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164.虹の伝令神
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これは、孔雀も総家令になり王立図書館の閉鎖図書の閲覧の解禁を許可され、首席司書長の木ノ葉梟が出して来た王室に関わる、代々のまるで樹木のように描かれた家系図、相関図を見る機会に預かり知った事なのだが、孔雀の実家の棕櫚家というのは、継室としての入宮実績は少ないのだが、それでも継室候補群の家であり、廷臣という立場上、やはり宮城と無縁では居られなかった。
宮廷の記録に棕櫚家の名が出てくるのは、百年以上前に、当時の女皇帝の乳母として宮城に入った女性がいた、という事。彼女は一時、当時の総家令の妻であったらしい。
当時の総家令、彼の名前は五位鷺。
日記は勿論残っている。
古い文体ではあったが、間違いなく彼らが正式な婚姻関係にあり、娘が一人いる事、さらにその直前に女皇帝と総家令の間に産まれた皇子がいるとも記されていた。
つまり、その棕櫚家の娘、佐保姫残雪は女皇帝と五位鷺の子の為に乳母として宮廷に上がった。
が、どうやらそれは皇帝と総家令の考え出した彼女の配役名であり、実際は女皇帝と恋人でもあったらしい。
五位鷺との夫婦関係も円満な様子で、つまり、一夫多妻というより"三人で結婚"しているというような状況であったらしく、なんでもありの宮廷、家令の内でもそんな事あるのかと、さすがの孔雀も驚いた。
しかし、それから十年後、女皇帝と総家令は外遊先で、暗殺されてしまう。
その後、皇子は国を離れて皇籍も離籍し、乳母は娘と実家に戻ったとされていた。
その後、残雪は政治的な思惑でまた表舞台に引っ張り出される。
高貴なる人質として、外交上の特使官という名目でA国に派遣される事になったのだ。
前王の娘である新王の嫌がらせ、または、恭順の意思を示せという事だろう。
前総家令の妻であり、その間に娘までいる。
さらに母王と総家令との間の皇子の乳母まで務めていたとなったらどうにも目障りな存在だったという事だろう。
彼女は帰国後、何がどうなったのかA国の人間と再婚したらしい。
それで棕櫚家には葡萄色の目をした者がたまに産まれるのか、と合点がいった。
つまり、孔雀や現在まで続く棕櫚家の筋というのはその二人の間の子供たちから。
女皇帝と五位鷺との間に産まれた太子は、皇籍を離れ海外に渡りそこで暮らしていたらしい。
それが棕櫚家の娘と婚姻し、それが時代を経て淡雪に当たると気付いたのは最近。
孔雀と淡雪ははるか遠い親戚になるらしい。
そして、そのまた忘れる程の後年に棕櫚家から唯一の継室として入った、桜子という女性がいた。
彼女と一部王族が考え出したのがヘルメスらしいとは口伝で聞いてはいたが。
樹形図を見て始めて、その名を目にした時、本当に実在したのかと不思議な気持ちになった。
棕櫚家では口伝で寝物語のように伝えられて来た話だ。
大概つくり話だろうと、伝えられた自分達ですら思っていた節がある。
淡雪からその顛末を聞かされた真鶴は、呆れ、感心したものだ。
「そして、その桜子はアカデミー出身というまた毛色の変わった継室。皇帝の退位後、当時の皇帝と総家令の許可を貰って、アカデミーに戻って研究を続けたと。なぜか皇帝の兄の日長と共に暮らした。ほら、あの止まり木。あの物件はあの二人の持ち物だったらしいわね」
ふふ、と孔雀は笑った。
