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STEP5:応援に行きましょう
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一回戦の試合は、82対30でうちの圧勝だった。
今までバスケの試合は見たことがなかったから事前に少し調べてみたけど、人数は5人制で、交代は自由。合計40分の試合時間を10分ずつ区切り、休憩を入れながら4回行う。ちなみに、10分の区切られたゲームを〝Q〟と呼び、第1Qから第4Qまでに取った得点の多い方が勝利となる。しかし、中学では1Q8分、計32分間で行われるそうだ。
聞いただけで体力が削られるような気分なのに、実際に見たら削られるどころの話じゃなかった。コートの端から端まで走りっぱなしだし、パス回しは早いし、攻守交代が激しいし。とにかくみんな止まらずに動いている。体育でやるバスケとは全然レベルが違くて、圧倒されてしまった。しかも一日に二試合以上を戦い、勝ち残った上位四チームが翌日の決勝リーグに進むという過酷なスケジュールだ。これを難なくやってみせるんだから、全国のバスケ部すごい! としか言いようがない。
ちなみに、試合中の鳴海くんはとてもカッコ良かった。特にシュートのフォームがすごく綺麗で、打つたび目を奪われた。周りの女の子もキャーキャー騒いでいた。うん、あれじゃあ騒がれても仕方ない。うーん……そんなすごい人と私が〝友達〟やってるなんて、なんだか信じられないや。
「一花!」
ポニーテールを揺らした皐月ちゃんがこっちこっちと手招きする。二回戦まではまだ時間があるらしく、部員のみんなは各自休憩しているようだ。皐月ちゃんの隣には首にタオルを掛けた鳴海くんの姿も見える。
「皐月ちゃんも鳴海くんもお疲れ。一回戦勝ったね! おめでとう!」
「ありがとう! ていうか一花無事に会場着いたんだね! 迷子にならなくて良かった!」
失礼な。最寄駅から徒歩三分の距離だもの。多少の方向音痴でもたどり着ける。……最初は反対に進んじゃったけど。
「ちゃんと来てくれたんだな。入口側の一番後ろで観てただろ?」
さっきまであんなに走り回っていたとは思えないほど涼しい顔をした鳴海くんが言った。
「うん」
「せっかくだからもっと前で観ればいいのに」
「ううん、前はメガホン持った部員とか保護者さんがいるから遠慮しとく」
だって、私が入ったらあの熱のこもった応援を邪魔しちゃうかもしれないし。そう思って、目立たないところからこっそり応援してたんだけど、鳴海くん気付いてくれたのか。すごいなぁと感心してしまう。
「ていうか鳴海くん、あんなに遠いのによく私のこと見つけられたねぇ」
「まぁ……シュートの時たまたま見えたから」
「へぇ~? たまたまねぇ~?」
皐月ちゃんが茶々を入れると、鳴海くんは目付きを鋭くして睨む。私が睨まれてるわけじゃないのに少しビビってしまった。
「あ、そういえば鳴海くんのシュートすごかったね! 一人で30点は入れたんじゃない?」
「あー……数えてないけどそうかも」
そう。さっきの試合で鳴海くんは次々にシュートを決めていった。ぶれることのない綺麗なフォームから放たれたボールは、どんなに遠い所から打っても吸い込まれるようにゴールに入った。その神業に、思わず見惚れてしまったほどだ。
「そりゃ、今日の鳴海はいつも以上に張り切ってるもんね~?」
ニヤニヤした皐月ちゃんが今度は揶揄うように言った。途端、鳴海くんは顔をしかめる。
「せっかく観に来てくれたんだもん。カッコ悪いとこ見せたくないよね~?」
「……お前はちょっと黙ってろ」
「おやおや? そんな口の聞き方でいいのかな? ただでさえ男子がいっぱいで緊張してる一花が怖がるよ~?」
ハッとした鳴海くんはしかめっ面のまま私の前に立つと、心配そうな声色で言った。
「そういえば会場に一人で大丈夫か? 変な奴に声かけられたりしてないか?」
「だ、大丈夫だよ。観てるの楽しいし、誰からも声かけられたりしてないから」
「そっか。なら良かった。でも気を付けてな? 女子の一人歩きは危ないから」
皐月ちゃんは後ろの方で「過保護か!」と叫んでいる。
「あ、やば。そろそろミーティングじゃん。あたし先に行くね! 鳴海もすぐ来なよ!」
次の試合の準備が始まるのか、皐月ちゃんは慌ただしく去って行った。きっとすぐに鳴海くんも向かうのだろう。
「笹川さん」
「ん?」
顔を上げると、真剣な顔をした鳴海くんと目が合った。
「今日来てくれてありがとう。俺、頑張るから」
「うん、頑張って!」
「次も絶対勝つから。ちゃんと見てて」
「もちろん! しっかり応援するね!」
私の答えに満足したのか、嬉しそうに頷く。
「じゃ、よろしく」
手を上げた鳴海くんの手首に結ばれた二本のミサンガが揺れた。
*
*
*
宣言通り二回戦も勝利し、順調に勝ち進んでいった鳴海くんたちだったけど、二日目の決勝リーグは苦戦を強いられた。
決勝まで残ったものの、私たちの学校は惜しくも準優勝。延長戦の末の決着だった。会場は両校を讃えて割れんばかりの拍手に包まれ、異様な盛り上がりで幕を閉じた。
県大会へ行くことは叶わず、三年生は残念ながら今回で引退となってしまった。もちろん悔しさはあるだろうけど、みんなやりきった顔をしていたのが印象的だった。
ちなみに数日後、鳴海くんから『応援ありがとう。勝てなくてごめんな』という連絡が入っていてちょっぴり泣いたことは私だけの秘密だ。
