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7通目:道化師と仮面
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「その時にさ、あーこの子は今までただ強がってただけなんだなぁ。こんな風に人知れず傷付いて、一人で耐えてきたんだろうなぁなんて思ったらなんかこう……ねぇ?」
照れたように頭を掻くその姿はいつもと違って年相応の男の子に見える。
「それからなぁ~んか目で追いかけるようになっちゃってさぁ。いわゆるギャップ萌えってやつ? いやぁ、女の涙はマジで武器だね」
「……じゃあ、それからずっと神田さんの事?」
「そーそ。中学で麻衣子が彰サマに惚れちゃうずっと前からね。こう見えてもボクはとっても一途な純情ピュアボーイなのです」
塚本くんから軽口がぽんぽんと出てくる。どうやら普段の調子に戻ってしまったらしい。いつも今みたいにしていれば好感が持てるのに。わざとキャラを作ってるのかもしれないけど、損する人だ。
「はいはーい! 俺の話はこれでおしまーい!」
パンパンと手を二回叩いて強制的に話を終わらせると、塚本くんは私の顔を覗き込むように首を傾げた。
「栞里ちゃん。お返しと言っちゃアレだけど、俺からも一つ言っていい?」
「……なに?」
いつものように笑みを浮かべる塚本くんを、私も同じように首を傾げて見やる。
「平岡と栞里ちゃん、本当は付き合ってなんかないでしょ?」
先ほどまでの胡散臭い表情とは打って変わって、私を捉える鋭い視線はまさに百獣の王そのもの。自分で言うだけあって「レオ」の名前は伊達じゃないようだ。自然と眉間に力が入る。
「無言は肯定と捉えるよ?」
随分と自信があるようだった。私は深い溜め息をつきながらぽつりと言った。
「……お好きにどーぞ」
「あ、やっぱそうなんだ?」
疑問で返ってきたその言葉にはっとする。まさか……鎌掛けられた? 不満気な私の表情を読み取ったのか、塚本くんが慌てたように口を開いた。
「違う違う! 別に引っ掛けようと思ったわけじゃなくて! 態度とか雰囲気とか、前からちょっと違和感があったんだよね。確信が持てなかっただけでさ!」
確かに。私は今まで彰くんはおろか他人とあまり関わらないように心掛けてきた女だ。そんな私が突然人気者の彰くんの彼女になるなんて、疑問に思う人が出てくるのは頷ける。
塚本くんの「俺も話したんだからお前も早く話せ」とでも言いたげな視線がうざったくて、私は渋々口を開いた。
「彰くんとは付き合ってない。ただ付き合ってる振りをしてるだけ。理由は知らないけどあっちから言ってきたの。以上」
「短っ!! それいくらなんでも簡潔すぎじゃね!?」
そんな事言われたってこれ以上は説明の仕様がない。私が言ったことに間違いはないし。
「もっとこう……なんかないの?」
「ない」
「えええ……」
俺だけ超語っちゃったじゃん恥ずかしーとか、もうちょっと詳しく教えてくれてもいいじゃんか、なんてぶつぶつと文句を言っている塚本くんを尻目に、私は中断していた作業を再開させる。休憩時間はもう終わりだ。
「ああそうだ。栞里ちゃん、もう一つだけ言っても良い?」
「……今度は何?」
本棚と一覧表を交互に見ながら耳を傾ける。
「あのね、俺が栞里ちゃんの事好きだっていうのは嘘じゃないよ。恋愛感情云々は抜きにしてね」
「……へぇ。さっすが博愛主義者の塚本くん」
「うん。女の子限定だけどね」
私と塚本くんは顔を見合わせると、どちらからともなく噴き出した。
「栞里ちゃんお疲れさま! ごめんね、遅くなっちゃった」
笑いが落ち着いたちょうど良いタイミングで、小さな段ボール箱を抱えた翠先生が図書室に戻ってきた。
「本の補修グッズが中々見付からなくてさぁ。だいぶ手間取っちゃったわよ」
翠先生はカウンターに段ボール箱を置く。中に入っているのは本の補修に使う道具らしい。きっとテープや紐、接着剤などが入っているのだろう。
「やっほー翠ちゃん! お邪魔してまーっす」
「おーレオくん! いらっしゃーい」
まるで友達同士のように軽い挨拶を交わす。
「あ、そうだレオくんこのあと暇? もし暇だったら作業手伝ってくれない? 人手が足りなくて困ってるのよ」
「全然いいッスよ。翠センセと栞里ちゃんが一緒なら超やるし」
「本当!? じゃあこれ、本のリストね! 詳しいことは栞里ちゃんに教えてもらって! 私は本の修復するから!」
翠先生はてきぱきと指示を飛ばし、自らもすぐに動き出す。
「栞里ちゃん教えてー」
私と同じ一覧表を持って隣に来た塚本くんに作業のやり方を説明する。塚本くんは呑み込みが早くて、一階の説明でだいたい理解してくれた。
