いきなり足元の道をぷっつり絶たれた気分だった。
「そう落ち込まないでください。あなたたちは黒の書の現物を持っているんです。それは、どんな記録にも勝る価値があります」
「でも、この本、開かないんスよ。中が見れなきゃ意味なくないスか?」
「その『開かないこと』自体に何か意味があるのかもしれません。まだ調査は始まったばかりです。焦らずいきましょう」
ヤンさんは励ましてくれたが、それでも太刀川の顔色は晴れない。
ラウラさんがパン、と手を打ち鳴らした。
「もう、そんな暗い顔ナシナシ! こういうときは気分転換よ! みんなで買い物にでも行きましょー!」
陽キャだなぁ、この人。
※※※
というわけで、俺たちは市場にやってきた。
屋台がずらっと並び、肉の焼ける匂いや果物の甘い香りが、広場いっぱいに漂っている。
「あの、ラウラさん。聞いていいスか?」
「なぁに?」
「なんでここまで俺たちに親切にしてくれるんスか? 昨日も泊めてもらったし、食事まで……」
「別に親切でやってるんじゃないわよ。貴方たちとは、利害が一致してるってだけ」
「黒の書のことですか」
黒の書の契約を解いたら、それをギルドに引き渡す。
昨日、そんな約束をラウラさんと交わした。
俺も太刀川も、目的さえ果たせればこの本に未練はないので構わないのだが。
「こんなヤバいもん手に入れてどうするんスか?」
「さぁねぇ。世界でも征服しちゃおっかな~?」
鼻歌まじりに、さらっとかわされた。
どうも読めないというか食えない人だ。
黒幕臭もするが、何も考えてないだけって感じもある。
「さ、今日の目的地にとうちゃ~く。入って入って!」
ラウラさんはある店の前につくと、太刀川の背中をぐいぐいと押した。
「え、ちょっ……なんですか、ここ?」
「見てのとおり服のお店だけど?」
店内には、チュニックとかマントとか、いかにもファンタジーな衣装がずらりと並んでいた。
「今みたいな間に合わせの服じゃ、気分が上がらないじゃない。バシッと着替えていい気分で過ごせば、調査にも身が入るってものでしょ?」
太刀川と俺の服は、今朝貸してもらった簡素なチュニックだ。
まぁ、たしかに毎日同じ学生服を着るわけにいかんしなぁ。
「ジュンちゃん、どんなのが好み? 元がいいからどんなのでも似合いそうよね!」
「あ、あの、そのっ……」
薬でもやってんのかと思う勢いで、ラウラさんは戸惑う太刀川を引きずり回す。
「ではタクミくん、我々は外で待っていましょうか」
「え、いいんスか?」
「女性の買い物に付き合う以上の苦痛はありませんよ」
あー、それはどこの世界でも同じなんだなぁ……
チラ見すると、太刀川はまだ浮かない顔をしていた。
ふと思いついた。
「あの、ヤンさん。ちょっとお金借りてもいいですか?」
※※※
初めての異世界での買い物は緊張したが、屋台から出ると少し胸が軽くなった。
小ぶりの布袋に入れてもらった品物を握りしめる。
こんなので元気が出るとは思えないが、ダメ元ってやつだ。
「しかし、サイフごと貸してもらっちゃってよかったのかね……」
ヤンさん、見かけによらず豪気な人だ――なんて思っていたら、ドン、と背中に衝撃を受けた。
いてぇ、と口にしたときには、手にしていたサイフと布袋がなくなっていた。
「え?」
視界に映るのはダッシュで逃げ去ってゆく男の背中。
これはもしや、いわゆるひとつの……ひったくり!
「うお――――――い! 待てぇ! 誰かそいつ、捕まえてくれ――!」
駆け出しながら絶叫する。
我ながらなんという雑魚いセリフ。
しかしこのシチュエーション、他に何か言葉があるとでも?
何人かが俺の声に振り向くが、ひったくりは慣れた身のこなしで、人波をぐんぐんかき分ける。
もう安心だと思ったのか、野郎はこちらを振り返って「へへっ」と言わんばかりに歯を見せて笑いやがった。
ぬおおっ、ストレス……!
そのとき、余裕ぶっこいたひったくりの頭上に、突然影が差した。
「せやあっ!」
ドゴオッ!
空から降ってきた人影が、野郎の頭に飛び蹴りをかました。
ひったくりは悲鳴を上げる間もなくぶっ飛んで、屋台のリンゴ箱の中にゴールイン。
ぶちまけられたリンゴの山と、人々の「おおーっ!」という歓声の中、人影がタン、と着地する。
屋根づたいに追いかけてきたらしい。
そいつは俺に振り返り、
「星野君、ケガしてない!?」
「た……」
太刀川、と言いかけた俺の口は、そこで固まった。
ファンタジー世界の武闘家がそこにいた。
黒髪ポニーテールはそのままだが、群青色のチャイナ服っぽいワンピースに、白いズボン。腰に巻いた黒い帯がアクセントとして効いている。
俺の視線に気づいたのか、太刀川は自分の体を隠すように抱くと、赤面してそっぽを向いた。
「……えっと、ラウラさんが『コレしかない!』って力説するから着てみたんだけど……やっぱ変?」
「い、いや……」
変というか……むしろ……
凛々しさと可愛さの最強コンボというか……いや、服がね?
カッコよさと可憐さのマリアージュというか……いや、服がね?
※※※
ヤンさんの手配でひったくりを警備兵に引き渡したところで、ようやく2人きりになれた。
「ほら、やるよ」
ポニテ武闘家に布袋を手渡す。
中から出てきたのは、ミニチュアの剣だった。
シャキーン! と音がしそうなぶっといデザインの両刃に、柄には実用性ゼロな宝石(っぽいただの石)がくっついている。
この世界でも子供向けのオモチャってあるんだな。
「……何これ?」
「プレゼント」
「へ? アタシに?」
「いんや、お前の弟さん。昨日、誕生日だったんだろ?」
太刀川の吊り気味の目が丸くなった。
まぁ、そうなるよな。
「結局、昨日のうちに帰してやれなかったしな。せめてもの罪ほろぼしってやつ」
「あ、ありがと……。いや、でも、まだ帰れるって保証も……」
「分かってる。だから、プレゼントを無駄にしないために頑張らなきゃだろ」
ああ、なんか恥ずかしいこと言おうとしてるぞ、星野拓海。そんなキャラだっけ、お前?
「いつになるか、約束はできないけど。お前をもとの世界に帰すまで、俺は本気だから」
我ながらなんというクサいセリフ。
しかしこのシチュエーション、他に何か言葉があるとでも?
対する太刀川は、感動のあまり涙を流して……と思いきや、ふぅ、と呆れたようなため息をついた。
え、やっぱ引いた?
「それで、なんで剣のオモチャ?」
「え、子供ならみんな好きだろ?」
「弟、もう中学生なんだけど」
なぁ――にぃ――。
「それを早く言えよ! とっくに卒業してんだろ、こんなの!」
「そんなこと言われたってさぁ……」
と、太刀川は唇を尖らせてから、不意にクスッと笑った。
あれ、今日、初めて笑ったんじゃね?
「元の世界に帰るまで――か。そうだね。頑張らなきゃ」
そう言って、拳を突き出してきた。
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