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第37話 本物の証明(2)
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外に出ると、村の中央を貫く通りに、見知らぬ男女がふんぞり返って立っていた。
「……あいつらが、俺たちのニセモノ?」
冗談じゃねぇぞ。
似ても似つかない――どころか、別の生き物じゃねーか。
男のほうは、筋肉モリモリの巨漢。
身長はゆうに二メートルを超え、分厚い胸板を誇示するように上半身裸の上から袖なしのベストを羽織っている。
極めつきは、頭の上に鎮座する巨大なモヒカンだ。
いや、お前……明らかに出る世界を間違えてるだろ。
世紀末でヒャッハーのやつだろ、絶対。
「オラァ! とっとと出てこいってんだよ! このタコメ・ホズノー様を待たせるつもりかァ?」
「タ、タコメ・ホズノー……?」
どんな聞き間違いだよ?
俺の名前は、タクミ・ホシノ!
「ふふん、このワタシ、ジャーン・タツカワ様がわざわざ作物を奪いにきてあげたのよ。感謝なさい?」
女のほうはさらにひどい。
ケバすぎの化粧に、派手なチャイナドレス風の服をまとい、露出した生足を見せつけている。
スタイルだけは抜群に良いが、そこから醸し出される下品な空気は、本物と正反対だ。
「ちょっと待って……あんなのにアタシの名前を名乗られたくないんだけど」
隣では本物の太刀川がわなわなと震えていた。
そりゃそうだよな。
ニセモノたちの怒声に駆り出されるように、そこらの家から、怯えた顔の村人たちが姿を見せ始めた。
村長らしき老人が前に出て、必死に手を合わせる。
「どうか、どうかご勘弁ください。この村にはもう差し出すものが何もないんです……」
「んだとお?」
タコメ・ホズノー氏は巨木のような腕を振り回し、近くの民家の壁を軽々と破壊した。
「おう! あんまり俺の機嫌を損ねんなよ! 黒の書のせいで力があり余ってんだ! 村ごとブッ壊しちまうかもしれねぇぜ!」
いや、どこが黒の書の力?
ただの腕力じゃねーか。
「し、しかし……」
「しつこいわねェ」
と、女はおもむろに懐から黒い表紙の本を取り出した。
「ひぃっ!」
それだけで村人たちは後ろに飛びすさる。
「わかってるわよね? この黒の書が開けば、恐ろしい大蛇が飛び出して、このちっぽけな村なんて一口で呑み込んじゃうんだから!」
え、まさかアレが黒の書のつもり?
どう見てもフツーの本に墨を塗りたくっただけのパチモンなんだが。
しかも、男がパワー系で、女が大蛇を召喚する設定って……完全に逆だろ。
そんな基本設定すら知らずに契約者を名乗るってどうなんだよ。
「わ、わかりました……。言う通りにします。ですからどうか、どうか命だけは……!」
「そうだよ、最初からそう言えばいいんだよ! クロクロクロ!」
男はふざけた笑い声を上げる。
「いい子ねぇ。あんたたち、長生きできるわよ! ノショショショショ!」
女も意味不明な声で笑った。
(「クロ」と「ノショ」で、『黒の書』……?)