「他に分からないことがあったら聞いて」
「了解!」
元気よく返事をして、塚本くんは隣の棚に移動して行った。
照れたように頭を掻くその姿はいつもと違って年相応の男の子に見える。
「それからなぁ~んか目で追いかけるようになっちゃってさぁ。いわゆるギャップ萌えってやつ? いやぁ、女の涙はマジで武器だね」
「……じゃあ、それからずっと神田さんの事?」
「そーそ。中学で麻衣子が彰サマに惚れちゃうずっと前からね。こう見えてもボクはとっても一途な純情ピュアボーイなのです」
塚本くんから軽口がぽんぽんと出てくる。どうやら普段の調子に戻ってしまったらしい。いつも今みたいにしていれば好感が持てるのに。わざとキャラを作ってるのかもしれないけど、損する人だ。
「はいはーい! 俺の話はこれでおしまーい!」
パンパンと手を二回叩いて強制的に話を終わらせると、塚本くんは私の顔を覗き込むように首を傾げた。
「栞里ちゃん。お返しと言っちゃアレだけど、俺からも一つ言っていい?」
「……なに?」
いつものように笑みを浮かべる塚本くんを、私も同じように首を傾げて見やる。
「平岡と栞里ちゃん、本当は付き合ってなんかないでしょ?」
先ほどまでの胡散臭い表情とは打って変わって、私を捉える鋭い視線はまさに百獣の王そのもの。自分で言うだけあって「レオ」の名前は伊達じゃないようだ。自然と眉間に力が入る。
「無言は肯定と捉えるよ?」
随分と自信があるようだった。私は深い溜め息をつきながらぽつりと言った。
「……お好きにどーぞ」
「あ、やっぱそうなんだ?」
疑問で返ってきたその言葉にはっとする。まさか……鎌掛けられた? 不満気な私の表情を読み取ったのか、塚本くんが慌てたように口を開いた。
「違う違う! 別に引っ掛けようと思ったわけじゃなくて! 態度とか雰囲気とか、前からちょっと違和感があったんだよね。確信が持てなかっただけでさ!」
確かに。私は今まで彰くんはおろか他人とあまり関わらないように心掛けてきた女だ。そんな私が突然人気者の彰くんの彼女になるなんて、疑問に思う人が出てくるのは頷ける。
塚本くんの「俺も話したんだからお前も早く話せ」とでも言いたげな視線がうざったくて、私は渋々口を開いた。
「彰くんとは付き合ってない。ただ付き合ってる振りをしてるだけ。理由は知らないけどあっちから言ってきたの。以上」
「短っ!! それいくらなんでも簡潔すぎじゃね!?」
そんな事言われたってこれ以上は説明の仕様がない。私が言ったことに間違いはないし。
「もっとこう……なんかないの?」
「ない」
「えええ……」
俺だけ超語っちゃったじゃん恥ずかしーとか、もうちょっと詳しく教えてくれてもいいじゃんか、なんてぶつぶつと文句を言っている塚本くんを尻目に、私は中断していた作業を再開させる。休憩時間はもう終わりだ。
「ああそうだ。栞里ちゃん、もう一つだけ言っても良い?」
「……今度は何?」
本棚と一覧表を交互に見ながら耳を傾ける。
「あのね、俺が栞里ちゃんの事好きだっていうのは嘘じゃないよ。恋愛感情云々は抜きにしてね」
「……へぇ。さっすが博愛主義者の塚本くん」
「うん。女の子限定だけどね」
私と塚本くんは顔を見合わせると、どちらからともなく噴き出した。
「栞里ちゃんお疲れさま! ごめんね、遅くなっちゃった」
笑いが落ち着いたちょうど良いタイミングで、小さな段ボール箱を抱えた翠先生が図書室に戻ってきた。
「本の補修グッズが中々見付からなくてさぁ。だいぶ手間取っちゃったわよ」
翠先生はカウンターに段ボール箱を置く。中に入っているのは本の補修に使う道具らしい。きっとテープや紐、接着剤などが入っているのだろう。
「やっほー翠ちゃん! お邪魔してまーっす」
「おーレオくん! いらっしゃーい」
まるで友達同士のように軽い挨拶を交わす。
「あ、そうだレオくんこのあと暇? もし暇だったら作業手伝ってくれない? 人手が足りなくて困ってるのよ」
「全然いいッスよ。翠センセと栞里ちゃんが一緒なら超やるし」
「本当!? じゃあこれ、本のリストね! 詳しいことは栞里ちゃんに教えてもらって! 私は本の修復するから!」
翠先生はてきぱきと指示を飛ばし、自らもすぐに動き出す。
「栞里ちゃん教えてー」
私と同じ一覧表を持って隣に来た塚本くんに作業のやり方を説明する。塚本くんは呑み込みが早くて、一階の説明でだいたい理解してくれた。
「他に分からないことがあったら聞いて」
「了解!」
元気よく返事をして、塚本くんは隣の棚に移動して行った。
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