彼と私のお友達計画

百川凛

文字の大きさ
17 / 29
STEP4:作ってみましょう

しおりを挟む


「はぁっ!? まだミサンガ渡してなかったの!? 大会明後日だよ!?」

 皐月ちゃんが驚くのも無理はない。私はあれからずっと鳴海くんにミサンガを渡す機会を伺ってたのだが、なかなかタイミングが合わなくて、結局渡せないままになっていたのだ。

「信じらんない! うちらが作ったやつは昨日ちゃんと渡したよ!?」

 確かに、皐月ちゃんたちマネージャーが心を込めて作った白・青・黄色の三色ミサンガはバスケ部員の手首にしっかりと巻かれていた。もちろん、鳴海くんの手首にも。

「だって……鳴海くん、休み時間も移動教室も男子の友達に囲まれてるんだもん。簡単には近付けないよ」

 私は言い訳を並べる。苦手克服の真っ最中とはいえ、鳴海くん以外の男子と話すのはまだ少し抵抗があるのだ。

「放課後はすぐ部活行っちゃうし水曜日も一緒に帰れなくなったし、タイミングがなくて……」
「呆れてものも言えないわ」
「うっ……返す言葉もございません」

 深いため息をついた皐月ちゃんは何を思ったのか突然立ち上がると、気合を入れるように「よし!」と声を出した。

「ったく。時間がないなら作ればいいのよ。昼休みの今なら自主練の真っ最中だから。ほら、行くよ!」
「え?」
「つべこべ言わずにさっさと着いてくる! ミサンガ持って! 急ぐよ!」

 私は鞄から袋に入ったミサンガを取り出すと、先を歩く彼女の後を慌てて追った。





「ナイッシュー!」

 体育館の一角。ゴール下でひたすらシュートを打っていた鳴海くんに向かって、皐月ちゃんは元気良く言った。

「何の用だよマネージャー」

 鳴海くんは手を止めシャツで汗を拭う。皐月ちゃんを見ると、舌打ちをして不機嫌そうな口調で言った。

「は? せっかくアンタにサプライズ用意してやったのにそんな態度でいいわけ?」
「あ? 何言ってんだよ」
「おーい! 入っていいよー!」

 皐月ちゃんは入口でこっそり中を覗く私に向かって叫んだ。入っていいよって言われても、鳴海くんの機嫌めっちゃ悪くない!? ほんとに入って大丈夫!? 不安を抱えながら、私はおずおずた体育館の中に入った。

「笹川さん……?」
「ひ、久しぶり」

 にへらと力ない笑顔を作ると、鳴海くんは驚いたように目を丸くする。なんだか久しぶりに会うような気がして、少し緊張しちゃう。

「一花がアンタに用事あるっていうから連れて来たの。ね、一花!」

 皐月ちゃんにポン、と背中を押される。

「あ……急にごめんね。実は渡したいものがあって」

 私は持ってきた小さなラッピング袋を取り出す。透明な袋からはキジトラカラーに配色されたミサンガが見えていた。

「あの、バスケ部のマネージャーが部員に作るっていうの聞いて、私も鳴海くんに作ってみたの。……良かったら、貰ってくだ、さい」

 最後の方はすっかり小さな声になってしまったけど、なんとか言えたことにほっとする。鳴海くんは2、3回瞬きを繰り返すと、遠慮がちに受け取ってくれた。

「これ、笹川さんが作ってくれたの?」
「う、うん」
「俺のために?」
「……うん」

 なんだか改めて言われるとすごく恥ずかしい。意味もなく逃げ出したい衝動に駆られていると、ミサンガを見つめたままの鳴海くんが右手で自分の口元を覆った。

「……やべぇ。めちゃくちゃ嬉しい」

 まさかの反応に私はハッと息を呑む。つりあがり気味の目元は柔らかくなり、その周辺と耳元を赤く染めた鳴海くんの姿はなんだか可愛くて胸がきゅっとなった。私の戸惑いに気付かない彼はあっという間に袋からミサンガを取り出し、手首につけてくれた。マネージャーさん達から貰ったミサンガとの重ね付けである。

「すっげ……めっちゃキレイに編んである」
「れ、練習したから」
「マジで!? うわ、マジでありがたい! どう? 似合ってる?」

 そう言って、鳴海くんは嬉しそうに左腕を見せてきた。

「う、うん。似合ってるよ」
「良かった。ていうかこの配色ってもしかしてキジトラ猫?」
「っ!! わかってくれた!?」
「うん。なんとなくしま模様の配色かなって」
「そ、そうなの! 鳴海くんの飼ってる虎徹くんをイメージして作ったんだ」
「おお! 確かに虎徹と一緒だ」

 わぁ。正直、本当にわかってもらえるとは思っていなかったのですごく嬉しい。

「ミサンガにするにはちょっと地味かなと思ったんだけど、猫が好きなら気に入ってもらえるかなと思って……」
「めちゃくちゃ気に入ってる。ありがとな」
「えっと、明後日応援に行くから。頑張ってね鳴海くん」
「おう!」

 私が笑顔で言うと、鳴海くんも笑顔で応えてくれた。

 皐月ちゃんがニヤニヤしながら私たちを見つめていたことに気付いたのは、それからしばらくしてからだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~

☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた! 麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった! 「…面白い。明日もこれを作れ」 それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

処理中です...