ステュムパーリデスの鳥 〜あるいは宮廷の悪い鳥の物語〜

ましら佳

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9.鳥達の庭園

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 一般教養、歌舞音曲かぶおんぎょく、武道、語学。
最低でも十五歳までにこれだけは覚えろと言われた。
なぜ十五歳なのかと言えば、家令の成人年齢だからだそうだ。
さらに陸軍アーミー海軍ネイビー空軍エア・ホース海兵隊マリーン
いずれどれかに配属されるらしい。
決めるのは白鷹はくたからしいから、個人の希望は関係ない。
どちらにしろ、最近まで猫に砂をまぶしてきなこ餅ごっこなんて言って遊んでいた程度の孔雀くじゃくには、よくわからない話だ。

「家令って大変だね。お城や神殿オリュンポス聖堂ヴァルハラでも働かなきゃいけないのに、戦争にも行かなきゃならないの?・・・私は大人になったら毎日たくさんカステラを焼くお仕事をしようと思っていたのに」
「焼けばいいじゃないの。それからアカデミーっていう大学みたいなとこ。そこにも行って勉強しなきゃだし」
緋連雀ひれんじゃくが笹の葉っぱで作った器にたんぽぽを乗せながら言った。
ガーデンに来て以来、この美少女に遊ぼうではなく遊んであげる、と言われて草ぼうぼうの庭に連れ出される事が多かった。
彼女なりに妹弟子の面倒を見ているつもりらしい。
「前の皇帝の琥珀こはく様は宮城でのお暮らしを嫌って、今の皇帝の瑪瑙めのう様は転地療養で、お二人とも離宮にいるでしょ。白鷹はくたかお姉様と梟《ふくろう》お兄様がそれぞれお仕えしているのは知ってるわよね」
うん、と孔雀くじゃくは頷いた。
正式に城に上がる許可のまだ出ない自分には皇帝にお目通りはかなわないが、その姿はテレビで見た事があるし、家令になって間も無くの時期に、強引に家令に召し上げられた子供がいると聞いて哀れに思ったのか皇帝皇后夫妻から「この度は、小さな家令よ、まことに気の毒である」から始まるお悔やみのような手紙と果物籠を賜った。
実家にもふくろうが上意宜しく似たような内容の親書を携えて来たらしい。
こうなってはもはや娘は家令と、両親はほとほと困惑したらしい。


瑪瑙めのう様というのは琥珀こはく様の一番下の弟に当たる人でしょ」
真鶴まづるに連れられて、琥珀《こはく》の離宮では使い走りをちょこちょこさせられていたから、琥珀こはくの事は知っている。
離宮に移って以来あまり人前に姿を現すことを好まない気難しい元女皇帝として怖れられていた。
「だから今、宮城にいらっしゃるのは皇太子の翡翠ひすい様。琥珀こはく様の息子にあたる方よ。まだ皇帝じゃないけれど、川蝉かわせみお兄様が総家令代理としてお仕えしているし、私の母親の猩々朱鷺しょうじょうときお姉様・・・まあ、家令に親子関係はないようなもんだけど。猩々朱鷺しょうじょうときお姉様は二妃様の宮にいるし、青鷺《あおさぎ》お姉様は御正室付き。黄鶲きびたきお姉様はアカデミーの医局にいるし、お城でも典医をしてるって聞いたでしょ。あとは海外の外部団体にいるのが木ノ葉梟このはずくお姉様と、はいたかお姉様」
「・・・ふうん・・・」
たまにガーデンにやってきて、猩々朱鷺しょう女うときは科学、黄鶲きびたきは毒性学を教えていき、山のような課題を置いていく。
法律の基礎ははいたかが、青鷺あおさぎが数学、川蝉かわせみが歴史と語学を。
白鷹はくたかはそのその修練具合を厳しく監督する。


