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3.コットンフラワーと焼き菓子
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「・・・常務さん・・・ちょっと・・・ねぇ、小松川さん!」
送って行くと言われて、小松川に連行された。
自分の手荷物も全部持ち去られてしまっていた。
「いいって!ホント大丈夫だから・・・、ねぇ、悠さん!」
「どこがですか!?食事何を食べたか聞かれて、アイスとアイスコーヒーの人が?」
「・・・スイカとカステラと梅と塩飴も食べました・・・」
桃はさっき食べたばかりの救援物資を思い出しながら言ったが、彼は全く話にならないと言うように桃を見た。
小松川悠。
彼は、実はいわゆる腹違いの弟だ。
彼の父と自分の母との間に、結婚せずに生まれたのが自分。
両親が学生時代の話。
一昔前は、私生児とか婚外子と表現され、今は非嫡出児、と言うらしい。
その数年後、父は彼の母に当たる女性と正式に結婚して、彼が産まれたと言う事だ。
「・・・ねぇ、ホント!大丈夫なんだってー・・・あれよ、今時期の風物詩みたいなものよ」
確かに毎年この時期、社内では、夏場に何度か熱中症で行き倒れるオルソン博士にお供えに行くという案件が浮上している。
寒い国から来たからあの人暑いのが苦手なんだろうね、と言うあっさりとした受容でもって。
「・・・ハム太郎、じゃない・・・えーと、藤枝本部長も、去年もスポーツドリンクくれてね。そしたら治ったし。やっぱすごいねスポドリ。あと梅」
いかに効能があったか説明しても、しかし、遥は同意しない。
こうなると彼は頑固だ。
桃は観念した。
「・・・分かった。じゃあ、どうぞ、お願い致します。・・・でも遅くなっちゃったから、コンビニ寄って。猫がいるの。お土産買って帰るから」
そう言うと、悠がやっとこちらを見て頷いた。
悠は車内で静かになった桃を見た。
また血圧が下がったのか、すんなり寝てしまった。
体調不良に間違いない。
どこが大丈夫なのやら。
まあ、それなら家に連れて行こうと思った。
途中立ち寄ったコンビニでは、普段アイスとアイスコーヒーが食事の人間が、カツオだマグロだチキンだと猫の餌を買い込んでいたのはおかしかった。
そのくらいの情熱を持って魚や肉を食えばいいのに。
しかし、腹が減っては猫が死ぬ、猫が死ぬと心配していたから、さて。
悠は桃の奇妙な柄のどでかいバッグを探った。
悠は桃のバッグから取り出した鍵を使い部屋に入ると、まずは懸念の猫を探した。
他人の自宅とは、どこも特有の匂いがするものだが、ここも不思議な匂いがする。
桃が好きなコットンフラワーのルームフレグランス。
これは変わらないなあと懐かしく思う。
外干しの洗濯物みたいな匂いと言って桃は好んでいるが、一般的にはリネンやホワイトムスクのような香りだと言われている。
それから何か甘い焼き菓子の匂いがするな、と悠は思った。
桃の好きなものばかりの部屋は、彼女の頭の中に入ったかのようだ。
縦に横に積み重なった専門書、PCが3台。
不思議なキャラクターのぬいぐるみ。
キッチンのカウンターに、全国の銘菓の空箱が山積みだった。
記念に取ってあるらしく、北海道から順に並んでいる。
・・・やっぱり、こんなものばかり食っているようだ。
もしやと思って冷凍庫を開けると、アイスが隙間無く入っていた。
・・・やはりこれが夏の主食か。
悠はため息をついた。
しかし、猫なんて居ない。
知らない足音に警戒して姿を隠してしまったのか。
少し戸惑いながら寝室に入った。
きらりと何かが光ったのに悠は驚いた。
弦楽器のような高く張りのある細い声がした。
首元にブルーグリーンのスェードのリボンをつけた黒猫が悠を見上げていた。
「・・・驚かせたね。・・・桃さんがね、ちょっと具合悪いんだ。君を心配してたから、一緒に来てくれるかな?」