もうツッコむ気力すら奪われた。
隣では太刀川も魂が抜けたような顔。
誰か助けて……。
「おっ? いい馬がいるじゃねぇか」
タコメがコーディの家の馬に目をつけ、当然のように奪い取ろうと近づいた。
「! ふ、ふざけんな!」
たまらずコーディが飛び出し、その足に体当たりをかました。
が、当然びくともしやしない。
「おっとぉ。なんだこのガキは?」
母親が駆け寄り、コーディを抱きしめて引き留める。
「ダメよ、コーディ! 逆らっちゃダメ!」
「なんでだよ! 馬を取られたら街に野菜を売りに行けないじゃないか! どうやってお金を稼げばいいんだよ!」
コーディの悲痛な叫びが村に響き渡る。
「ぐっ……」
太刀川が拳を握り、前へ出ようとする。
「おい、抑えろ太刀川。手ェ出すなよ」
「だ、だって、このままじゃ……」
「ここで暴れたら、俺たちが本物の契約者だってバレちまうだろ」
「だからって、黙って見てろっていうの?」
「いいから我慢しろ!」
こんな王都の近くで事を荒立てれば、あとあと面倒なことになる。
可哀想だが、俺たちには関係ない。
関係ないんだ。
「うわあっ!?」
タコメはにやりと笑い、片手でコーディを軽々と持ち上げた。
「は、はなせ、このヤロー! ぶっ飛ばすぞ!」
「おお、恐い恐い」
「威勢がいいわねぇ、坊や。でもね、世の中には逆らっちゃいけない相手っているのよ」
「お前のオヤジはそんなことも教えてくれなかったのか?」
男が意地悪く言うと、コーディの目に涙が浮かんだ。
「おい、なんとか言えよ」
男はコーディの頬を平手打ちした。
「やめてください! コーディに手を出さないで!」
母親の悲痛な声が響く。
太刀川が唇を噛みしめる。
――我慢しろ、太刀川。
俺は目配せでそう合図を送る。
コーディは泣き声を堪えながら、声を振り絞った。
「父ちゃんは……いない」
「あん?」
「病気で死んだんだ。働き者で、かっこいい父ちゃんだった。死ぬ前に、オイラに言ったんだ。母ちゃんを守ってやれって」
その小さな体で、自分よりはるかに大きい男をにらみつけ、
「オイラ、父ちゃんとの約束を守るんだ。強くなって、母ちゃんを守るって決めたんだ。お前らなんかに負けてたまるか!」
顔じゅうをくしゃくしゃにしながら、コーディは叫んだ。
「コーディ……!」
母親は涙に濡れた瞳で息子を見つめた。
タコメはせせら笑い、
「泣かせるガキだな。そんじゃあ、大好きな親父のところに送ってやるよ」
コーディを頭上に持ち上げた。
「わああっ!」
「コーディ君!」
コーディと太刀川の叫びが重なる。
そのまま地面に叩きつけようとした、その瞬間——
「……あいつらが、俺たちのニセモノ?」
冗談じゃねぇぞ。
似ても似つかない――どころか、別の生き物じゃねーか。
男のほうは、筋肉モリモリの巨漢。
身長はゆうに二メートルを超え、分厚い胸板を誇示するように上半身裸の上から袖なしのベストを羽織っている。
極めつきは、頭の上に鎮座する巨大なモヒカンだ。
いや、お前……明らかに出る世界を間違えてるだろ。
世紀末でヒャッハーのやつだろ、絶対。
「オラァ! とっとと出てこいってんだよ! このタコメ・ホズノー様を待たせるつもりかァ?」
「タ、タコメ・ホズノー……?」
どんな聞き間違いだよ?
俺の名前は、タクミ・ホシノ!
「ふふん、このワタシ、ジャーン・タツカワ様がわざわざ作物を奪いにきてあげたのよ。感謝なさい?」
女のほうはさらにひどい。
ケバすぎの化粧に、派手なチャイナドレス風の服をまとい、露出した生足を見せつけている。
スタイルだけは抜群に良いが、そこから醸し出される下品な空気は、本物と正反対だ。
「ちょっと待って……あんなのにアタシの名前を名乗られたくないんだけど」
隣では本物の太刀川がわなわなと震えていた。
そりゃそうだよな。
ニセモノたちの怒声に駆り出されるように、そこらの家から、怯えた顔の村人たちが姿を見せ始めた。
村長らしき老人が前に出て、必死に手を合わせる。
「どうか、どうかご勘弁ください。この村にはもう差し出すものが何もないんです……」
「んだとお?」
タコメ・ホズノー氏は巨木のような腕を振り回し、近くの民家の壁を軽々と破壊した。
「おう! あんまり俺の機嫌を損ねんなよ! 黒の書のせいで力があり余ってんだ! 村ごとブッ壊しちまうかもしれねぇぜ!」
いや、どこが黒の書の力?
