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シーズン1 【MD試験編】
魔法の廃れた世界へようこそ!
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リバースサーフェス
~この魔法の廃れた世界で
転生薬剤師さんが
魔導王を目指します!~
魔法、それは、大きく炎、水、風、土、光、闇に分類される。
この世界では、魔素と魔力によって魔法が発動されると信じられていた。
だが、この魔法の廃れた世界では、魔力を感じることさえ難しくなってしまった。
「ああ…もお…こんな時間か…。」
僕は、大きな病院の前にある薬局で働くしがない薬剤師で今年で15年のベテランだ。
「処方箋が多すぎるよ!」
薬剤師と言えば、高給取りの印象を持っている人もいるようだが、その辺のサラリーマンとたいして変わりない、いやかえって少ないくらいだ。
「今日は、12時までに帰えれるかな?」
今日投薬した患者様の薬歴を入力しながらそんな独り言を呟いた。
とにかく仕事量が多すぎる。
何から何まで自分でやらないといけないから、時間がいくらあっても足りない。
「家に帰れるのは11時くらいか…。」
やっと仕事を終えて薬局を閉めた。
ここから小一時間かけて自転車での家路に就く。
「はあ…今からご飯だよ…。」
コンビニで買った食事をしながら少しテレビを見て、風呂に入った後疲れた身体をパソコンの前の椅子に投げだした。
「少し休むか…。」
そう言って眠り込んでしまった。
そして•••そのまま息を引き取ってしまった。
うう••••••••••
「ああ!」
ビックリして飛び起きた。
「あれ、ここどこだよ?」
僕は心臓がバクバクしているのを感じながら見知らぬ部屋で辺りを見回した。
ふと姿見に目をやると、
「ええ、誰だよ!」
そこには、高校生くらいの男がいた。
髪や顔を触りながら呆然としていた。
やっと分かった•••
僕は死んだんだ。
いわゆる過労死ってやつだ。
「おお、何で顔なんか触ってるんだ?」
小首をかしげてトイレで用を済ませた。
この子の記憶もあるようだ。
名前はハーベルといって、ここは施設のようだ。
どうも両親が蒸発してしまったようで、小さい頃からこの施設で育ったらしい。
「いわゆる転生ってやつか…。」
ただ、ハーベル君の身体に完全に馴染んでいる感じではない。
ハーベル君を俯瞰で見ている感じだが、行動を制御できないわけでもない。
ハーベル君は、高等学院の2年生で勉強は嫌いな方でどちらかというとヤンチャなタイプのようだ。
ハーベル君の記憶によると、この世界でも昔は魔法が使えたらしい。
今は科学が発達したせいで魔法を使える者もいないし、魔法を使うこと自体がタブーとなっている。
「くそ、昔は魔法が使えたのか…、
僕も魔法を使ってみたかったな…。」
ハーベル君は、学院へ向かう途中二人の友達が合流してきた。
ひとりはトッチで昔からの友人だ。
メガネでヒョロガリのがり勉君のようだが、成績はイマイチのようだ。
マユが、ハーベル君の肩に手を回してきた。
「ハーベル、明日のテストどうだ?」
「ああ、興味ない!」
「やっぱりな!まあ、俺もデートに忙しいから興味ないけど•••」
マユは金髪ツンツン頭で、女子にしか興味がないそうだ••
ハーベル君、付き合う友達を考え直した方が良くないか••
「って、明日テストだっけ?」
トッチが、焦った感じで大声で叫んだ。
「うん、そうだよ」
「ああ…、忘れてた…。」
「いや、いつものことだろ!」
「まあ、そう言うこと…。」
「いや、テストだよ!」
トッチは、一人で焦ってドギマギしている様子だった。
「あ、俺今から用事あるから…。」
「はあ?」
「ハーベル君、学院は?」
「今日はいいや!」
「ウィす。」
いつものことのようだ•••
ハーベルは、町の外れにある廃工場のような場所へとやって来た。
こんなところで何するんだ?
「よお、ハーベル!よく逃げずに来たな」
いかにも柄の悪そうな高校生が声をかけてきた。
ハーベル君!用事ってケンカ?
