ステュムパーリデスの鳥 〜あるいは宮廷の悪い鳥の物語〜

ましら佳

文字の大きさ
140 / 211
5.

140.舞う若鳥

しおりを挟む
皇太子は新しい恋人がまた出来たのだろう。

「いずれ別れ話のもつれをまた押し付けられるわけか」

天河てんがが茶化した。

「そんな・・・」

否定しようとして、孔雀くじゃくが考え直してして頷いた。

「・・・でも、今回はちょっと・・・」

今の藍晶らんしょうの恋人が元老院派の姫君なのだ。
まとまったらすぐに継室になるだろう。

「元老院のおっさんのだれかが引き合わせたってことか」
皇太子の継室の話を再三退ける総家令に、元老院派がフライングしたというところだろう。

「・・・美田薗みたぞの様の一の姫様です。・・・お断りする理由が見つからないわ・・・」

これはもう、進めるしかないだろう。

「今時、身辺調査すりゃ、お断りする理由のヒトツやフタツ、あるだろうが」
「こちらの素行の悪さを棚に上げてですか?」

まあ確かに、藍晶らんしょうの事だ。清らかといくまい。

「だけどな、孔雀くじゃく。モテたい男に選ばれたい女というのは一定数いるからね。らんの継室に入るって事はそういうことじゃないかよ。逆に、あちこちモテる女を手に入れたい男もいるわな。らんが出入りしてる社交界なんて、穴兄弟ばっかじゃないか。それがオシャレなんだろ?」

孔雀くじゃくが眉を寄せて、嫌そうに首を振った。

「まあ、いけませんこと。天河てんが様、家令のような事を仰る・・・。ヤダ、全然オシャレじゃありませんよ?今後は藍晶らんしょう様には月1ツキイチで健康診断受けて頂きます」

姉弟子のその引きっぷりにつばめが吹き出した。
確かになんと軟派で不純な考えか。

「お前だって家令じゃないか」

そうですけど、と孔雀くじゃくは膨れた。
天河てんがつばめも膨れた頬をつっつきたい気持ちで眺めていたが。

「・・・お互いの、希望が叶った形で・・・その、いわゆるビビッと来るのでしょう?だから、天河てんが様にもそういう出会いを期待したいんです」
「そんな雷当たった一目惚れみたいなやつ、そうしょっちゅうあるかい」

孔雀くじゃくはしょぼくれた。

「・・・じゃ、どうしたらいいんですか」

条件が合うというだけで決めれば、その条件がいつかどこか欠けたら回らなくなる。
特に継室選定は、そもそもそういうもの。それでいいだろう、というのが一般的な意見だ。
その時々に相応しい政治的な意図を満たすもの、というのが大きな決定打でもあるから。

「・・・まあ確かに、先日、美田薗みたぞの卿が宮廷に貢献したという事で、その褒賞も兼ねて一つの形にしようってことでの入宮が検討されてるわけですからね。入宮というのはシンボリックでメモリアル事業として最適ですから」

つばめが言ったのに孔雀くじゃくがまた頬を膨らませた。

「ご継室は、記念樹じゃないのよ?」
「面白いこというね。んじゃ、入宮の儀式は植樹会ってとこだな」

またそのようなこと、と孔雀くじゃくが膨れてフルーツケーキに食いついた。

「・・・あー、孔雀くじゃく姉上。本格的に呼び出しだ」

つばめがスマホの画面を眺めた。
よほど気に病んだ鈴蘭《すずらん》が探りを入れたいというところか。
立ち上がろうとした孔雀くじゃくつばめが制した。

孔雀くじゃく姉上は行かないほうがいいですよ」

鈴蘭すずらんとしては、つばめから話が聞きたいのだ。
話を聞いたら動かざるを得ない孔雀くじゃくではなく。
藍晶らんしょうは以前はよく雉鳩きじばとを同行させていたが、最近ではつばめがその役目を引き受ける事が増えていた。
自己演出に長けた彼の事、姫君を圧倒してしまう雉鳩きじばとよりも若いつばめの方が都合が良いとの判断だろう。

つばめが失礼しますと礼をして、退出した。

つばめ少年なんて呼んでいたけど、いつの間にか立派に家令になっちゃって」

天河てんがが呆れ半分、感心半分で言った。

「ありがとう存じます。つばめは優秀な家令だと思います」

正式に城に上がって以来、もとより宮廷育ちであったこともあるが、さまざまな事に明るく、気も利き、瑞々しい。
若手では仏法僧ぶっぽうそうと共に、女官達からも人気がある。
今や雛鳥は巣立って立派な若鳥となった。
宮廷でさえずり、舞う若鳥を眩しく思う。
陸軍アーミーでも確実に実力をつけていた。

「春からあの子を軍中央セントラルにと考えているんです」

天河てんがは驚いた。
軍で唯一、未だ家令の手の及ばない場所。
千鳥ちどりお兄様・・・茉莉まつり先生が、推薦して下さる事になって。苦労かけますけれど」

心配でたまらないと言うように孔雀は目を伏せた。
抵抗勢力も多いだろう。

「たった一人、というなら心配だけど。茉莉がいるなら大丈夫だろうし、あのはしっこい燕ならうまくやるだろうさ」
「・・・そうですね」

孔雀くじゃくがほっとしたように微笑んだ。

「それから、じょうちゃんにそろそろお使いをお願いしようと思っているんです」

黄鶲きびたき川蝉かわせみの息子の尉鶲じょうびたきだ。
宮廷でやはり他の宮廷に関わる子供達と育っていたが、正式にガーデンに入る前に少しずつ仕事を覚えて行くという事になった。
ほんの小さな使い走りからでも、それは修行になる。
今時あんまりだが、十五で成人となる家令としては、そろそろ丁稚奉公でっちぼうこうという時期だ。
あのチビスケがねえ、と天河てんがは感慨深くも複雑な心境でもある。
たまに孔雀くじゃく尉鶲じょうびたきと手を繋いで現れ、孔雀くじゃく天河てんがと打ち合わせをし、まだ雛鳥の彼は姉弟子を待ちながらここでおやつを食べている事もある。

川蝉かわせみが死んでから常に誰か年上の家令達が近くにいるようにしているらしい。
天河てんがも心配であったから、そこは安心して見ていた。
翡翠ひすいもまたお使いとして、尉鶲じょうびたき総家令室に出入りするのを許している。
しかし今のところ、尉鶲《じょうびたき》と同世代、またはその後進が存在しない。
孔雀くじゃくとしては大切に育てたい雛鳥と言うところだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

【完】経理部の女王様が落ちた先には

Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位 高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け ピンヒールの音を響かせ歩く “経理部の女王様” そんな女王様が落ちた先にいたのは 虫1匹も殺せないような男だった・・・。 ベリーズカフェ総合ランキング4位 2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位 2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位 関連物語 『ソレは、脱がさないで』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位 『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

処理中です...