「それは、私が当時の総家令を務めた火喰鳥お姉様の日記を見て、初めてわかった事。桜子は見初められたのではなく、ただの就職。もしくは、お取引。桜子はどうしても王兄である日長殿下が欲しかった。・・・皇帝陛下も何か思惑があっての事でしょう。まあいろいろと織り込み済みでの入宮だったようです。だからこそ最終的に後宮を出る事が出来た」
「・・・お前の家は、つくづく継室に縁のない家ね。ここまで来ると致命的よ」
同情的に真鶴が言った。
「その頃はまだ、棕櫚家と五位鷺の娘の筋と交流があったそうね。アカデミーに戻った桜子が子供達に伝え始めて、ヘルメスが始まったわけね」
ヘルメスと言う古代のトリックスターたる神の名のつけられた組織。
虹の伝令、商売の神、変わったところだと泥棒の守護神でもあるらしい。
「ヘルメスは別に、家令や当局と敵対する存在ではなかったようですよ。家令をある程度規制するものではあったようですが、同時に助けるものでもあったようですから」
行き過ぎてしまう家令の、良くも悪くも抑止力ではあったようだ。
真鶴はふうんと頷いた。
ヘルメスとはまた不思議な名前をつけたものだと淡雪に尋ねた時、ヘルメスは百の目を持つアルゴスを退治した神だから、と言った。
桜子は、同時に寝てはならぬという戒律のある家令を、神話に出て来る百の目を持つ眠ることのない怪物に擬えたのだろう。
継室が考え出したにしてはいささか剣呑であるが、皇帝と総家令、そして近しい王族の肝いりで入宮した者だとわかれば納得でもある。
「・・・アルゴスの象徴はクジャクらしいわね」
百の目を持つ怪物はヘルメス神に殺され、彼を可愛がっていた大神の妻の女神によって孔雀の姿に生まれ変わったとかなんとか。
神話というのは不思議なものだが、なんという奇縁。
孔雀は笑った。
「いつの間にか、五位鷺お兄様の子の筋と、棕櫚家との交流は途絶えてしまったけれど。淡雪先生がそうだと知った時は、とても不思議な気持ちでした」
翡翠や茉莉とアカデミーからの友人で、家令のうちでは梟とも親しかった。
不思議な人物で、あの気性の激しい緋連雀が不思議とすんなり師事したくらいだ。
画聖だ、人間国宝だと言われても、いつもマイペースで穏やかな人。
「緋連雀お姉様の絵のお稽古によく宮城に来てくださったの。私もお付き合いで一緒に。淡雪先生、猫を飼ってらして。私が退屈で待ちくたびれてしまうからっていつも猫を連れて来てくれて」
法律で定められた以上の児童労働はまかりならぬと金糸雀が翡翠に突きつけたおかげで、孔雀はポッカリ空いた時間は、よく緋連雀の絵の稽古に付き合わされた。
白鷹は孔雀に金になるからと緋連雀と同じように淡雪から日本画を習わせたがったが、結局、孔雀は戦禍で崩壊状態だった聖堂の修復を手掛けていた鷂を手伝う内に油彩やテンペラ絵画の方が気に入ってしまったのだが。
淡雪はここ二年ばかり宮城には顔を出していなかったが、アカデミーで会った教授たちはよく旅先で会ったと孔雀に言っていたのに。
タシオニは淡雪が描いたという珍獣の絵をいくつも飾っていて見せてくれた。
「お元気でらしたならよろしかった。淡雪先生、またスケッチ旅行に行かれたの?」
もともと放浪癖のある彼は、季節の変わり目にふらっとどこかに行ってしまうことが多かった。
「・・・とっくに死んだわよ。宮城には知られてなかったのね。ふふ、総家令を出し抜いたと喜ぶべきね」
孔雀は驚いて真鶴を見上げた。
「・・・そうでしたか。・・・翡翠様も千鳥お兄様も梟お兄様も、緋連雀お姉様も悲しむでしょうね・・・」
総家令になって以来、数人の姉弟子と兄弟子を亡くして見送ってきたが、やはり身近な人の死を聞くのは悲しかった。