明日テストなのに何してるのーーー!
「お前こそよく一人で来れたな!」
「はあ?ウナわけねえだろ!」
周りから5人ほどの仲間が顔を出した。
「まあ、そんなことだろうと思ったよ!」
ハーベルがいきなり相手を殴り付けた!
周りの奴らが一斉にハーベルに襲いかかった。
蹴りを交わすと、パンチをスレスレで後ろによける。
「こんなにいるのに一発も当たらねえな!」
「くそ、やっちまえ!」
6人で周りを取り囲んだ。
「さあ、どっからでもかかってきな!」
4人が一斉に蹴りを入れると、ハーベルは、飛び上がってよけた。
そこへ後の2人がジャンプをしてドロップキックを左右から仕掛けてきた。
ハーベルは、クルっと後方に回転するっとその2人の足を踏み台にしてさらに高く飛び上がった。
6人が将棋倒しになって倒れ込んだところに、ハーベルが上から飛び降りて踏みつけた。
「ウワーーー!」
6人のうめき声と叫び声が響き渡った。
「また出直してきな!」
ハーベルは、グチャグチャに倒れ込んだ6人を尻目に捨てゼリフを吐いてその場を立ち去った。
「あーーあ、つまんねえな•••何か面白いことねえかな?」
そんなことをいいながら町をぶらついていた。
ハーベル君!学校いけよ!
ああ、僕が動かせばいいのか?
ハーベルは、何の気なしに歩いていたつもりだったが学院へやって来てしまった。
「おお、ハーベル間に合ったね!」
「う、うん…。」
「うん?」
「まあいいや、ほら数学だぞ!」
「おお…。」
数学のテストを覗いてみると、以外に解けそうだな。
ハーベルの身体を借りてテストをスラスラ解いていった。
次は理科か。
理科は、化学は前の世界と同じだが生物は少し違っているようだった。
「ハーベル!テストどうだった?ってできてるわけねえか!俺もだけど!」
マユがおどけた様子でからかってきた。
「ああ、なんか簡単だった。」
「またまた…。」
トッチが肘でツンツンしてくる。
「たぶんできてると思うよ。」
2人が不思議そうに見ている。
「ハーベル、ケンカで頭でも打ったのかな?」
「たぶんそれだわ!」
明くる日の朝事件が起こった。
「ハーベル!職員室まで来い!」
先生が大声で呼び出した。
「おい、何かやらかしたのか?」
ハーベルが、職員室へ行くと先生が何やらお冠のようだ。
「これを見ろ!」
昨日のテストの答案用紙だった。
「はい?」
「はいじゃない!数学が満点だぞ!」
「なんか昨日は冴えてて…。」
「そんなわけないだろ!お前カンニングしただろ!」
「いいえ…。」
「いや、お前ならやりかねん、こんなバレバレのことするなんてバカにしてるのか?」
「先生!それは言いすぎですよ!」
隣で聞いていた女の先生が口を挟んできた。
「そうですよ、言いすぎですよ…。」
「バカヤロー!」
「まあまあ、そんなに疑うならこの場で問題を解いてみてもらったらどうですか?」
女の先生が提案してきた。
「よし!じゃあこれ解いてみろ!」
ハーベルは、スラスラと解き始めた。
「嘘だ!お前に解けるはずがない!」
「いや先生、全部正解ですよ?」
「もういいですか?」
ハーベルは、そのまま教室へ戻ってしまった。
「嘘だ!そんな…。」
ハーベル君、どんだけ信用ないんだよ。かわいそうになってきた•••
教室へ戻ると、トッチが話しかけてきた。
「ハーベル、これ見てよ。」
「うん?」
「イベントだよ!」
それは、どっかの探偵会社が主催のイベントだった。
内容は、自分は魔法も使える探偵で、自分の彼女が拐われてしまった。彼女は迷路に閉じ込められてしまい、それを救いだすというストーリーのようだ。
「え、魔法?」
「そうだね、もちろんバーチャルだと思うけどね!」
「だよね!ゲームだよな…でも…面白そうだな…。」
「ハーベル、あんまり興味ないかと思ったけど、意外と興味ありそうだね!」
「うじゃさ、3人で行ってみようぜ!」
マユが話に乗ってきた。
ハーベルたちは次の日曜日そのイベント会場となる、
【PSW Detective Agency】
の前へやって来た。
「デカイ探偵事務所だな…。」
3人は高いビルを眺めながら突っ立っていた。
「参加者の方はこちらへどうぞ!」
案内のお姉さんが、ビルへと招き入れてくれた。
