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140.舞う若鳥
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皇太子は新しい恋人がまた出来たのだろう。
「いずれ別れ話のもつれをまた押し付けられるわけか」
天河が茶化した。
「そんな・・・」
否定しようとして、孔雀が考え直してして頷いた。
「・・・でも、今回はちょっと・・・」
今の藍晶の恋人が元老院派の姫君なのだ。
纏まったらすぐに継室になるだろう。
「元老院のおっさんのだれかが引き合わせたってことか」
皇太子の継室の話を再三退ける総家令に、元老院派がフライングしたというところだろう。
「・・・美田薗様の一の姫様です。・・・お断りする理由が見つからないわ・・・」
これはもう、進めるしかないだろう。
「今時、身辺調査すりゃ、お断りする理由のヒトツやフタツ、あるだろうが」
「こちらの素行の悪さを棚に上げてですか?」
まあ確かに、藍晶の事だ。清らかといくまい。
「だけどな、孔雀。モテたい男に選ばれたい女というのは一定数いるからね。藍の継室に入るって事はそういうことじゃないかよ。逆に、あちこちモテる女を手に入れたい男もいるわな。藍が出入りしてる社交界なんて、穴兄弟ばっかじゃないか。それがオシャレなんだろ?」
孔雀が眉を寄せて、嫌そうに首を振った。
「まあ、いけませんこと。天河様、家令のような事を仰る・・・。ヤダ、全然オシャレじゃありませんよ?今後は藍晶様には月1で健康診断受けて頂きます」
姉弟子のその引きっぷりに燕が吹き出した。
確かになんと軟派で不純な考えか。
「お前だって家令じゃないか」
そうですけど、と孔雀は膨れた。
天河も燕も膨れた頬をつっつきたい気持ちで眺めていたが。
「・・・お互いの、希望が叶った形で・・・その、いわゆるビビッと来るのでしょう?だから、天河様にもそういう出会いを期待したいんです」
「そんな雷当たった一目惚れみたいなやつ、そうしょっちゅうあるかい」
孔雀はしょぼくれた。
「・・・じゃ、どうしたらいいんですか」
条件が合うというだけで決めれば、その条件がいつかどこか欠けたら回らなくなる。
特に継室選定は、そもそもそういうもの。それでいいだろう、というのが一般的な意見だ。
その時々に相応しい政治的な意図を満たすもの、というのが大きな決定打でもあるから。
「・・・まあ確かに、先日、美田薗卿が宮廷に貢献したという事で、その褒賞も兼ねて一つの形にしようってことでの入宮が検討されてるわけですからね。入宮というのはシンボリックでメモリアル事業として最適ですから」
燕が言ったのに孔雀がまた頬を膨らませた。
「ご継室は、記念樹じゃないのよ?」
「面白いこというね。んじゃ、入宮の儀式は植樹会ってとこだな」
またそのようなこと、と孔雀が膨れてフルーツケーキに食いついた。
「・・・あー、孔雀姉上。本格的に呼び出しだ」
燕がスマホの画面を眺めた。
よほど気に病んだ鈴蘭《すずらん》が探りを入れたいというところか。
立ち上がろうとした孔雀を燕が制した。
「孔雀姉上は行かないほうがいいですよ」
鈴蘭としては、燕から話が聞きたいのだ。
話を聞いたら動かざるを得ない孔雀ではなく。
藍晶は以前はよく雉鳩を同行させていたが、最近では燕がその役目を引き受ける事が増えていた。
自己演出に長けた彼の事、姫君を圧倒してしまう雉鳩よりも若い燕の方が都合が良いとの判断だろう。
燕が失礼しますと礼をして、退出した。
「燕少年なんて呼んでいたけど、いつの間にか立派に家令になっちゃって」