真鶴は孔雀の頬を突っついた。
「淡雪の家の方が棕櫚家よりちょっと真面目ね。ちゃんと自分達の出自を覚えて伝えていたようよ。だから、淡雪《あわゆき》はあんたの事は知ってた。なんとも不思議な縁だよねって喜んでたわ」
真鶴としては驚くべき事だが、ならば同じ志を持って反体制組織を等と思わないのが、あの男だった。
縁とか運とか、そういうたった一言で、怨念のような出来事もさらっと片付ける。
不幸に執着しないたちなのは、この妹弟子と似ている。
だから自分は、ここでこうして今いるのだから。
皇帝である実の兄に家臣とも言えぬ家令に堕とされ、さらに反旗を翻してみたものの脅しつけられて、引き下がった。半身と望んだ孔雀は奪われた。
これが不幸でなくてなんなのだと、淡雪に当たり散らしたものだ。
しかし、彼は、そういう巡り合わせだったんじゃないの、運命だっていうならまた会えるよ、とそんなのんびりした事で誤魔化されたのだとずっと思っていた。だが、違うのだ。彼は信じていたのだ。
そして今、自分はまたこうして孔雀と会っている。
運だの、縁だの、運命だの。
科学者の自分には、全く以って妄想か病気だとしか思えないものを信じそうになる。
「そうですね。思い続けていればそれも縁になるといいますものねえ」
こっちもこの調子なのだから。
「・・・さあ。じゃあ、ここからが本題。お前の身の振り方よ」
孔雀は頷いた。
しかし、と身を乗り出す。
「・・・真鶴お姉様。まずは一つ恨み言を申し上げていいですか。・・・お姉様が出て行ってしまってから、家庭崩壊もいいとこ。鸚鵡お兄様は呑んだくれて、結局左遷。雉鳩お兄様も金糸雀お姉様も緋連雀お姉様もガーデンに帰って来なくなってしまってすっかりグレてしまったのよ。大嘴お兄様と私は、まともなご飯も食べれずしばらく困ったの。白鴎お兄様と金糸雀お兄様は、お言いつけ通り派手な結婚式を挙げてはみたけれど、ひと月もしないで離婚よ」
一気に言われて、真鶴は怯んだ。
白鷹が子供の世話等するわけがないとは分かっていたし、宮城を放逐されていた世代も外部組織でも立場作りに忙しくガーデンへ子守には行けない。
それは確かに、心配ではあったのだ。
「・・・でも、でもね。もともと翡翠が悪いのよ。お前を大神官にして神殿に閉じ込めるとか言うのだもの。だから私・・・」
「それでもいいとなんでもいいと言ったじゃない。真鶴お姉様、私、こどもだったけど・・・。こどもなりに・・・」
真鶴は珍しく狼狽えた。
喜びも痛みも、あなたからじゃなきゃ嫌、とそう孔雀《くじゃく》は言ったのに。
だから孔雀は待っていたのだ。
翡翠が梟に伴われてガーデンにやって来る時、白鷹は孔雀にこう言い含めたのだ。
「・・・お前はゆっくり大人にしてやりたいと思っていたけれど。・・・事情が変わって、特急で大人の家令に仕上げなくちゃならなくなっちゃった。こうなったら、どうにかしてやって行かなくちゃ。・・・今時、虐待だよねえ。でもねえ、そうしたのは真鶴なんだもの。それでもお前、そんなに真鶴を見つけたいなら、これから来る男に気に入られな」と。
「そんなの無理、雉鳩お兄様や緋連雀お姉様でもあるまいし」とまた泣きべそをかく孔雀に、白鷹はまた慰めの代わりに甘いものが盛られた菓子器をどんと目の前に置いて、笑ったのだ。
「何言ってんだよ。あの真鶴をたらしこんだの、お前じゃないか」。
そして、白鷹は、さあがんばりな!と激励をして。
だから、孔雀は、初めて会う翡翠を見上げて、微笑んでみたのだ。
そして、今や、寵姫宰相とまで揶揄されるようになった。