イベント会場の入り口では、何やら機械のような物が置いてあった。
「何々、あなたの魔力量と属性を調べます?」
「なんかうさんくさいな…。」
「ゲームだろ?」
そう言って俺は機械に手をかざした。
【魔力:52,000 属性:無属性】
「ハーベル、無属性だってよ!」
「無属性って、魔法使えねえだろ…。」
「ハハハ、次俺ね!」
マユが手をかざすと、
【魔力:2,500 属性:炎属性】
「魔力少な!」
そう言ってトッチも手をかざした。
【魔力:2,000 属性:風属性】
「お前も少な!ハハハ!」
「うるさいな…。」
「でも、ハーベル52,000って多すぎじゃね?無属性だけど•••ハハハ!」
「うるせえ!」
ハーベルがマユをどついた。
「準備のできた方から、こちらの扉を開けてお入りください。」
お姉さんが扉を指差した。
「じゃあ、行くぜ!」
扉を開けると、迷路があり何やらネズミのようなものがウロチョロしている。
「ネズミを倒しながら迷路を攻略しろってことだな!」
「たぶん…。」
「魔法ってどうやって使うんだよ!」
「あそこにプレイ方法って書いてあるよ!」
「ええと、魔法はイメージです?イメージしながら呪文を唱えろだってさ!」
「うんじゃ、ファイア!」
マユが呪文を唱えると、弱々しい炎の玉が飛んで消えた。
「なんだそれ弱!」
「今度は僕が!ウィンド!」
トッチが叫ぶと、やっぱり弱々しい小さな風の渦が飛んで消えた。
「お前も弱!」
面白そうだな•••無属性だと何も使えないのかな?
「俺もやってみる!」
「ハーベル、無属性だから無理じゃないのか?」
「ファイア!」
ハーベルが、恐る恐る唱えてみると、
大きな火球がネズミめがけてすごい勢いで飛んでいき丸焦げにしてしまった。
「ウソ!」
「なんだ今の!ハーベル、無属性じゃねえの?」
「じゃあさ、ウィンドも使ってみてよ!」
「よし、ウィンド!」
すると、大きな竜巻がネズミをズタズタに切り裂いた。
「うえ、グロいな…。」
「でも、ハーベル何で使えるの?」
「さあな…。」
魔法すごい!面白すぎる!これがバーチャルゲームか•••妙にリアルだけど•••
ハーベル中心に、ネズミを退治しながらトッチの誘導で迷路を進んでいった。
「ここが最後の分かれ道みたいだね。」
「そうみたいだな…。」
「何々、さあ、最後の決断です?
右に行けば100万ギンゲットで、左に行けば彼女を救いだすことができます…だと!?」
こんなの左に決まってるだろ?
「100万ギンって遊んで暮らせるぜ!」
「いや、遊んでは暮らせないでしょ•••でも本当ならすごいよね!」
「俺は、左に行くよ!」
ハーベルがそう言って左へ行こうとすると、
「おい、100万だぞ!」
「そうだよ!」
「いや、彼女の方が大事だろ!」
2人は顔を見合わせて首を横に降った。
「いや、絶対右に行く!」
「僕も!」
トッチとマユは、どんどん右へ進んでいった。
すると受付台があり、
「お疲れ様でした、こちらが賞金となります。宜しければこの誓約書にサインをお願いします。」
受付のお姉さんが誓約書の用紙を差し出してきた。
「もちろんだぜ!」
2人は喜び勇んでサインをすると、
「あれ、あれ…。」
急にフラフラとした足取りで賞金も持たずに出口の方へ歩き始めた。
「あれ、俺たち何しに来たんだっけ?」
「さあ?帰ろっか?」
「そうだな…。」
2人は、訳の分からない様子で家路に就いた。
その頃、左の道を行ったハーベルはというと、
「ハーベルさん、おめでとうございます。」
「おめでとう?」
「はい、無事MD試験を受ける権利を得ました。」
「はあ?試験?」
「いきなりでごめんなさい…。」
そう言って横の扉から、紫色の長い髪の綺麗な女性が現れた。
「私は、セノン、このPSWの取締役のひとりよ、こちらはルミオ…。」
「よろしく、僕も同じく取締役さ。」
すごいイケメンぶりだ•••
「は、はあ…。」
「実はこのイベントは、魔法を使うことのできる人材を発掘するのが目的なのよ。」
「ハーベルさんは、その適正がありしかもお金ではなく人命を優先できる正義感もあります。」
「うーん?」
「まだピンと来てないようですね。」
「では、こちらへどうぞ…。」
「ハーベルさんは、魔法に興味はありますか?」
「いや、あん…。」
おい!
