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第22話 ギルド長の微笑み(怒)
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部屋はその主の人となりを表す、と言います。
王都にあるギルド監査局。
その長である監査官・ゲルネスの執務室は、まさしく彼の内面を映す鏡でした。
これみよがしに並んだ絵画に彫刻、無駄に広い床面積、贅沢な絨毯――
成金趣味の権化のようなその部屋の中央で、私たちは向かいあっていました。
「監査官。どうしてもジュンちゃんとタクミ君を解放する気はありませんのね?」
「キミもしつこいね、ラウラ君。その場で『処分』しなかっただけでも感謝したまえ」
監査官ゲルネスは机の向こう、大きすぎる椅子にふんぞり返って鼻で笑いました。
その態度は、すべてを手中に収めた王のようでした。
対して、私の前に立つギルド長の態度は、たいへん穏やかでした。
優雅に両腕を組み、柔らかく微笑みながら、ゆったりと言葉をつむぐ。そよ風に揺れる白百合のような立ち姿――。
この人の秘書を務める私には分かります。
これは、ブチ切れています。
「たとえ監査局であっても、ギルドのメンバーを拘束する権利はないはずですよ?」
「原則はな。しかし今回は特例だ。聞けば、村一つを半壊させたというじゃないか。そんな化け物の管理を、一介のギルドに任せるわけにいかん。特にキミのような見てくれだけの小娘にはな」
私たちがラピダス村に着いたときには、王都の兵たちはジュンさんたち四人を拘束し、黒の書とともに王都へ運び込んでいました。
まさに痛恨の出遅れ――私たちのミスでした。
「それで、これから彼女たちをどうするおつもりで?」
「危険分子は取り除かなければならん。黒の書を無力化するにはどうすればよいか、キミもよく知っているだろう?」
「……あの子たちを殺すと?」
「人聞きの悪いことを言わんでくれ。法にのっとり裁判はしてやるさ。裁判はな。その結果がどうなるかまでは保証しないがね」
ゲルネスは白々しくそううそぶきます。
ギルド長の笑みがさらに深くなりました。
………煮えたぎっています。
「形だけの裁判であの子たちを処刑台に送ろうというのですね。それが監査局のやり方ですか」
「何とでも言うがいい。黒の書も契約者どもも、私の手の内にあるのだ」
「……」
「ふふん、悔しいかね、ラウラ君? これまで私のことをないがしろにしてきた報いだよ。たっぷり後悔するといい。ぬっふっふ」
ゲルネスは満足そうに小太りの体を椅子に預け、鼻を鳴らします。
こんな私怨で仕事するような人間がなぜ出世できるのか、不思議でなりません。
「お言葉ですが、デブネス監査官」
「ゲルネスだ! 誰がデブだ、誰が!」
「あら、ごめんあそばせ。そのお体を見ていたら、つい」
「相変わらず腹立つな、君は!」
さすがギルド長、やられっぱなしでは終わりません。
「今、こんなところでいがみあっている場合ではないでしょう。キンダーガルテンが黒の書を狙っていることが分かったのですよ。彼らに書を奪われれば、それこそ一巻の終わりです」
「それは君らが心配することではない。――いや、むしろだからこそ、君のギルドに関わってもらっては困るのだ」
「………どういう意味ですか?」
「それは自分が一番よく分かっているだろう」
ニヤリと笑うゲルネス監査官。
「キンダーガルテンが今回、黒の書を狙ったのは――ラウラ君、君の差し金ではないのかね?」
途端、ギルド長の顔から笑みが吹き消えました。
肩が強張り、唇が引き絞られます。
最も触れられたくない傷に触れられたように――
私は思わず口を挟みました。
「監査官、今の発言は取り消してください。それは何の証拠もない、ただの……」
「いいの、ヤン君」
ギルド長は、私を手で制しました。
すうっと落ち着くように息をし、静かに微笑むと、
「これ以上の話し合いは無意味のようですわね」
「ふん、ようやく理解したか。とっとと尻尾を巻いて帰りたまえ」
「ええ。ではこれで失礼いたしますわ、ゲスデス監査官」
「ゲ・ル・ネ・ス! ちょっと惜しい感じで間違えてんじゃなーい!」
立ち上がってツッコミを入れる監査官を尻目に、ギルド長は部屋を去りました。
私は後に続き、廊下を行くギルド長の背に声をかけます。
「いいのですか?」
「あのタヌキ爺にあれ以上言ってもムダよ。タクミ君たちが処刑される前に、私たちの手で奪還しなきゃ」
「では、次はどうします?」
「そうね」
ギルド長は足を止め、ふと微笑みました。
