その答えは恋文で

百川凛

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13通目:私と平岡くん

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「本当は、すぐにお守りと一緒に手紙を渡してずっと好きだったって告白しようと思ってたんだ。でも、成瀬さんと一緒にいられる毎日が楽しくて。フラれたらもうこんな風に話せなくなるのかと思ったらなかなか言い出せなくて……。情けなくてごめん。ストーカーみたいで気持ち悪いよな」

 平岡くんは眉尻を下げて力なく笑った。私は小さく首を横に振る。情けなくなんかない。気持ち悪くなんてない。

 彼はこうやって自分の気持ちを正直に話してくれたのだ。……私も、いい加減自分の気持ちに素直になろう。

「私は……平岡くんはまどか先輩のことが好きなんだと思ってた」
「えっ!?」
「彼女を追いかけるために推薦の話を断ってこの学校を選んだんだろうなって。私は本命を隠すためのただのカムフラージュなんだろうなって。前に二人でバス停にいる所を見たことあるんだけど、お似合いのカップルだなって、そう思ってたの」
「ちょ、ちょっと待って! まどかはただの、」
「……うん、従姉妹なんだってね。私もさっき知ってビックリした」

 焦ったように口を開いた平岡くんの言葉を遮って、私は続ける。

「でもね、私、まどか先輩と一緒にいる平岡くんを見るのが嫌だった。神田さんと二人で話をしてるのが嫌だった。平岡くんが、私以外の女の子と仲良くしてるのが嫌だった」

 私は鞄の中からルーズリーフを一枚取り出した。筆箱から適当にペンを引っ掴むと、 真っ白いその紙にカリカリと短いメッセージを綴っていく。

「な、成瀬さん?」

 平岡くんは私の行動に戸惑ったような声を出す。私は四つ折りに折った不格好なそれを手に持ち、深く息を吸った。

「〝平岡くん。これ落としたよ〟」
「え?」

 私は偽彼女のきっかけとなったその言葉《ワード》を口にした。あの日とは違い、便箋も封筒も宛名すらない、女の子らしさの欠片もないただのルーズリーフだけど。

「……欲しいのは好きな子からの手紙なんでしょ?」
「え?」
「だったら……私からのラブレターだったら平岡くんは受け取ってくれる?」

 そう言って私は平岡くんの前にルーズリーフを差し出した。恥ずかしさと緊張からか、心臓がドキドキとうるさい。

 どのくらい経ってからだろうか。平岡くんの震える指が、私の手からラブレターをゆっくりと引き抜いた。カサリと音を立てて四つ折りの紙を開いて、そして──。

「…………ヤバイ」

 平岡くんはそう言って、真っ赤な顔を隠すように口元を手で覆った。

「これホント?」
「うん」
「嘘じゃない?」
「うん」
「俺、成瀬さんのことまた栞里って名前で呼んでいいの?」
「うん」
「……ありがとう。すっげー嬉しい。俺、ラブレター貰ってこんなに嬉しかったの初めてだ」

 そう言って、赤い顔をした平岡くんが微笑んだ。優しく目尻を下げ、ふんわりと口元を緩ませて──次の瞬間視界は暗闇に包まれた。変わりに、平岡くんの体温を身体中に感じる。

「栞里、好きだよ」

 背中に回された腕にぎゅっと力が込められる。

「……私も好きです。彰くん」

 そう、小さな声で返すことが、今の私の精一杯だった。
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