「いや、あります!」
「うん?そ、それは良かった…。」
危ない!僕は、魔法を使えるようになりたい。ハーベル君は、イマイチ乗り気じゃないみたいだけど、ここは譲れない!
「どうかしたかい?」
「あ、いや続けてください…。」
「ここは、魔法開発局という施設です、そしてMD(MagicDeveloper)を育成する機関でもあります」
「MD?」
「魔法を使えるように訓練を受ける者たちをそう呼んでいるのです。」
「なるほど…。」
「ただし、以前はここでMDとなりすぐにでも魔法の訓練に入っていたのですが、色々と厄介事を起こす者が増えてきまして…。」
「なるほど、MDになる以前にその資格があるかを試すってことですね?」
「その通り、話が早くて助かります。」
セノンがスマホを操作すると、
「ハーベルさんのアドレスに案内メールを送りました、これをヒントに頑張って受験会場へ期限までにお越しください。」
「期待しています」
そう言って帰りの出口へと案内された。
ちなみにトッチとマユの誓約書には、セノンの魔法がかけてあって、サインをするとそこまでの記憶を全て忘れてしまうのだった。
次回
魔法の世界へようこそ!
~この魔法の廃れた世界で
転生薬剤師さんが
魔導王を目指します!~
魔法、それは、大きく炎、水、風、土、光、闇に分類される。
この世界では、魔素と魔力によって魔法が発動されると信じられていた。
だが、この魔法の廃れた世界では、魔力を感じることさえ難しくなってしまった。
「ああ…もお…こんな時間か…。」
僕は、大きな病院の前にある薬局で働くしがない薬剤師で今年で15年のベテランだ。
「処方箋が多すぎるよ!」
薬剤師と言えば、高給取りの印象を持っている人もいるようだが、その辺のサラリーマンとたいして変わりない、いやかえって少ないくらいだ。
「今日は、12時までに帰えれるかな?」
今日投薬した患者様の薬歴を入力しながらそんな独り言を呟いた。
とにかく仕事量が多すぎる。
何から何まで自分でやらないといけないから、時間がいくらあっても足りない。
「家に帰れるのは11時くらいか…。」
やっと仕事を終えて薬局を閉めた。
ここから小一時間かけて自転車での家路に就く。
「はあ…今からご飯だよ…。」
コンビニで買った食事をしながら少しテレビを見て、風呂に入った後疲れた身体をパソコンの前の椅子に投げだした。
「少し休むか…。」
そう言って眠り込んでしまった。
そして•••そのまま息を引き取ってしまった。
うう••••••••••
「ああ!」
ビックリして飛び起きた。
「あれ、ここどこだよ?」
僕は心臓がバクバクしているのを感じながら見知らぬ部屋で辺りを見回した。
ふと姿見に目をやると、
「ええ、誰だよ!」
そこには、高校生くらいの男がいた。
髪や顔を触りながら呆然としていた。
やっと分かった•••
僕は死んだんだ。
いわゆる過労死ってやつだ。
「おお、何で顔なんか触ってるんだ?」
小首をかしげてトイレで用を済ませた。
この子の記憶もあるようだ。
名前はハーベルといって、ここは施設のようだ。