さきほどまでの作り物とは違う、素の笑顔でした。
「とりあえず、私たちのかわいい仲間を迎えに行きましょ」
王都にあるギルド監査局。
その長である監査官・ゲルネスの執務室は、まさしく彼の内面を映す鏡でした。
これみよがしに並んだ絵画に彫刻、無駄に広い床面積、贅沢な絨毯――
成金趣味の権化のようなその部屋の中央で、私たちは向かいあっていました。
「監査官。どうしてもジュンちゃんとタクミ君を解放する気はありませんのね?」
「キミもしつこいね、ラウラ君。その場で『処分』しなかっただけでも感謝したまえ」
監査官ゲルネスは机の向こう、大きすぎる椅子にふんぞり返って鼻で笑いました。
その態度は、すべてを手中に収めた王のようでした。
対して、私の前に立つギルド長の態度は、たいへん穏やかでした。
優雅に両腕を組み、柔らかく微笑みながら、ゆったりと言葉をつむぐ。そよ風に揺れる白百合のような立ち姿――。
この人の秘書を務める私には分かります。
これは、ブチ切れています。
「たとえ監査局であっても、ギルドのメンバーを拘束する権利はないはずですよ?」
「原則はな。しかし今回は特例だ。聞けば、村一つを半壊させたというじゃないか。そんな化け物の管理を、一介のギルドに任せるわけにいかん。特にキミのような見てくれだけの小娘にはな」
私たちがラピダス村に着いたときには、王都の兵たちはジュンさんたち四人を拘束し、黒の書とともに王都へ運び込んでいました。
まさに痛恨の出遅れ――私たちのミスでした。
「それで、これから彼女たちをどうするおつもりで?」
「危険分子は取り除かなければならん。黒の書を無力化するにはどうすればよいか、キミもよく知っているだろう?」
「……あの子たちを殺すと?」
「人聞きの悪いことを言わんでくれ。法にのっとり裁判はしてやるさ。裁判はな。その結果がどうなるかまでは保証しないがね」
ゲルネスは白々しくそううそぶきます。
ギルド長の笑みがさらに深くなりました。
………煮えたぎっています。
「形だけの裁判であの子たちを処刑台に送ろうというのですね。それが監査局のやり方ですか」
「何とでも言うがいい。黒の書も契約者どもも、私の手の内にあるのだ」
「……」
「ふふん、悔しいかね、ラウラ君? これまで私のことをないがしろにしてきた報いだよ。たっぷり後悔するといい。ぬっふっふ」
ゲルネスは満足そうに小太りの体を椅子に預け、鼻を鳴らします。
こんな私怨で仕事するような人間がなぜ出世できるのか、不思議でなりません。
「お言葉ですが、デブネス監査官」
「ゲルネスだ! 誰がデブだ、誰が!」
「あら、ごめんあそばせ。そのお体を見ていたら、つい」
「相変わらず腹立つな、君は!」
さすがギルド長、やられっぱなしでは終わりません。
「今、こんなところでいがみあっている場合ではないでしょう。キンダーガルテンが黒の書を狙っていることが分かったのですよ。彼らに書を奪われれば、それこそ一巻の終わりです」
「それは君らが心配することではない。――いや、むしろだからこそ、君のギルドに関わってもらっては困るのだ」
「………どういう意味ですか?」
「それは自分が一番よく分かっているだろう」
ニヤリと笑うゲルネス監査官。
「キンダーガルテンが今回、黒の書を狙ったのは――ラウラ君、君の差し金ではないのかね?」
途端、ギルド長の顔から笑みが吹き消えました。
肩が強張り、唇が引き絞られます。
最も触れられたくない傷に触れられたように――
私は思わず口を挟みました。
「監査官、今の発言は取り消してください。それは何の証拠もない、ただの……」
「いいの、ヤン君」
ギルド長は、私を手で制しました。
すうっと落ち着くように息をし、静かに微笑むと、
「これ以上の話し合いは無意味のようですわね」
「ふん、ようやく理解したか。とっとと尻尾を巻いて帰りたまえ」
「ええ。ではこれで失礼いたしますわ、ゲスデス監査官」
「ゲ・ル・ネ・ス! ちょっと惜しい感じで間違えてんじゃなーい!」
立ち上がってツッコミを入れる監査官を尻目に、ギルド長は部屋を去りました。
私は後に続き、廊下を行くギルド長の背に声をかけます。
「いいのですか?」
「あのタヌキ爺にあれ以上言ってもムダよ。タクミ君たちが処刑される前に、私たちの手で奪還しなきゃ」
「では、次はどうします?」
「そうね」
ギルド長は足を止め、ふと微笑みました。
さきほどまでの作り物とは違う、素の笑顔でした。
「とりあえず、私たちのかわいい仲間を迎えに行きましょ」
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