確かに、白鷹の言う通り、真鶴をこうして見つけた。きっと遠くにいるであろう真鶴が自分を見失わないように。そう思って、積み上げて来たのだ。
遠く離れた探していた星を今こうして見つけたけれど。
けれど。
「・・・今となっては。私は、翡翠様の総家令」
自分の一番近くには、違う星が瞬いて寄り添っている。
聞きたくない告白に、真鶴は息を飲んだ。
宮廷の記録に棕櫚家の名が出てくるのは、百年以上前に、当時の女皇帝の乳母として宮城に入った女性がいた、という事。彼女は一時、当時の総家令の妻であったらしい。
当時の総家令、彼の名前は五位鷺。
日記は勿論残っている。
古い文体ではあったが、間違いなく彼らが正式な婚姻関係にあり、娘が一人いる事、さらにその直前に女皇帝と総家令の間に産まれた皇子がいるとも記されていた。
つまり、その棕櫚家の娘、佐保姫残雪は女皇帝と五位鷺の子の為に乳母として宮廷に上がった。
が、どうやらそれは皇帝と総家令の考え出した彼女の配役名であり、実際は女皇帝と恋人でもあったらしい。
五位鷺との夫婦関係も円満な様子で、つまり、一夫多妻というより"三人で結婚"しているというような状況であったらしく、なんでもありの宮廷、家令の内でもそんな事あるのかと、さすがの孔雀も驚いた。
しかし、それから十年後、女皇帝と総家令は外遊先で、暗殺されてしまう。
その後、皇子は国を離れて皇籍も離籍し、乳母は娘と実家に戻ったとされていた。
その後、残雪は政治的な思惑でまた表舞台に引っ張り出される。
高貴なる人質として、外交上の特使官という名目でA国に派遣される事になったのだ。
前王の娘である新王の嫌がらせ、または、恭順の意思を示せという事だろう。
前総家令の妻であり、その間に娘までいる。
さらに母王と総家令との間の皇子の乳母まで務めていたとなったらどうにも目障りな存在だったという事だろう。
彼女は帰国後、何がどうなったのかA国の人間と再婚したらしい。
それで棕櫚家には葡萄色の目をした者がたまに産まれるのか、と合点がいった。
つまり、孔雀や現在まで続く棕櫚家の筋というのはその二人の間の子供たちから。
女皇帝と五位鷺との間に産まれた太子は、皇籍を離れ海外に渡りそこで暮らしていたらしい。
それが棕櫚家の娘と婚姻し、それが時代を経て淡雪に当たると気付いたのは最近。
孔雀と淡雪ははるか遠い親戚になるらしい。
そして、そのまた忘れる程の後年に棕櫚家から唯一の継室として入った、桜子という女性がいた。
彼女と一部王族が考え出したのがヘルメスらしいとは口伝で聞いてはいたが。
樹形図を見て始めて、その名を目にした時、本当に実在したのかと不思議な気持ちになった。
棕櫚家では口伝で寝物語のように伝えられて来た話だ。
大概つくり話だろうと、伝えられた自分達ですら思っていた節がある。
淡雪からその顛末を聞かされた真鶴は、呆れ、感心したものだ。
「そして、その桜子はアカデミー出身というまた毛色の変わった継室。皇帝の退位後、当時の皇帝と総家令の許可を貰って、アカデミーに戻って研究を続けたと。なぜか皇帝の兄の日長と共に暮らした。ほら、あの止まり木。あの物件はあの二人の持ち物だったらしいわね」
ふふ、と孔雀は笑った。
「それは、私が当時の総家令を務めた火喰鳥お姉様の日記を見て、初めてわかった事。桜子は見初められたのではなく、ただの就職。もしくは、お取引。桜子はどうしても王兄である日長殿下が欲しかった。・・・皇帝陛下も何か思惑があっての事でしょう。まあいろいろと織り込み済みでの入宮だったようです。だからこそ最終的に後宮を出る事が出来た」