どうも両親が蒸発してしまったようで、小さい頃からこの施設で育ったらしい。
「いわゆる転生ってやつか…。」
ただ、ハーベル君の身体に完全に馴染んでいる感じではない。
ハーベル君を俯瞰で見ている感じだが、行動を制御できないわけでもない。
ハーベル君は、高等学院の2年生で勉強は嫌いな方でどちらかというとヤンチャなタイプのようだ。
ハーベル君の記憶によると、この世界でも昔は魔法が使えたらしい。
今は科学が発達したせいで魔法を使える者もいないし、魔法を使うこと自体がタブーとなっている。
「くそ、昔は魔法が使えたのか…、
僕も魔法を使ってみたかったな…。」
ハーベル君は、学院へ向かう途中二人の友達が合流してきた。
ひとりはトッチで昔からの友人だ。
メガネでヒョロガリのがり勉君のようだが、成績はイマイチのようだ。
マユが、ハーベル君の肩に手を回してきた。
「ハーベル、明日のテストどうだ?」
「ああ、興味ない!」
「やっぱりな!まあ、俺もデートに忙しいから興味ないけど•••」
マユは金髪ツンツン頭で、女子にしか興味がないそうだ••
ハーベル君、付き合う友達を考え直した方が良くないか••
「って、明日テストだっけ?」
トッチが、焦った感じで大声で叫んだ。
「うん、そうだよ」
「ああ…、忘れてた…。」
「いや、いつものことだろ!」
「まあ、そう言うこと…。」
「いや、テストだよ!」
トッチは、一人で焦ってドギマギしている様子だった。
「あ、俺今から用事あるから…。」
「はあ?」
「ハーベル君、学院は?」
「今日はいいや!」
「ウィす。」
いつものことのようだ•••
ハーベルは、町の外れにある廃工場のような場所へとやって来た。
こんなところで何するんだ?
「よお、ハーベル!よく逃げずに来たな」
いかにも柄の悪そうな高校生が声をかけてきた。
ハーベル君!用事ってケンカ?
明日テストなのに何してるのーーー!
「お前こそよく一人で来れたな!」
「はあ?ウナわけねえだろ!」
周りから5人ほどの仲間が顔を出した。
「まあ、そんなことだろうと思ったよ!」
ハーベルがいきなり相手を殴り付けた!
周りの奴らが一斉にハーベルに襲いかかった。
蹴りを交わすと、パンチをスレスレで後ろによける。
「こんなにいるのに一発も当たらねえな!」
「くそ、やっちまえ!」
6人で周りを取り囲んだ。
「さあ、どっからでもかかってきな!」
4人が一斉に蹴りを入れると、ハーベルは、飛び上がってよけた。
そこへ後の2人がジャンプをしてドロップキックを左右から仕掛けてきた。
ハーベルは、クルっと後方に回転するっとその2人の足を踏み台にしてさらに高く飛び上がった。
6人が将棋倒しになって倒れ込んだところに、ハーベルが上から飛び降りて踏みつけた。
「ウワーーー!」
6人のうめき声と叫び声が響き渡った。
「また出直してきな!」
ハーベルは、グチャグチャに倒れ込んだ6人を尻目に捨てゼリフを吐いてその場を立ち去った。
「あーーあ、つまんねえな•••何か面白いことねえかな?」
そんなことをいいながら町をぶらついていた。
ハーベル君!学校いけよ!
ああ、僕が動かせばいいのか?
