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序章
第二節 第三項 路地裏の出会い
しおりを挟むエミリオ達が向かったのは、駅の向かいにある細い路地だった。
「確かにここに入っていったはずだけど……」
「私も見ていたから間違いないわ。とにかく探しましょう」
路地の入口で周囲を見渡していたエミリオに、少し遅れてたどり着いたセシリーが答える。
「奥深くに入り込む前に見つけないとな」
二人は互いに頷いて路地裏に踏み込んだ。
数分前、二人は辺りと地図を頻りに見比べながら路地に入っていく金髪の少年を見かけたのだ。その少年はエミリオと同じ真新しい青い制服を着ていた。また、地図を広げながら歩いていたことからタルバーンに土地勘のない学院の新入生であると推察できる。
この辺りは細い路地一本入ると途端に迷路のような入り組んだ構造になっていて、慣れないとすぐさま方角を見失い現在位置が分からなくなる。加えて、不良の溜まり場もあって、タルバーンの住民もほとんど立ち入らない。二人は住民ですらない為、路地に入ったことは数える程しかない。
「俺達まで迷わないうちにさっさと見つけないとな」
「ええ、まだそう遠くには行っていないはずよ」
程なく、二人は探していた少年を見つけた。三叉路を前にして地図を睨んでいる。正面からよく見れば、その瞳が潤んでいることも分かっただろう。
「いた、おーい!」
「──っ!?」
エミリオの声に少年はびくりと肩を跳ねさせて、恐る恐ると振り向いた。少し長めのさらさらとした金髪に幼い顔立ちの華奢な少年だった。眼鏡越しの藍色の瞳は不安げに揺れていたが、二人の服装を見てあからさまに安堵した。
「あ……! もしかして、君達も学院の新入生?」
「ああ、そうだよ。悪いけどここは長居できるところじゃないから早く大通りに戻ろう」
「う、うん、わかった!」
自己紹介もせずに三人は来た道を引き返して行った。
***
「はあぁ、助かったよ」
駅前の大通りに戻り、手近な喫茶店に腰を落ち着けたところで、金髪の少年は溜息と共にそう言った。
「大通りの人混みに流されそうだったから、抜け道がないかと思って路地裏に入ってみたけど、迷路みたいになってるし、恐そうなお兄さん達がいるしで戻ろうとしたときには迷ってて……もうどうなることかと思ったよ……」
と、事の経緯を話してくれた。消沈した様子の少年にエミリオは苦笑した。
「それは災難だったな。あの辺りはそういう理由で地元民もあまり立ち入らないんだ」
「あ、やっぱり? どおりで誰も入って行ってなかった訳だよ……」
「でも、無事で安心したわ」
「うん、ありがとう。本当に助かったよ」
少年が改めて二人に礼を言ったところで、ウェイトレスがオーダーした軽食を持ってきた。
「そう言えば、自己紹介がまだだったね。僕は科学科のコリン・ストレイヤっていうんだ。よろしくね」
自己紹介もせずに話し込んでいたことを思い出して少年、コリンが名乗った。
「俺はエミリオ、エミリオ・マクスウェル。俺は戦術科で、こっちが魔法科の」
「セシリー・マクスウェルよ。私がマクスウェルの養子で、もう5年になるわね」
二人が流れるように同じ姓を名乗るとコリンは目を瞬かせ、説明をすると続いて理解を示した。こういった反応はもう見慣れたものだ。
「……仲が良さそうだったから、てっきり幼馴染みか何かかと思ってたよ」
「まあ、普通はそう思うよな。別に大した事情とかはないから気を使う必要はないぞ」
容姿などは然程珍しいものではないが、様々な事情を想像して腫れ物の様な扱いを受けることはままある。それを避けるために、軽い調子でそう言えば丸く収まることも経験則だ。コリンも例に漏れず話に乗ってくれた。
「そっか、わかった。それじゃ、改めてよろしくね」
それから三人は大通りの混雑が落ち着いた頃を見計らって共に学院に向かった。
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