天河が呆れ半分、感心半分で言った。
「ありがとう存じます。燕は優秀な家令だと思います」
正式に城に上がって以来、もとより宮廷育ちであったこともあるが、さまざまな事に明るく、気も利き、瑞々しい。
若手では仏法僧と共に、女官達からも人気がある。
今や雛鳥は巣立って立派な若鳥となった。
宮廷で囀り、舞う若鳥を眩しく思う。
陸軍でも確実に実力をつけていた。
「春からあの子を軍中央にと考えているんです」
天河は驚いた。
軍で唯一、未だ家令の手の及ばない場所。
「千鳥お兄様・・・茉莉先生が、推薦して下さる事になって。苦労かけますけれど」
心配でたまらないと言うように孔雀は目を伏せた。
抵抗勢力も多いだろう。
「たった一人、というなら心配だけど。茉莉がいるなら大丈夫だろうし、あのはしっこい燕ならうまくやるだろうさ」
「・・・そうですね」
孔雀がほっとしたように微笑んだ。
「それから、尉ちゃんにそろそろお使いをお願いしようと思っているんです」
黄鶲と川蝉の息子の尉鶲だ。
宮廷でやはり他の宮廷に関わる子供達と育っていたが、正式にガーデンに入る前に少しずつ仕事を覚えて行くという事になった。
ほんの小さな使い走りからでも、それは修行になる。
今時あんまりだが、十五で成人となる家令としては、そろそろ丁稚奉公という時期だ。
あのチビスケがねえ、と天河は感慨深くも複雑な心境でもある。
たまに孔雀が尉鶲と手を繋いで現れ、孔雀は天河と打ち合わせをし、まだ雛鳥の彼は姉弟子を待ちながらここでおやつを食べている事もある。
川蝉が死んでから常に誰か年上の家令達が近くにいるようにしているらしい。
天河も心配であったから、そこは安心して見ていた。
翡翠もまたお使いとして、尉鶲総家令室に出入りするのを許している。
しかし今のところ、尉鶲《じょうびたき》と同世代、またはその後進が存在しない。
孔雀としては大切に育てたい雛鳥と言うところだろう。
「いずれ別れ話のもつれをまた押し付けられるわけか」
天河が茶化した。
「そんな・・・」
否定しようとして、孔雀が考え直してして頷いた。
「・・・でも、今回はちょっと・・・」
今の藍晶の恋人が元老院派の姫君なのだ。
纏まったらすぐに継室になるだろう。
「元老院のおっさんのだれかが引き合わせたってことか」
皇太子の継室の話を再三退ける総家令に、元老院派がフライングしたというところだろう。
「・・・美田薗様の一の姫様です。・・・お断りする理由が見つからないわ・・・」
これはもう、進めるしかないだろう。
「今時、身辺調査すりゃ、お断りする理由のヒトツやフタツ、あるだろうが」
「こちらの素行の悪さを棚に上げてですか?」
まあ確かに、藍晶の事だ。清らかといくまい。
「だけどな、孔雀。モテたい男に選ばれたい女というのは一定数いるからね。藍の継室に入るって事はそういうことじゃないかよ。逆に、あちこちモテる女を手に入れたい男もいるわな。藍が出入りしてる社交界なんて、穴兄弟ばっかじゃないか。それがオシャレなんだろ?」
孔雀が眉を寄せて、嫌そうに首を振った。
「まあ、いけませんこと。天河様、家令のような事を仰る・・・。ヤダ、全然オシャレじゃありませんよ?今後は藍晶様には月1で健康診断受けて頂きます」
姉弟子のその引きっぷりに燕が吹き出した。
確かになんと軟派で不純な考えか。
「お前だって家令じゃないか」
そうですけど、と孔雀は膨れた。
天河も燕も膨れた頬をつっつきたい気持ちで眺めていたが。
「・・・お互いの、希望が叶った形で・・・その、いわゆるビビッと来るのでしょう?だから、天河様にもそういう出会いを期待したいんです」