ハーベルは、何の気なしに歩いていたつもりだったが学院へやって来てしまった。
「おお、ハーベル間に合ったね!」
「う、うん…。」
「うん?」
「まあいいや、ほら数学だぞ!」
「おお…。」
数学のテストを覗いてみると、以外に解けそうだな。
ハーベルの身体を借りてテストをスラスラ解いていった。
次は理科か。
理科は、化学は前の世界と同じだが生物は少し違っているようだった。
「ハーベル!テストどうだった?ってできてるわけねえか!俺もだけど!」
マユがおどけた様子でからかってきた。
「ああ、なんか簡単だった。」
「またまた…。」
トッチが肘でツンツンしてくる。
「たぶんできてると思うよ。」
2人が不思議そうに見ている。
「ハーベル、ケンカで頭でも打ったのかな?」
「たぶんそれだわ!」
明くる日の朝事件が起こった。
「ハーベル!職員室まで来い!」
先生が大声で呼び出した。
「おい、何かやらかしたのか?」
ハーベルが、職員室へ行くと先生が何やらお冠のようだ。
「これを見ろ!」
昨日のテストの答案用紙だった。
「はい?」
「はいじゃない!数学が満点だぞ!」
「なんか昨日は冴えてて…。」
「そんなわけないだろ!お前カンニングしただろ!」
「いいえ…。」
「いや、お前ならやりかねん、こんなバレバレのことするなんてバカにしてるのか?」
「先生!それは言いすぎですよ!」
隣で聞いていた女の先生が口を挟んできた。
「そうですよ、言いすぎですよ…。」
「バカヤロー!」
「まあまあ、そんなに疑うならこの場で問題を解いてみてもらったらどうですか?」
女の先生が提案してきた。
「よし!じゃあこれ解いてみろ!」
ハーベルは、スラスラと解き始めた。
「嘘だ!お前に解けるはずがない!」
「いや先生、全部正解ですよ?」
「もういいですか?」
ハーベルは、そのまま教室へ戻ってしまった。
「嘘だ!そんな…。」
ハーベル君、どんだけ信用ないんだよ。かわいそうになってきた•••
教室へ戻ると、トッチが話しかけてきた。
「ハーベル、これ見てよ。」
「うん?」
「イベントだよ!」
それは、どっかの探偵会社が主催のイベントだった。
内容は、自分は魔法も使える探偵で、自分の彼女が拐われてしまった。彼女は迷路に閉じ込められてしまい、それを救いだすというストーリーのようだ。
「え、魔法?」
「そうだね、もちろんバーチャルだと思うけどね!」
「だよね!ゲームだよな…でも…面白そうだな…。」
「ハーベル、あんまり興味ないかと思ったけど、意外と興味ありそうだね!」
「うじゃさ、3人で行ってみようぜ!」
マユが話に乗ってきた。
ハーベルたちは次の日曜日そのイベント会場となる、
【PSW Detective Agency】
の前へやって来た。
「デカイ探偵事務所だな…。」
3人は高いビルを眺めながら突っ立っていた。
「参加者の方はこちらへどうぞ!」
案内のお姉さんが、ビルへと招き入れてくれた。
イベント会場の入り口では、何やら機械のような物が置いてあった。
「何々、あなたの魔力量と属性を調べます?」
「なんかうさんくさいな…。」
「ゲームだろ?」
そう言って俺は機械に手をかざした。
【魔力:52,000 属性:無属性】
「ハーベル、無属性だってよ!」
「無属性って、魔法使えねえだろ…。」
「ハハハ、次俺ね!」
マユが手をかざすと、
【魔力:2,500 属性:炎属性】
「魔力少な!」
そう言ってトッチも手をかざした。
【魔力:2,000 属性:風属性】
「お前も少な!ハハハ!」
「うるさいな…。」
「でも、ハーベル52,000って多すぎじゃね?無属性だけど•••ハハハ!」
「うるせえ!」
ハーベルがマユをどついた。
「準備のできた方から、こちらの扉を開けてお入りください。」
お姉さんが扉を指差した。
「じゃあ、行くぜ!」
扉を開けると、迷路があり何やらネズミのようなものがウロチョロしている。
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「たぶん…。」
「魔法ってどうやって使うんだよ!」
「あそこにプレイ方法って書いてあるよ!」
「ええと、魔法はイメージです?イメージしながら呪文を唱えろだってさ!」
「うんじゃ、ファイア!」
マユが呪文を唱えると、弱々しい炎の玉が飛んで消えた。
「なんだそれ弱!」
「今度は僕が!ウィンド!」
トッチが叫ぶと、やっぱり弱々しい小さな風の渦が飛んで消えた。
「お前も弱!」
面白そうだな•••無属性だと何も使えないのかな?