他にも、武道や作法や所作、舞踏等、内容はとんでもなく多岐に渡っていた。
金糸雀カナリアは、ふくろうと999青鷺《あおさぎ》の娘なのだという。
緋連雀ひれんじゃくお姉様もちっちゃい頃からお城にいたの?」
そうよ、と得意気に笑う。
猩々朱鷺しょうじょうときお姉様が翡翠ひすい様の二妃様の宮付きになった時から私もそこで育ったの」
宮廷育ちと呼ばれる特別な人間なんだから、と付け足す。
金糸雀カナリアお姉様は?」
金糸雀カナリアふくろうお兄様が瑪瑙めのう帝様の総家令だから、瑪瑙めのう様の皇后様の宮に出入りしていたけど、小さいうちは海外の寄宿舎で育ったのよ。雉鳩きじばとは皇太子様のご正室様の宮に居るし。雉鳩きじばともお祖父様が結構前の総家令だったのよ。・・・あんた、ちゃんと分かってるの。お城のこと。いずれあんただって、宮仕えしなきゃなんないのよ」
「・・・王様がいて。お妃様がいるんでしょ。あとはお城の偉い人がいっぱい」
その漠然とした答えに、生まれながらの女家令は呆れて舌打ちした。
絵本で読んだくらいのレベルの知識ではないか。
「あんた本当に継室候補群の家の子なの?何の教育もされてないじゃないのよ。飯食わないでお菓子ばっか食ってるから素養が足りないんじゃないの」
継室候補群の娘なんて、皆それぞれに教育が行き届いているはずだ。
宮廷育ちの緋連雀ひれんじゃくからしたら、本来なら女官と同じくらいいけすかない存在だ。
園遊会の度に現れる我こそはと意気込む正室候補群や継室候補群の家の人間を軽くいなしてやるのが趣味なのに。


この妹弟子を初めて見たのは、園遊会。
再三の呼び出しを親の代から三十年以上も無視し、さすがにふくろうから正式な召集令状を送りつけられてしぶしぶ現れた母親の青嵐あおあらしと同じ格好の葡萄染めの着物姿の娘は座敷童のようだった。
聖堂ヴァルハラの司祭長の甥である大嘴おおはしと一緒に、無料のバイキング会場か何かと勘違いしてずっとアイスクリームを食べていたと思ったら、今度はチョコレートファウンテンの前でテーブルに届かずに精神が不安定な猫のようにうろうろしているのを翡翠ひすいの第一太子である藍晶らんしょうが見かねて持ち上げてやり、他の継室候補群の親子の嫉妬を買ったのだ。
要領のいい大嘴おおはしはどこからか踏み台を持ってきて一心不乱に食べていたが。
そのうちこの妹弟子は腹一杯になるとどこかへ行ってしまい、しばらくするとなぜか水浸し、その上チョコレートだらけ傷だらけで戻ってきて、母親が「着物なんか着せるんじゃなかった。だから来るんじゃなかった。もう帰りたい」とあまりにも正直な泣き言を事を言っていたのが印象的だった。

緋連雀ひれんじゃくが、大変ね、ここんち。どうりでドベなはずだわ。と嫌味っぽく言うと、隣にいた女官長がこんな子が継室になったらとんでもないわ。出禁よ、と眉を寄せていた。


それが家令になるなんてね、と緋連雀ひれんじゃくはおかしくて仕方ない。
「・・・緋連雀ひれんじゃくお姉様、これなに?」
笹の葉っぱにそれぞれ乗せられた、シロツメクサとタンポポ、色水。
「唐揚げ定食よ」
「・・・ふーん」
学校の友達や幼馴染とままごとをやる時は、パンケーキやプリンだったが、この姉弟子が付き合ってくれる場合、定食が多い。
「まだ待って。ポテトサラダとお新香と塩辛がつくと最高。・・・ちょっと、食べるふりじゃなくて、ちゃんと食べなさいよ」
緋連雀ひれんじゃくがさらに草花をちぎり始めた。

 
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