ただの腕力じゃねーか。
「し、しかし……」
「しつこいわねェ」
と、女はおもむろに懐から黒い表紙の本を取り出した。
「ひぃっ!」
それだけで村人たちは後ろに飛びすさる。
「わかってるわよね? この黒の書が開けば、恐ろしい大蛇が飛び出して、このちっぽけな村なんて一口で呑み込んじゃうんだから!」
え、まさかアレが黒の書のつもり?
どう見てもフツーの本に墨を塗りたくっただけのパチモンなんだが。
しかも、男がパワー系で、女が大蛇を召喚する設定って……完全に逆だろ。
そんな基本設定すら知らずに契約者を名乗るってどうなんだよ。
「わ、わかりました……。言う通りにします。ですからどうか、どうか命だけは……!」
「そうだよ、最初からそう言えばいいんだよ! クロクロクロ!」
男はふざけた笑い声を上げる。
「いい子ねぇ。あんたたち、長生きできるわよ! ノショショショショ!」
女も意味不明な声で笑った。
(「クロ」と「ノショ」で、『黒の書』……?)
もうツッコむ気力すら奪われた。
隣では太刀川も魂が抜けたような顔。
誰か助けて……。
「おっ? いい馬がいるじゃねぇか」
タコメがコーディの家の馬に目をつけ、当然のように奪い取ろうと近づいた。
「! ふ、ふざけんな!」
たまらずコーディが飛び出し、その足に体当たりをかました。
が、当然びくともしやしない。
「おっとぉ。なんだこのガキは?」
母親が駆け寄り、コーディを抱きしめて引き留める。
「ダメよ、コーディ! 逆らっちゃダメ!」
「なんでだよ! 馬を取られたら街に野菜を売りに行けないじゃないか! どうやってお金を稼げばいいんだよ!」
コーディの悲痛な叫びが村に響き渡る。
「ぐっ……」
太刀川が拳を握り、前へ出ようとする。
「おい、抑えろ太刀川。手ェ出すなよ」
「だ、だって、このままじゃ……」
「ここで暴れたら、俺たちが本物の契約者だってバレちまうだろ」
「だからって、黙って見てろっていうの?」
「いいから我慢しろ!」
こんな王都の近くで事を荒立てれば、あとあと面倒なことになる。
可哀想だが、俺たちには関係ない。
関係ないんだ。
「うわあっ!?」
タコメはにやりと笑い、片手でコーディを軽々と持ち上げた。
「は、はなせ、このヤロー! ぶっ飛ばすぞ!」
「おお、恐い恐い」
「威勢がいいわねぇ、坊や。でもね、世の中には逆らっちゃいけない相手っているのよ」
「お前のオヤジはそんなことも教えてくれなかったのか?」
男が意地悪く言うと、コーディの目に涙が浮かんだ。
「おい、なんとか言えよ」
男はコーディの頬を平手打ちした。
「やめてください! コーディに手を出さないで!」
母親の悲痛な声が響く。
太刀川が唇を噛みしめる。
――我慢しろ、太刀川。
俺は目配せでそう合図を送る。
コーディは泣き声を堪えながら、声を振り絞った。
「父ちゃんは……いない」
「あん?」
「病気で死んだんだ。働き者で、かっこいい父ちゃんだった。死ぬ前に、オイラに言ったんだ。母ちゃんを守ってやれって」
その小さな体で、自分よりはるかに大きい男をにらみつけ、
「オイラ、父ちゃんとの約束を守るんだ。強くなって、母ちゃんを守るって決めたんだ。お前らなんかに負けてたまるか!」
顔じゅうをくしゃくしゃにしながら、コーディは叫んだ。
「コーディ……!」
母親は涙に濡れた瞳で息子を見つめた。
タコメはせせら笑い、
「泣かせるガキだな。そんじゃあ、大好きな親父のところに送ってやるよ」
コーディを頭上に持ち上げた。
「わああっ!」
「コーディ君!」
コーディと太刀川の叫びが重なる。
そのまま地面に叩きつけようとした、その瞬間——
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