「そんな雷当たった一目惚れみたいなやつ、そうしょっちゅうあるかい」
孔雀はしょぼくれた。
「・・・じゃ、どうしたらいいんですか」
条件が合うというだけで決めれば、その条件がいつかどこか欠けたら回らなくなる。
特に継室選定は、そもそもそういうもの。それでいいだろう、というのが一般的な意見だ。
その時々に相応しい政治的な意図を満たすもの、というのが大きな決定打でもあるから。
「・・・まあ確かに、先日、美田薗卿が宮廷に貢献したという事で、その褒賞も兼ねて一つの形にしようってことでの入宮が検討されてるわけですからね。入宮というのはシンボリックでメモリアル事業として最適ですから」
燕が言ったのに孔雀がまた頬を膨らませた。
「ご継室は、記念樹じゃないのよ?」
「面白いこというね。んじゃ、入宮の儀式は植樹会ってとこだな」
またそのようなこと、と孔雀が膨れてフルーツケーキに食いついた。
「・・・あー、孔雀姉上。本格的に呼び出しだ」
燕がスマホの画面を眺めた。
よほど気に病んだ鈴蘭《すずらん》が探りを入れたいというところか。
立ち上がろうとした孔雀を燕が制した。
「孔雀姉上は行かないほうがいいですよ」
鈴蘭としては、燕から話が聞きたいのだ。
話を聞いたら動かざるを得ない孔雀ではなく。
藍晶は以前はよく雉鳩を同行させていたが、最近では燕がその役目を引き受ける事が増えていた。
自己演出に長けた彼の事、姫君を圧倒してしまう雉鳩よりも若い燕の方が都合が良いとの判断だろう。
燕が失礼しますと礼をして、退出した。
「燕少年なんて呼んでいたけど、いつの間にか立派に家令になっちゃって」
天河が呆れ半分、感心半分で言った。
「ありがとう存じます。燕は優秀な家令だと思います」
正式に城に上がって以来、もとより宮廷育ちであったこともあるが、さまざまな事に明るく、気も利き、瑞々しい。
若手では仏法僧と共に、女官達からも人気がある。
今や雛鳥は巣立って立派な若鳥となった。
宮廷で囀り、舞う若鳥を眩しく思う。
陸軍でも確実に実力をつけていた。
「春からあの子を軍中央にと考えているんです」
天河は驚いた。
軍で唯一、未だ家令の手の及ばない場所。
「千鳥お兄様・・・茉莉先生が、推薦して下さる事になって。苦労かけますけれど」
心配でたまらないと言うように孔雀は目を伏せた。
抵抗勢力も多いだろう。
「たった一人、というなら心配だけど。茉莉がいるなら大丈夫だろうし、あのはしっこい燕ならうまくやるだろうさ」
「・・・そうですね」
孔雀がほっとしたように微笑んだ。
「それから、尉ちゃんにそろそろお使いをお願いしようと思っているんです」
黄鶲と川蝉の息子の尉鶲だ。
宮廷でやはり他の宮廷に関わる子供達と育っていたが、正式にガーデンに入る前に少しずつ仕事を覚えて行くという事になった。
ほんの小さな使い走りからでも、それは修行になる。
今時あんまりだが、十五で成人となる家令としては、そろそろ丁稚奉公という時期だ。
あのチビスケがねえ、と天河は感慨深くも複雑な心境でもある。
たまに孔雀が尉鶲と手を繋いで現れ、孔雀は天河と打ち合わせをし、まだ雛鳥の彼は姉弟子を待ちながらここでおやつを食べている事もある。
川蝉が死んでから常に誰か年上の家令達が近くにいるようにしているらしい。
天河も心配であったから、そこは安心して見ていた。
翡翠もまたお使いとして、尉鶲総家令室に出入りするのを許している。
しかし今のところ、尉鶲《じょうびたき》と同世代、またはその後進が存在しない。
孔雀としては大切に育てたい雛鳥と言うところだろう。
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