「俺もやってみる!」
「ハーベル、無属性だから無理じゃないのか?」
「ファイア!」
ハーベルが、恐る恐る唱えてみると、
大きな火球がネズミめがけてすごい勢いで飛んでいき丸焦げにしてしまった。
「ウソ!」
「なんだ今の!ハーベル、無属性じゃねえの?」
「じゃあさ、ウィンドも使ってみてよ!」
「よし、ウィンド!」
すると、大きな竜巻がネズミをズタズタに切り裂いた。
「うえ、グロいな…。」
「でも、ハーベル何で使えるの?」
「さあな…。」
魔法すごい!面白すぎる!これがバーチャルゲームか•••妙にリアルだけど•••
ハーベル中心に、ネズミを退治しながらトッチの誘導で迷路を進んでいった。
「ここが最後の分かれ道みたいだね。」
「そうみたいだな…。」
「何々、さあ、最後の決断です?
右に行けば100万ギンゲットで、左に行けば彼女を救いだすことができます…だと!?」
こんなの左に決まってるだろ?
「100万ギンって遊んで暮らせるぜ!」
「いや、遊んでは暮らせないでしょ•••でも本当ならすごいよね!」
「俺は、左に行くよ!」
ハーベルがそう言って左へ行こうとすると、
「おい、100万だぞ!」
「そうだよ!」
「いや、彼女の方が大事だろ!」
2人は顔を見合わせて首を横に降った。
「いや、絶対右に行く!」
「僕も!」
トッチとマユは、どんどん右へ進んでいった。
すると受付台があり、
「お疲れ様でした、こちらが賞金となります。宜しければこの誓約書にサインをお願いします。」
受付のお姉さんが誓約書の用紙を差し出してきた。
「もちろんだぜ!」
2人は喜び勇んでサインをすると、
「あれ、あれ…。」
急にフラフラとした足取りで賞金も持たずに出口の方へ歩き始めた。
「あれ、俺たち何しに来たんだっけ?」
「さあ?帰ろっか?」
「そうだな…。」
2人は、訳の分からない様子で家路に就いた。
その頃、左の道を行ったハーベルはというと、
「ハーベルさん、おめでとうございます。」
「おめでとう?」
「はい、無事MD試験を受ける権利を得ました。」
「はあ?試験?」
「いきなりでごめんなさい…。」
そう言って横の扉から、紫色の長い髪の綺麗な女性が現れた。
「私は、セノン、このPSWの取締役のひとりよ、こちらはルミオ…。」
「よろしく、僕も同じく取締役さ。」
すごいイケメンぶりだ•••
「は、はあ…。」
「実はこのイベントは、魔法を使うことのできる人材を発掘するのが目的なのよ。」
「ハーベルさんは、その適正がありしかもお金ではなく人命を優先できる正義感もあります。」
「うーん?」
「まだピンと来てないようですね。」
「では、こちらへどうぞ…。」
「ハーベルさんは、魔法に興味はありますか?」
「いや、あん…。」
おい!
「いや、あります!」
「うん?そ、それは良かった…。」
危ない!僕は、魔法を使えるようになりたい。ハーベル君は、イマイチ乗り気じゃないみたいだけど、ここは譲れない!
「どうかしたかい?」
「あ、いや続けてください…。」
「ここは、魔法開発局という施設です、そしてMD(MagicDeveloper)を育成する機関でもあります」
「MD?」
「魔法を使えるように訓練を受ける者たちをそう呼んでいるのです。」
「なるほど…。」
「ただし、以前はここでMDとなりすぐにでも魔法の訓練に入っていたのですが、色々と厄介事を起こす者が増えてきまして…。」
「なるほど、MDになる以前にその資格があるかを試すってことですね?」
「その通り、話が早くて助かります。」
セノンがスマホを操作すると、
「ハーベルさんのアドレスに案内メールを送りました、これをヒントに頑張って受験会場へ期限までにお越しください。」
「期待しています」
そう言って帰りの出口へと案内された。
ちなみにトッチとマユの誓約書には、セノンの魔法がかけてあって、サインをするとそこまでの記憶を全て忘れてしまうのだった。
次回
魔法の世界へようこそ!
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今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
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