悠はそう言って猫を抱き上げた。
腕の中の黒猫の滑らかな毛並みから、コットンフラワーと焼き菓子の匂いがした。
送って行くと言われて、小松川に連行された。
自分の手荷物も全部持ち去られてしまっていた。
「いいって!ホント大丈夫だから・・・、ねぇ、悠さん!」
「どこがですか!?食事何を食べたか聞かれて、アイスとアイスコーヒーの人が?」
「・・・スイカとカステラと梅と塩飴も食べました・・・」
桃はさっき食べたばかりの救援物資を思い出しながら言ったが、彼は全く話にならないと言うように桃を見た。
小松川悠。
彼は、実はいわゆる腹違いの弟だ。
彼の父と自分の母との間に、結婚せずに生まれたのが自分。
両親が学生時代の話。
一昔前は、私生児とか婚外子と表現され、今は非嫡出児、と言うらしい。
その数年後、父は彼の母に当たる女性と正式に結婚して、彼が産まれたと言う事だ。
「・・・ねぇ、ホント!大丈夫なんだってー・・・あれよ、今時期の風物詩みたいなものよ」
確かに毎年この時期、社内では、夏場に何度か熱中症で行き倒れるオルソン博士にお供えに行くという案件が浮上している。
寒い国から来たからあの人暑いのが苦手なんだろうね、と言うあっさりとした受容でもって。
「・・・ハム太郎、じゃない・・・えーと、藤枝本部長も、去年もスポーツドリンクくれてね。そしたら治ったし。やっぱすごいねスポドリ。あと梅」
いかに効能があったか説明しても、しかし、遥は同意しない。
こうなると彼は頑固だ。
桃は観念した。
「・・・分かった。じゃあ、どうぞ、お願い致します。・・・でも遅くなっちゃったから、コンビニ寄って。猫がいるの。お土産買って帰るから」
そう言うと、悠がやっとこちらを見て頷いた。
悠は車内で静かになった桃を見た。
また血圧が下がったのか、すんなり寝てしまった。
体調不良に間違いない。
どこが大丈夫なのやら。
まあ、それなら家に連れて行こうと思った。
途中立ち寄ったコンビニでは、普段アイスとアイスコーヒーが食事の人間が、カツオだマグロだチキンだと猫の餌を買い込んでいたのはおかしかった。
そのくらいの情熱を持って魚や肉を食えばいいのに。
しかし、腹が減っては猫が死ぬ、猫が死ぬと心配していたから、さて。
悠は桃の奇妙な柄のどでかいバッグを探った。
悠は桃のバッグから取り出した鍵を使い部屋に入ると、まずは懸念の猫を探した。
他人の自宅とは、どこも特有の匂いがするものだが、ここも不思議な匂いがする。
桃が好きなコットンフラワーのルームフレグランス。
これは変わらないなあと懐かしく思う。
外干しの洗濯物みたいな匂いと言って桃は好んでいるが、一般的にはリネンやホワイトムスクのような香りだと言われている。
それから何か甘い焼き菓子の匂いがするな、と悠は思った。
桃の好きなものばかりの部屋は、彼女の頭の中に入ったかのようだ。
縦に横に積み重なった専門書、PCが3台。
不思議なキャラクターのぬいぐるみ。
キッチンのカウンターに、全国の銘菓の空箱が山積みだった。
記念に取ってあるらしく、北海道から順に並んでいる。
・・・やっぱり、こんなものばかり食っているようだ。
もしやと思って冷凍庫を開けると、アイスが隙間無く入っていた。
・・・やはりこれが夏の主食か。
悠はため息をついた。
しかし、猫なんて居ない。
知らない足音に警戒して姿を隠してしまったのか。
少し戸惑いながら寝室に入った。
きらりと何かが光ったのに悠は驚いた。
弦楽器のような高く張りのある細い声がした。
首元にブルーグリーンのスェードのリボンをつけた黒猫が悠を見上げていた。
「・・・驚かせたね。・・・桃さんがね、ちょっと具合悪いんだ。君を心配してたから、一緒に来てくれるかな?」
悠はそう言って猫を抱き上げた。
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