レベル1の俺が死んだらレベル999の最強チート美少女も死ぬらしい~異世界スローライフしたい俺と、帰りたい彼女の命がけバディ生活~

古池ケロ太

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第46話 名も無き影(1)

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 というわけで、俺たちはオアシスに到着した。

 ええ、言い間違いじゃござんせん。
 オ・ア・シ・スでございます。
 砂漠のド真ん中にドーンと鎮座する、あのデカい水たまり。

 魔鉱列車に揺られること丸一日、たどり着いたのは、高いヤシみたいな木々と分厚い土壁に囲まれた都市。
 その中央には、陽光を跳ね返す湖が広がっていた。

「あっぢぃ……」

 地面に溶けそうな俺に、太刀川が革袋を差し出す。

「大丈夫? ほら、水」
「悪い……。てか、お前けっこう平気そうだな。暑さに強いほうか?」
「そうでもないけど、なんか平気みたい。黒の書の力なのかな?」

 そりゃまた便利だなオイ。エアコン代が浮きそう。

「だいだい、なんでわざわざ砂漠を横切らなきゃなんねぇんだよ、じいさん?」
「おめぇら王都の兵に追われてんだろ。他のルートを通りゃ、待ち伏せされるに決まってらぁ。ここならワケありの連中も多いし、身を隠しながら進むにはもってこいだ」
「だからってなぁ……」
「でも、砂漠の真ん中にこんな町があるなんて。食べ物も買えたし助かりましたね」

 湖から引かれた水路が町中を巡り、その両脇には市場の屋台がびっしり。
 果物、干し肉、色鮮やかな布、山積みの水瓶――まさに砂漠の命の補給所だ。

「ここはアマール砂漠の中継地点だ。キャラバンが必ず立ち寄るから、物資は豊富ってぇわけよ」

 そう言いつつ、じいさんは店の商品を次々と袋に放り込んでいく。
 ちなみに資金源は、途中の街で売った余りの魔鉱石。希少品らしく、結構な額になった。港までの食費くらいはどうにかなりそうだ。
 やっぱり異世界でも世の中カネですなぁ。

「ええと、水と食い物は買ったから……次はこれだな」

 火打ち石や日除けマントまで追加購入するじいさん。

「そんなもん何に使うんだよ?」
「砂漠を渡るんだ、備えにゃ限度はねぇ」
「だからってなぁ……おい、何だよその物騒な感じのは?」

 じいさんがジャンク屋みたいな店先から、ピン付きの細長い缶を持ち上げた。

「閃光弾だ。このピンを抜くと光が弾けて目をくらませる」
「だからどこで使うんだよ」
「言ったろ、ワケありのヤツらも来るって。ここらはキャラバン狙いの盗賊が出る。身を守る道具も必要なんだよ」
「太刀川がいれば十分だろ」
「べらぼうめ、それでも男か? 女を守るのが男の甲斐性ってもんよ」
「おじいさん、いいこと言う! ちゃんと聞いてよね、星野君」

 太刀川はからかうように半眼を寄こしてくる。
 ……くっそー。


※※※

 そんなこんなで買い物を終え、町外れの砂場に置きっぱなしの列車のもとと戻ってきた。

 と、列車の手前で、太刀川がピタリと立ち止まった。

「太刀川?」
「……下がって、二人とも」

 すっと腕を伸ばし、俺とじいさんを制止する。
 すると――

「へっへっへ……」

 列車の陰から、大勢の男たちがぞろぞろと現れた。

 うげ、と思わず声が漏れる。
 全員、見事なまでの悪人面だ。
 日に焼けた肌に伸び放題の髭、汗と砂にまみれたターバン、襟元までほつれた長衣。腰には鈍く光る曲刀や錆びた短剣。
 まるで「砂漠の盗賊」という図鑑のページを、そのまま立体化したような連中だ。

「そら見ろ、俺っちの言ったとおりだろうが」
「まったく……治安が悪いったらないな、おい」

 盗賊どもの中央から、一人の大柄な男が進み出る。
 黒々としたヒゲに、宝飾だらけの歯をギラつかせた男――どうやらリーダー格だ。

「ああん? ガキとジジイじゃねぇか。まさかとは思うが、このご立派な鉄の箱を走らせてたのはてめぇらか?」
「だったら何でぇ。文句あっか?」

 じいさんがにらみ返す。
 黒ヒゲは手にした曲刀をゆらりと掲げ、刃に砂漠の陽光を反射させた。

「そいつは話が早ぇ。命が惜しけりゃ動かし方を教えな。こんな便利なモンがありゃ、俺らの商売も格段にはかどるっつーハナシよ」

 なるほど。砂漠を走る列車を見て、欲しくなっちゃったわけね。

「べらぼうめ、おめぇらの汚ねぇ手でコイツに触られてたまるかってんだ!」
「そうだよ、ドロボウ反対! 警察に捕まっちゃうよ!」

 だからこの世界に警察はないって……。

 黒ヒゲは太刀川の顔を見るなり、「おっ?」とギョロ目を剥き、いやらしく歯を見せて笑った。

「こいつぁなかなかの上玉じゃねぇか。ついでに貰ってってやるか……おい」

 目配せに合わせて、十数人の盗賊が一斉に曲刀を抜き、半円を描いて俺たちを囲む。
 太刀川の吊り目が、さらに鋭く細まった。

「警察の前に、少し痛い目に遭いたいみたいだね」
「くっくっ……勇ましいお嬢ちゃんだ。痛い目に遭うのはどっちかっつーハナシよ。――やれ!」

 男どもが一斉に襲いかかる――次の瞬間。

「せやあっ!」

 太刀川が砂地を薙ぐように、右足を振り抜いた。
 蹴り上げられた砂は、ドバアッ!と舞い上がり、弧を描きながら空へ。
 真昼の陽光を反射して白金色に輝く砂の壁が、瞬く間に盗賊たちの視界を飲み込んだ。

「ぐおっ!」「どわあっ!?」

 視界を奪われ、体勢を崩す盗賊たち。
 その混乱の中、太刀川の影が砂煙の向こうで閃き、複数の打撃音が連続して響く。

 やがて白金の砂が地面に落ちきったときには、盗賊全員が地面に沈んでいた。
 もちろん、太刀川が瞬きする間に叩き伏せた結果だ。

「な……なっ……!」

 ただ一人残った黒ヒゲが、信じられないものを見るような目を向ける。
 まぁ、順当ですわな。

「まだやる?」
「くっ……」

 後ずさる黒ヒゲ。
 さて、あとは尻尾を巻いて逃げるだけ――と思いきや。
 冷や汗を垂らしながらも、その口元がにやりと吊り上がった。

「ああ……やろう」

 予想外の返事に、俺も太刀川も眉を寄せる。

 黒ヒゲは足元の自分の影を見下ろし、高らかに呼びかけた。

「出番だ、シャドウ!」

 真昼の砂の上、その影がぐにゃりと歪んだ。
 黒い液体のように地面から伸び上がり――その中から黒いフードを被った人影が、音もなくせり上がった。
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