一回戦の試合は、82対30でうちの圧勝だった。
今までバスケの試合は見たことがなかったから事前に少し調べてみたけど、人数は5人制で、交代は自由。合計40分の試合時間を10分ずつ区切り、休憩を入れながら4回行う。ちなみに、10分の区切られたゲームを〝Q〟と呼び、第1Qから第4Qまでに取った得点の多い方が勝利となる。しかし、中学では1Q8分、計32分間で行われるそうだ。
聞いただけで体力が削られるような気分なのに、実際に見たら削られるどころの話じゃなかった。コートの端から端まで走りっぱなしだし、パス回しは早いし、攻守交代が激しいし。とにかくみんな止まらずに動いている。体育でやるバスケとは全然レベルが違くて、圧倒されてしまった。しかも一日に二試合以上を戦い、勝ち残った上位四チームが翌日の決勝リーグに進むという過酷なスケジュールだ。これを難なくやってみせるんだから、全国のバスケ部すごい! としか言いようがない。
ちなみに、試合中の鳴海くんはとてもカッコ良かった。特にシュートのフォームがすごく綺麗で、打つたび目を奪われた。周りの女の子もキャーキャー騒いでいた。うん、あれじゃあ騒がれても仕方ない。うーん……そんなすごい人と私が〝友達〟やってるなんて、なんだか信じられないや。
「一花!」
ポニーテールを揺らした皐月ちゃんがこっちこっちと手招きする。二回戦まではまだ時間があるらしく、部員のみんなは各自休憩しているようだ。皐月ちゃんの隣には首にタオルを掛けた鳴海くんの姿も見える。
「皐月ちゃんも鳴海くんもお疲れ。一回戦勝ったね! おめでとう!」
「ありがとう! ていうか一花無事に会場着いたんだね! 迷子にならなくて良かった!」
失礼な。最寄駅から徒歩三分の距離だもの。多少の方向音痴でもたどり着ける。……最初は反対に進んじゃったけど。
「ちゃんと来てくれたんだな。入口側の一番後ろで観てただろ?」
さっきまであんなに走り回っていたとは思えないほど涼しい顔をした鳴海くんが言った。
「うん」
「せっかくだからもっと前で観ればいいのに」
「ううん、前はメガホン持った部員とか保護者さんがいるから遠慮しとく」
だって、私が入ったらあの熱のこもった応援を邪魔しちゃうかもしれないし。そう思って、目立たないところからこっそり応援してたんだけど、鳴海くん気付いてくれたのか。すごいなぁと感心してしまう。
「ていうか鳴海くん、あんなに遠いのによく私のこと見つけられたねぇ」
「まぁ……シュートの時たまたま見えたから」
「へぇ~? たまたまねぇ~?」
皐月ちゃんが茶々を入れると、鳴海くんは目付きを鋭くして睨む。私が睨まれてるわけじゃないのに少しビビってしまった。
「あ、そういえば鳴海くんのシュートすごかったね! 一人で30点は入れたんじゃない?」
「あー……数えてないけどそうかも」
そう。さっきの試合で鳴海くんは次々にシュートを決めていった。ぶれることのない綺麗なフォームから放たれたボールは、どんなに遠い所から打っても吸い込まれるようにゴールに入った。その神業に、思わず見惚れてしまったほどだ。
「そりゃ、今日の鳴海はいつも以上に張り切ってるもんね~?」
ニヤニヤした皐月ちゃんが今度は揶揄うように言った。途端、鳴海くんは顔をしかめる。
「せっかく観に来てくれたんだもん。カッコ悪いとこ見せたくないよね~?」
「……お前はちょっと黙ってろ」
「おやおや? そんな口の聞き方でいいのかな? ただでさえ男子がいっぱいで緊張してる一花が怖がるよ~?」
ハッとした鳴海くんはしかめっ面のまま私の前に立つと、心配そうな声色で言った。
「そういえば会場に一人で大丈夫か? 変な奴に声かけられたりしてないか?」
「だ、大丈夫だよ。観てるの楽しいし、誰からも声かけられたりしてないから」
「そっか。なら良かった。でも気を付けてな? 女子の一人歩きは危ないから」
皐月ちゃんは後ろの方で「過保護か!」と叫んでいる。
「あ、やば。そろそろミーティングじゃん。あたし先に行くね! 鳴海もすぐ来なよ!」
次の試合の準備が始まるのか、皐月ちゃんは慌ただしく去って行った。きっとすぐに鳴海くんも向かうのだろう。
「笹川さん」
「ん?」
顔を上げると、真剣な顔をした鳴海くんと目が合った。
「今日来てくれてありがとう。俺、頑張るから」
「うん、頑張って!」
「次も絶対勝つから。ちゃんと見てて」
「もちろん! しっかり応援するね!」
私の答えに満足したのか、嬉しそうに頷く。
「じゃ、よろしく」
手を上げた鳴海くんの手首に結ばれた二本のミサンガが揺れた。
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宣言通り二回戦も勝利し、順調に勝ち進んでいった鳴海くんたちだったけど、二日目の決勝リーグは苦戦を強いられた。
決勝まで残ったものの、私たちの学校は惜しくも準優勝。延長戦の末の決着だった。会場は両校を讃えて割れんばかりの拍手に包まれ、異様な盛り上がりで幕を閉じた。
県大会へ行くことは叶わず、三年生は残念ながら今回で引退となってしまった。もちろん悔しさはあるだろうけど、みんなやりきった顔をしていたのが印象的だった。
ちなみに数日後、鳴海くんから『応援ありがとう。勝てなくてごめんな』という連絡が入っていてちょっぴり泣いたことは私だけの秘密だ。
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