「・・・お前の家は、つくづく継室に縁のない家ね。ここまで来ると致命的よ」
同情的に真鶴が言った。
「その頃はまだ、棕櫚家と五位鷺の娘の筋と交流があったそうね。アカデミーに戻った桜子が子供達に伝え始めて、ヘルメスが始まったわけね」
ヘルメスと言う古代のトリックスターたる神の名のつけられた組織。
虹の伝令、商売の神、変わったところだと泥棒の守護神でもあるらしい。
「ヘルメスは別に、家令や当局と敵対する存在ではなかったようですよ。家令をある程度規制するものではあったようですが、同時に助けるものでもあったようですから」
行き過ぎてしまう家令の、良くも悪くも抑止力ではあったようだ。
真鶴はふうんと頷いた。
ヘルメスとはまた不思議な名前をつけたものだと淡雪に尋ねた時、ヘルメスは百の目を持つアルゴスを退治した神だから、と言った。
桜子は、同時に寝てはならぬという戒律のある家令を、神話に出て来る百の目を持つ眠ることのない怪物に擬えたのだろう。
継室が考え出したにしてはいささか剣呑であるが、皇帝と総家令、そして近しい王族の肝いりで入宮した者だとわかれば納得でもある。
「・・・アルゴスの象徴はクジャクらしいわね」
百の目を持つ怪物はヘルメス神に殺され、彼を可愛がっていた大神の妻の女神によって孔雀の姿に生まれ変わったとかなんとか。
神話というのは不思議なものだが、なんという奇縁。
孔雀は笑った。
「いつの間にか、五位鷺お兄様の子の筋と、棕櫚家との交流は途絶えてしまったけれど。淡雪先生がそうだと知った時は、とても不思議な気持ちでした」
翡翠や茉莉とアカデミーからの友人で、家令のうちでは梟とも親しかった。
不思議な人物で、あの気性の激しい緋連雀が不思議とすんなり師事したくらいだ。
画聖だ、人間国宝だと言われても、いつもマイペースで穏やかな人。
「緋連雀お姉様の絵のお稽古によく宮城に来てくださったの。私もお付き合いで一緒に。淡雪先生、猫を飼ってらして。私が退屈で待ちくたびれてしまうからっていつも猫を連れて来てくれて」
法律で定められた以上の児童労働はまかりならぬと金糸雀が翡翠に突きつけたおかげで、孔雀はポッカリ空いた時間は、よく緋連雀の絵の稽古に付き合わされた。
白鷹は孔雀に金になるからと緋連雀と同じように淡雪から日本画を習わせたがったが、結局、孔雀は戦禍で崩壊状態だった聖堂の修復を手掛けていた鷂を手伝う内に油彩やテンペラ絵画の方が気に入ってしまったのだが。
淡雪はここ二年ばかり宮城には顔を出していなかったが、アカデミーで会った教授たちはよく旅先で会ったと孔雀に言っていたのに。
タシオニは淡雪が描いたという珍獣の絵をいくつも飾っていて見せてくれた。
「お元気でらしたならよろしかった。淡雪先生、またスケッチ旅行に行かれたの?」
もともと放浪癖のある彼は、季節の変わり目にふらっとどこかに行ってしまうことが多かった。
「・・・とっくに死んだわよ。宮城には知られてなかったのね。ふふ、総家令を出し抜いたと喜ぶべきね」
孔雀は驚いて真鶴を見上げた。
「・・・そうでしたか。・・・翡翠様も千鳥お兄様も梟お兄様も、緋連雀お姉様も悲しむでしょうね・・・」
総家令になって以来、数人の姉弟子と兄弟子を亡くして見送ってきたが、やはり身近な人の死を聞くのは悲しかった。
真鶴は孔雀の頬を突っついた。
「淡雪の家の方が棕櫚家よりちょっと真面目ね。ちゃんと自分達の出自を覚えて伝えていたようよ。だから、淡雪《あわゆき》はあんたの事は知ってた。なんとも不思議な縁だよねって喜んでたわ」
真鶴としては驚くべき事だが、ならば同じ志を持って反体制組織を等と思わないのが、あの男だった。
縁とか運とか、そういうたった一言で、怨念のような出来事もさらっと片付ける。
不幸に執着しないたちなのは、この妹弟子と似ている。
だから自分は、ここでこうして今いるのだから。
皇帝である実の兄に家臣とも言えぬ家令に堕とされ、さらに反旗を翻してみたものの脅しつけられて、引き下がった。半身と望んだ孔雀は奪われた。
これが不幸でなくてなんなのだと、淡雪に当たり散らしたものだ。
しかし、彼は、そういう巡り合わせだったんじゃないの、運命だっていうならまた会えるよ、とそんなのんびりした事で誤魔化されたのだとずっと思っていた。だが、違うのだ。彼は信じていたのだ。
そして今、自分はまたこうして孔雀と会っている。
運だの、縁だの、運命だの。
科学者の自分には、全く以って妄想か病気だとしか思えないものを信じそうになる。
「そうですね。思い続けていればそれも縁になるといいますものねえ」
こっちもこの調子なのだから。
「・・・さあ。じゃあ、ここからが本題。お前の身の振り方よ」
孔雀は頷いた。
しかし、と身を乗り出す。
「・・・真鶴お姉様。まずは一つ恨み言を申し上げていいですか。・・・お姉様が出て行ってしまってから、家庭崩壊もいいとこ。鸚鵡お兄様は呑んだくれて、結局左遷。雉鳩お兄様も金糸雀お姉様も緋連雀お姉様もガーデンに帰って来なくなってしまってすっかりグレてしまったのよ。大嘴お兄様と私は、まともなご飯も食べれずしばらく困ったの。白鴎お兄様と金糸雀お兄様は、お言いつけ通り派手な結婚式を挙げてはみたけれど、ひと月もしないで離婚よ」
一気に言われて、真鶴は怯んだ。
白鷹が子供の世話等するわけがないとは分かっていたし、宮城を放逐されていた世代も外部組織でも立場作りに忙しくガーデンへ子守には行けない。
それは確かに、心配ではあったのだ。
「・・・でも、でもね。もともと翡翠が悪いのよ。お前を大神官にして神殿に閉じ込めるとか言うのだもの。だから私・・・」
「それでもいいとなんでもいいと言ったじゃない。真鶴お姉様、私、こどもだったけど・・・。こどもなりに・・・」
真鶴は珍しく狼狽えた。
喜びも痛みも、あなたからじゃなきゃ嫌、とそう孔雀《くじゃく》は言ったのに。
だから孔雀は待っていたのだ。
翡翠が梟に伴われてガーデンにやって来る時、白鷹は孔雀にこう言い含めたのだ。
「・・・お前はゆっくり大人にしてやりたいと思っていたけれど。・・・事情が変わって、特急で大人の家令に仕上げなくちゃならなくなっちゃった。こうなったら、どうにかしてやって行かなくちゃ。・・・今時、虐待だよねえ。でもねえ、そうしたのは真鶴なんだもの。それでもお前、そんなに真鶴を見つけたいなら、これから来る男に気に入られな」と。
「そんなの無理、雉鳩お兄様や緋連雀お姉様でもあるまいし」とまた泣きべそをかく孔雀に、白鷹はまた慰めの代わりに甘いものが盛られた菓子器をどんと目の前に置いて、笑ったのだ。
「何言ってんだよ。あの真鶴をたらしこんだの、お前じゃないか」。
そして、白鷹は、さあがんばりな!と激励をして。
だから、孔雀は、初めて会う翡翠を見上げて、微笑んでみたのだ。
そして、今や、寵姫宰相とまで揶揄されるようになった。
確かに、白鷹の言う通り、真鶴をこうして見つけた。きっと遠くにいるであろう真鶴が自分を見失わないように。そう思って、積み上げて来たのだ。
遠く離れた探していた星を今こうして見つけたけれど。
けれど。
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